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闇ギルドを狩る闇ギルド


 「お姉ちゃん達をいじめるなぁぁぁ!!」


 「なんだ?」


 いきなり響き渡る拙い叫び声に思わず怪訝そうな顔を浮かべるファル。

 よく注視してみると新たな乱入者であるサオールとキリシャの背後には大勢の子供達が居たのだ。


 「ちょっ、出てきたら駄目っスよ!!」


 「あなた達は下がってなさいな!!」


 臨戦態勢に入っていたサオール達も後ろで騒いでいる子供達の行動は予想外だったようで少し慌てる。

 騒いでいる子供達を下がらせようとサオールとキリシャは二人揃って自分から視線を切っている。


 「(隙だらけ。今なら、殺れる)」


 命がけの戦闘に置いて相手から目線を切る行為はファルからすれば自殺行為そのものと言えるだろう。

 本来であればこの隙を付き攻撃に移るところではあるのだが、流石に彼としてもあの子供達の乱入は想定外だった為にひとまず様子を伺う事にする。

 彼が手出しせず様子を伺う、それは決して子供達を想っての行動などではない。突如として現れたあの子供連中はハッキリ言って得体が知れなさすぎる。もしかしたら自分の油断を誘う為の策略なのではないかと自分のリスク回避の為に深読みしているだけだ。


 そう、どこまでも自分のために過ぎない……。


 それに気になるのは子供の群れの中に1人だけ明らかに成人している紫髪の女性が混じっているのだ。様子を伺っていると騒ぎ立てている子供達をその紫髪の女性が諫めようと声を発っしていた。


 「こらあなた達やめなさい! 危ないから下がっているのよ!」


 子供達と共に現れた女性はどうにかして子供達を安全な場所に誘導しようとするが子供達の興奮は収まらず、あろうことかファルに噛みつきだす。


 「この人達は僕たちを助けてくれたんだ! そんな人達を傷つけるな!」

 

 「あっち行ってよバカぁ!!」


 敵対心をむき出しにしてファルに噛みつく子供達に思わずエルが血反吐を吐きながら叫ぶ。


 「よさないか! ごふっ……サオール、キリシャ!! 私が時間を稼ぐ、だからユーリと子供達を引き連れてこのギルドを脱出しろ!!」


 もう本来なら限界をとうに迎えている体に鞭を打ってファルの前にエルが立ちはだかる。その少し離れた背後ではユーリが出血の多さからもう意識を失っていた。

 当然だが時間稼ぎに努めようとするエルに対してキリシャが何を馬鹿なことをと口を開く。


 「時間稼ぎなら私がするわ! あなたこそユーリや子供達と一緒に逃げなさい!!」


 「(なんだ、気分悪い。まるでこっち、悪者)」


 相手は元とは言えあの【ディアブロ】の人間達だ。裏社会で伝説とまでなっていた大悪党達を殺したところで本来なら咎められる事はないだろう。しかしこの子供達にとって彼女達は〝救世主〟なのだ。


 未だに自分を憎々しく睨みつけながら騒ぎ立てるガキ達を前にファルから戦闘意欲が失せかける。

 別に子供達の前で手を出しにくい訳ではない。だがこうまでガキの群れに自分を悪党扱いされるとやる気も失せてしまう。


 誰かのこの状況を説明してほしいものだと内心で不満を漏らしているとサオールが突如として語り掛けて来た。


 「おいアンタもうここまでで手を引くっス! アンタのギルド【ファーミリ】から与えられた任務はこの闇ギルド【チェーン】の壊滅でしょ! 俺達も目的は一緒っス! この子供たちはこのギルドの人身売買目的で攫われていた一般人っス!! この子達は関係ないっス!!」


 「(コイツ、どうして知っている? 俺の所属しているギルドを……)」


 相手の話に真面目に耳を傾ける気などさらさらなかったファルであるがサオールが自分の与えられた依頼内容、更には所属しているギルドまでズバリ言い当てた事で訝しむような表情をする。

 そして彼の言葉に驚きを表したのは仲間であるエルも同様であった。


 「なっ……【ファーミリ】は確か正規ギルドのはず。ではコイツは正規ギルドから派遣された冒険者だと言うのか?」


 霞みつつある意識を保ち改めてファルを観察するエルであるが正直信じられなかった。目の前の青年の瞳には一切の温情は宿らず冷酷そのもの。こんな誰にも無関心の彼が〝表の住人〟とはとても信じられない、だが……サオールが彼を正規ギルドの人間だと言うのなら疑う事は出来ない。相手の心の声が〝聴こえる〟彼が言うのならば……。


 エルを庇うかのように彼女の前まで移動してサオールはファルに言葉を投げる。


 「俺には相手の心の声を聴くスキルがあるっス。アンタの心の声を聴いてアンタの狙いがこの闇ギルド【チェーン】の壊滅だと言う事も知ったっス。いいっスか、俺達は確かに闇ギルドの人間っスけど【チェーン】の一員ではないっス」


 「だったら、お前達、何故このギルドに居る?」


 自分の素性と目的を見抜いた理由に関してはどうやらあのサオールとか呼ばれている男の〝スキル〟の能力によるものらしい。だがこちらは彼等が何の目的でこのギルドに居るのか分かっていない。そのことに付いて尋ねるとエルが代表して答える。


 「私達は【ダークネス】と呼ばれる少数人数で結成されているギルドだ。確かに私達は闇ギルドではあるがこの【チェーン】に足を運んだ理由はこのギルド壊滅のためだ」


 「先に手を出したこっちからこんな事を言うのもおかしな話かもしれなっスけどお互いに同じ目的ならばこの争いはここで納められないっスか?」


 エルの口から出て来たギルド名はファルも耳にしたことがあった。

 そのギルドは【ディアブロ】崩壊後に裏の住人達の間で囁かれるようになった。表の世界の住人以上に裏の住人達の間で話題となった理由、それは【ダークネス】は闇ギルドでありながら同じ闇ギルドを狩る存在だったからだ。

 闇ギルドの頂点に君臨していた【ディアブロ】が崩壊して以降、エルを筆頭に組織に心からの忠誠心を抱いていなかった者達は【ディアブロ】の立て直しをする事なく離反して自分達で新たにこのギルドを結成したのだ。


 今回エル達がこの【チェーン】を襲撃した理由もこのギルドの壊滅目的であり狙いはファルと同じだった。その際にこのギルドで行われていた人身売買の為に商品として閉じ込められていた子供達を助け出したのだ。だからこそ子供達にとって【ダークネス】は正義の味方のような存在だった。

 最初に攻撃を仕掛けたエルはこのファル・ブレーンの纏う雰囲気からここのギルドの一員と早とちりしてしまったが心の読めるサオールは即座に事情を察し、ここでお互いに矛を収める事を提案する。


 だが残念ながらその声はファルには届かなかった。


 「関係ない、どのみち闇ギルド、ここで死ね」


 バッサリとそう斬り捨てるとファルの立っている周辺の空気の温度が下がる。

 今まで騒いでいた子供達はその殺気に当てられて全員が一瞬で口をつぐんでしまう。中には怖ろしさから涙を零して泣いている子まで居た。

 

 「どうやら説得は通じないみたいっスよ。もう心の中が〝殺意〟で満たされている……」


 相手の心の声を読み取れるサオールはもう説得は不可能だと告げる。その言葉にキリシャとエルも武器を構えて命がけの戦闘を覚悟する。


 だがそんな闘気と殺気に満ちた中に無謀にも飛び込んで行く1人の女性が居た。


 「待ってください! どうか、どうかこの方達をこれ以上傷つけないでください!!」


 目尻に涙を浮かべながら飛び込んで来たのは子供達と一緒に居た紫髪の女性だった。

 


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