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かつての同僚との戦闘、そして知らされる鬼畜の所業


 ハレードの投げ捨てた1枚の紙は〝召喚用〟の転移魔道具であった。その紙に描かれている魔法陣がまるで星のような眩い煌めきで場を照らし、その光が収まると魔法陣を通して彼女の呼び寄せたモンスターがファル達の前にその姿を現す。

 いや、モンスターと言う表現をするには呼び出された〝生き物〟は悍まし過ぎるフォルムをしていた。


 大柄の巨体に加え全身はまるで生物が腐ったような色をしておりスライムの様にブヨブヨと肉が揺れ動いている。更に一際不気味なのはそのモンスターの全身にいくつも〝人間と思しき顔〟が張り付いているのだ。


 「気持ち悪、何それ?」


 「あなたの相手を務める私のペットですよ。見た目は確かにかなりグロテスクですが戦闘力は――超一級品ですよ」


 ハレードが口を閉じると同時、もう既に複数の顔を持つ異形はファルの眼前にまで迫っていた。


 「ッ!?」


 その巨体に似つかわしくない予想を何倍も上回る速度に流石のファルも反応がコンマ1秒遅れてしまう。 

 即座に剣を盾の様に構え捻じ込まれた拳を防ぐがその衝撃でファルの体は一気に宙高くまで吹き飛んでしまう。


 「グあがガガあああアああアがァッ!!!」


 異形の体中に張り付いているすべての顔面の口からは断末魔のような絶叫が迸る。そしてそのまま地獄のような雄叫びと共に異形は吹き飛んだファルに向かってスタートを切る。そのスピードは先程よりも更に速くファルの浮遊している体が地面に着地するよりも先に上空に移動し追いつかれてしまう。


 「(コイツ、速すぎ……)」


 さらに速度が加速して上、吹き飛んだ体勢が悪く次の振り下ろされた一撃はまともに喰らう事となってしまう。


 「うギヤあああアあアアああああッ!!!」


 「ぐむっ!?」


 異形は両腕を頭上で組むとそのままハンマーの様にファルの腹部へと叩き込んだ。

 まるで腹部が爆発したかのような衝撃であのファルの口から血の塊が吐き出された。そのままファルの体は地面へと垂直落下し激突、床に巨大なクレーターを作り出す。


 そのまま上空から地上に降下した異形は地面に激突しているファルの上に両足から着地する。

 

 「ガッパッ!!」


 勢いよく上空から巨大な両足で踏みつけられたファルの口からは先程よりも多くの血が吐きだされる。

 常人を遥かの超越するファルの肉体だが彼を踏みつけるこの異形の肉体もまた常軌を逸した硬度を誇っていた。先程まで今にも溶けだしそうなその肉体は引き締まり鋼鉄をも上回る硬度となっているのだ。

 そのままその異形は奇声を上げながら足元で倒れているファルを何度も踏みつける。足を上げてはまるで憎しみを晴らすかのように勢いよく下ろす。


 「うぅ……」


 「い、いやぁ……」


 遠巻きでその光景を見ていた子供達は全員が顔を隠して目を背ける。

 部屋の中で人間の肉を踏みつける反響音に子供達はもう耐え切れずアマダに抱き着いて目を背ける。


 あ……あんな怪物に何度も踏みつけられて……あれじゃもう原型すら留めていないんじゃ……。


 子供達を抱き寄せながらもアマダもまた凄惨な場面に耐え切れず目を逸らす。


 その一方でハレードはエル達と攻防を繰り広げていた。


 「その怪我でよくもまぁ動きますね。流石は元支部長と言ったところでしょうか」


 「だまっ、れぇ!!」


 ハレードの繰り出す魔法を躱しながらエルが口に溜まった血を吐き出す。

 もうファルとの激闘で既に死に体の一歩手前である彼女は防戦一方になるのも無理はないだろう。


 「このっ、エルの近寄るんじゃないわよ!!」


 だが相手はエルだけではない。ここには【ディアブロ】で発展に何度も貢献して来た〝スキル持ち〟の猛者も居るのだ。

 自分の相棒である鎌をキリシャが振るうと同時、ハレードの頬に赤い線が刻まれる。


 「ぐっ、相変わらず面倒なスキルねですねあなたの《斬撃結果》は!!」


 キリシャの持つスキルの能力は切り裂いた事実だけを相手に与える力でありその斬撃の射程圏は目の届く範囲全てだ。

 だがこのスキルの弱点は切り裂くべき対象を視界に留めておかなければならない。つまり視線を切ってしまえこの斬撃を避ける事も容易いと言う事だ。


 自分の姿を捉えさせぬようハレードは自分の眼前に氷で作られた巨壁を作り出し姿を隠す。


 「くっ、視界が遮られたわ!!」


 標的を見失い僅かに焦るキリシャだが背後からサオールによるアシストが入る。


 「焦るなキリシャ、俺にはヤツの心の声が聴こえるっス!! 氷壁を飛び越えて距離を縮める気だ!!」


 「ナイスアシストよサオール! そこだぁ!!」


 「ぐっ、コイツ等……!」


 サオールの言った通りに自身で作り出した氷の壁を乗り越え上から攻めようとしていたハレードだが心を読まれ作戦を看破されてしまう。

 再びキリシャのスキルによる見えない斬撃により肩を微かに切り裂かれ血液が氷壁に付着した。


 「まったく、敵に回すと厄介な物ですね。スキル所持者の力と言うものは。流石は希少種とでも褒めておきますよ」


 忌々しそうなセリフを吐くハレードだがその表情には未だに余裕が見て取れた。

 ここまでの戦闘で優勢なのは自分達の方だと思っているキリシャはこの状況でも未だに余裕を持つ彼女の態度に違和感を覚える。

 だが相手の心の声を読み取れるサオールはその理由を既に見抜いている。当然この次に彼女の取る行動も読んでおり、隣に居るキリシャに気を引き締める様に促した。


 「気を付けた方がいいっスよ。どうやらアイツまだあの化け物を呼び出すみたいっス」


 離れた位置で未だに陥没した地面の中央に居るファルを踏みつけているバケモノを見ながらサオールが呟いた。そして予定調和と言わんばかりにハレードは更に〝3枚〟の召喚用の転移魔道具の紙を指に挟んでヒラヒラと見せびらかす。


 「嘘でしょ、あの怪物を更に3体も増やすつもり」


 「ふふ、一気に形成を逆転させましょうか」


 もしもあの化け物が3体も追加されようものなら戦況は一転してしまうだろう。

 しかしこの時にファルを殴打し続けている怪物にチラリと視線をハレードは送る。その時の彼女の心の声を読み取ったサオールは思わず大声で彼女を非難していた。


 「お前……そこまでするっスかぁ!!」


 「あら聴かれちゃいましたか。ええそうです、その為にそこの子供達を連れ去るのですよ」


 「この……鬼畜が……」


 邪悪な笑みを向けるハレードと青ざめた顔をするサオール。

 サオールとは違い相手の心の声を読み取る力がないエルとキリシャは事態が呑み込めず彼にどんな心の声を聴き取ったのか問う。


 その問いに対してサオールは振り絞るように呟いた。


 「アイツがあのバケモノを見ながら心の中でこう囁いていたっス。もう間も無くあそこの子供達もあの怪物に生まれ変わる宿命だと……つまり……あの異形の正体は――幼子達を何人も合成させて作り出したキメラと言うことっス」


 もはや心を欠落した者の鬼畜の所業にハレードは加担していたのだ。


 目の前で歪な笑みを浮かべるハレードに気を取られエル達は気付けなかった。背後で奇声を上げるキメラの全て顔からは涙が零れており、その目はまるで殺してほしいと言わんばかりに訴えていたその悲しき事実に……。



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