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圧倒的な実力差 


 突如として飛び込んで来た〝竜の腕〟を振るってくる少年に対してファルは一瞬の驚きの後に即座に冷静になって襲撃の対応を始める。 


 「僕のご主人に近づいてんじゃねぇぞこのカス野郎がぁぁぁぁ!!!」


 大人しそうな外見とは裏腹に汚い言葉を吐き出しながら乱入者、ユーリ・コロイは更にもう片方の腕も鱗を纏わせた巨腕へと変化してファル目掛けて襲い掛かる。


 「串刺しにしてやるよボケがぁ!!」


 握っていた拳を開き鋭利な爪でファルの肉体を串刺しにしようとユーリが突きを放つ。

 

 「軌道、単純すぎ、カウンター」


 自分の顔面のギリギリまで攻撃を引きつけながらファルは紙一重で回避して見せる。そのまま流れるように自分の握っている愛刀を彼の額へと突き刺そうとする。

 

 「勝負あり、死ね」


 「ばーか、誘い込まれたのはテメェだよ」


 最速の突きで脳を貫こうと剣先をユーリの額のど真ん中へと穿つのだが、その剣先がユーリの皮膚に触れるよりも先にファルの腕に巨大な牙が食い込んでいた。


 「………?」


 ユーリの額に届きそうだった剣先はギリギリの位置で停止する。その理由はファルの剣を握っている腕に『ユーリの腹部から飛び出てきている魔獣の牙』が食い込んで動きを止めたからだった。

 まさか腹の中から魔獣が飛び出してくるとは思わず完全に虚を突かれてしまうファル。


 「グルルルル……!!」


 「さすがに驚いた。まさか、伝説の魔獣、腹から出て来るとは」


 ユーリの腹部から顔を出して自身の腕に牙を突き立てている魔獣はなんと伝説クラスの〝フェンリル〟だったのだ。本来そんじょそこらの魔獣の牙など通さない彼の鋼鉄と言える皮膚を喰い破り肉を抉っているフェンリルはそのまま腕を噛み千切ろうと顎に力を加える。それと連動してユーリも竜化している両腕でファルに襲い掛かる。


 だが次の瞬間だった。蒼色の閃光が走ったと思ったらユーリの両腕からは大量の血飛沫が舞い、そして自分の腹部から飛び出していたフェンリルの首と前脚が切断されて宙を舞っていたのだ。


 「うっ、あああああああッ!?」


 「ユーリ!?」


 ダメージによる体の痺れが取れて動けるようになったエルは辛うじてその瞳で何が起きていたのか理解していた。

 一瞬、本当に一瞬の出来事だった。あの青髪の青年の目の色が変わったと思ったと同時に彼の武器を持っていないもう片方の腕がブレたのだ。その刹那、ユーリの伸ばされた両腕と噛みついているフェンリルの首に蒼く光る線が走っていた。そう――魔力の補強により左手を極限まで強化したファルの手刀が血の雨を降らせたのだ。


 両の腕から走る激痛に思わず視線をファルから切ってしまうユーリにトドメの手刀が落とされる。


 「させるかぁ!!」


 だがそれよりも一手速くエルが足元に転がっていた自分のへし折れた剣の刀身を投擲したのだ。

 

 「邪魔」


 飛んできた刀身を手刀で〝切断〟するがその間にもうエルはユーリの背後まで移動を終えており、そのまま膝をつく彼を抱えて距離を取ろうとする。

 とは言えファルも黙って距離を開かせはしなかった。自身の返り血の付着している愛剣を振るい二人を纏めて切断しようとする。


 「ちいぃぃ!?」


 迫りくる凶刃からユーリを庇うようにエルは彼を抱きしめながら背を向けて跳躍する。


 次の瞬間エルの背中に経験した事がないほどの灼熱感が発生する。

 痛み以上の熱に顔をしかめながらもエルはそのままユーリを抱きしめながら距離を取る。

 

 「大丈夫かユーリ!」


 「うぐっ……う、腕が……それにポチまで……」


 斬りつけられる直前に抱きしめられていたユーリは彼女が背中を切り裂かれた瞬間を目撃していない。それに彼もまた両腕を激しく損傷しており彼女を気に掛ける余裕が無かったのだ。


 「しぶとい、こっちも疲れる」


 どこまでも粘る二人に対してファルはうんざりしたような顔をしながら刀身に付着したエルの血を地面に振り落とす。


 相手はあの【ディアブロ】の元支部長二人がかりだと言うのに優勢なのは完全にファルの方であった。エルとユーリはそれぞれ背中と両腕に甚大なダメージを負っており、特にエルの方は命にかかわる程のダメージが蓄積していた。

 それに対してファルは軽傷そのものだった。フェンリルに牙を突き立てられた腕も出血こそしているが骨までは届いてはいなかったのだ。


 「いい加減、往生しろ」


 大量の出血と共にエルの意識も薄れ始めていた。

 ハッキリ言ってこの【ディアブロ】の幹部二人と言えどもこの竜と人の間に誕生した怪物を止めるには足りなかったのだ。

 もう抵抗する力もほとんど残っていない二人へとファルが今度こそ決着の一撃を刺そうと飛び出そうとするが……。


 「……いい加減にしろ。次から次へと、疲れて来た」


 そう言いながらファルはこのアジトに入ってから一番の心底嫌気の差している表情を露にする。


 彼のめんどくさそうな視線はもう抵抗する気力の無いエルたちでなく、それよりも更に後方から歩み寄って来る新たなお客達に向いていた。


 「やれやれ俺達のリーダーと副リーダーに何してんっスか?」


 「まったく、今日は朝から嫌な予感がしていたのよね」


 奥の通路からやって来た二人は過去にムゲン達【黒の救世主】と激闘を繰り広げた『スキル所持者』のサオール・デュルスとキリシャだった。

 だがファルからすれば手間が増えたと感じるだけで別段脅威には感じない。


 「何人来ても、同じこと」


 そう言ってファルは剣を構えて即座に処理をしようと考えていた。だが連中に向かって踏み込もうとしたその時だった。


 「お姉ちゃん達をいじめるなぁぁぁ!!!」


 この闇ギルドには似つかわしくない小さな子供達の制止の声が響き渡ったのだ。



 

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