ファルVSエル
まるで閃光のような速度で向かって来てその勢いのまま振るわれた一閃を防ぎながらファルは怪訝そうな表情を浮かべる。
「驚いた、まさか【ディアブロ】の幹部、ここで狩るチャンスが得られるとは」
かつて【ディアブロ】の第1支部の支部長を務めていたエル・サディドの登場に一瞬だが動揺を見せるファルだがすぐに元の能面のような表情に戻る。
「ついでだ、ここでその首、獲る」
そう言いながらファルは剣を握る手に力を籠める。すると鍔迫り合いの状態のままエルの体が後方へと押し出されていく。
「ぐっ、なめ、るなぁ!!」
純粋な力では自分が不利と瞬時に理解したエルは真っ向からの力比べを即座に放棄、それどころかあえて脱力して体から力を抜く。
突然押し合っていた相手の力がゼロとなる事でファルの体勢は崩れかけ、勢い余って前のめりとなってしまう。
「勝負は剛力だけで決するものではないわ!!」
そう言いながらエルの斬撃がファルの顔面へと勢いよく横なぎされた。
「なっ……!?」
「まぶいへんだな(不味い剣だな)」
だが彼女の剣がファルの顔面を切り裂く事は無かった。何故なら顔面へと斬りつけられたその刃を彼は〝歯〟で受け止めていたのだ。あまりにも予想外の防ぎ方にエルの表情が引き攣る。
そのままファルは顎に力を加えて鋼で作られている彼女の剣を噛み砕いてしまう。
「不味い剣、そのお返し」
「うぐっ!?」
武器を噛み砕くと同時に魔力を纏った前蹴りを彼女の腹部へと叩き込んだ。
相手もあの【ディアブロ】の支部長を務めていたほどの猛者と言う事もあり即座に防御の体勢へと移行していた。腹を蹴りぬかれる直前に間に同じく魔力で強化した腕をクロスして入れたのだが……。
「(コ、コイツ……体が鋼鉄で出来ているのか!?)」
思わずエルがそう思ってしまうのも無理はないだろう。何しろファルは竜と人との間に誕生したハーフなのだ。竜の持つ頑強な肉体の強靭性を受け継いでいる彼の肉体は〝純粋〟な人間とは比べ物にならない。そんな頑強な肉体を魔力で更に強化しようものならただの蹴りだけでももはや兵器と言えるだろう。
エルは蹴りを防ぐため咄嗟に間に腕を挟み込んで防御に使用したのだが、その際に腕の骨が軋む感覚と痛みが走る。
「一撃防いだだけ。まだまだ、攻め立てる」
そう言いながらファルは凄まじい速度で剣と蹴りを織り交ぜた攻撃を放つ。
斬撃と蹴りの連撃を対応しつつも次第にエルは追い込まれていく。予備の剣で斬撃を防ぎ、そして強化した腕や脚で打撃を防ぐ。
「(ま、不味い。このままではいづれ……クソっ、まさか【チェーン】にこれほどの手練れが居たとは!?)」
まるで暴風のような連撃を捌きながらエルは目の前のファルの存在を予想外に思っていた。事前にこのギルドの戦力の下調べはしていたのだがこの青年の存在だけは彼女にとって想定外だったのだ。だが正確に言えば彼女が相手をしているこのファル・ブレーンはこのギルド【チェーン】の一員ではない。
だが基本的に自分についてファルは語ろうとはしない。会話をする意思が無く、そして邪魔者は誰であろうと消すべきと考え実行に移し、時には同じギルドの人間すら陰で消して来た男だ。そんな自分以外の存在を〝どうでも良い〟と思っている彼の眼はとてもどす暗く光を宿していない。それ故にエルが彼を闇ギルドの一員と間違えてしまうのも無理はないのかもしれなかった。
ファルの強烈すぎる怒涛の攻撃を防ぎ、いなし続けるエルであったが遂にその防御に穴が空く。もう何度受けたのか分からぬほどの予備の剣がとうとうファルの振るうドラゴンキラーの剣によってへし折られてしまったのだ。
「しっ、しまった!?」
これまで斬撃を防いでいた剣が折れて一瞬だがエルに動揺が走る。そのまま彼女の顔面目掛けて蒼色の刀剣から放たれた軌跡が描かれる。
「ぐっ、はぁッ!!」
顔面が切り裂かれる直前に何とか半歩引いて躱す事が出来たエルであったが、続けざまに跳んできた蹴りを防げず腹部を思いっきり蹴りぬかれてしまう。
魔力で全身の強化は施していたがエルは自分の肋骨が2、3本へし折れた体内からの音を聴き取りながら血反吐を吐いた。
「う…あ……!」
「トドメ、地獄に行け」
骨が砕けた激痛は精神で堪えるが肉体の方は麻痺してしまい、自らの意志と反してその場で膝をついてしまう。
そのまま無防備なエルの頭部を割ろうと剣を振り下ろすファルだが、直後に凄まじい怒気を感じ取って攻撃から回避に移行し勢いよく背後に飛びのいた。
――その直後に乱入して来たのは〝竜の腕〟を持つ少年だった。
「僕のご主人に何晒してんだこのクソ野郎がぁぁぁぁぁ!!!」
怒声と共に乱入して来た人物はエルによって救われ彼女を主人と敬う存在、エルと同じく元【ディアブロ】第2支部の支部長であったユーリ・コロイだった。
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