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返り血に塗れるお仕事


 孤高の戦士としてギルド内で呼ばれていた男ファル・ブレーン。そんな彼の価値観と生き方にわずかな変化が訪れた理由、その切っ掛けは一ヶ月前のギルドの掲示板前でファルが依頼を選んでいた時まで遡る。


 【ファーミリ】のギルドの掲示板には今日も多くの仕事が張り出されている。しかしファルが仕事を選ぼうと掲示板の前まで歩み寄ると仕事を吟味していた他の冒険者達は一斉に掲示板からそそくさと離れて行く。

 露骨なまでにファルと言う人間を避ける周りの態度に対して彼は特にリアクションを見せる事はない。その顔にはショックなど微塵も出ず、表情筋は無表情に統一されたままだ。


 彼にとって周囲が自分と言う人間をどのように思うのかは興味が無かった。

 ファル・ブレーンはこのギルドに所属している人間達に関心を持たない。何故なら彼が守りたい場所はこの【ファーミリ】と言うギルドであって冒険者ではない。


 「よし、これにしよう」


 周囲の怯えを含んでいる視線など意にも返さず彼はじっくりと依頼を吟味し終えるとその中でS難易度に指定されている依頼書を手に取った。その依頼書に記載されている依頼内容は『違法ギルド【チェーン】の壊滅』と、ここ最近に急増している闇ギルド関連の仕事であった。


 これまで裏の世界でもっともその名を轟かせていた巨大組織【ディアブロ】の壊滅により傘下のギルドをはじめ多くの闇ギルドの活動が活発となった。それ故に正規ギルドの冒険者達の手も借りるべく正規ギルドにこの手の裏社会撲滅の依頼が一気に増加したのだ。

 とは言え裏の世界と関わりの深い仕事は基仕的に全てが〝A難易度以上〟であり冒険者の中でもその仕事を引き受けられる冒険者はAランクからと限られている。特に今回ファルが受ける依頼はS難易度と彼のような最高ランクの冒険者しか引き受けれないレベルだ。


 だが彼にとっては依頼の難易度も内容もどうでも良い事だ。今日も高額の依頼を適当に見繕って報酬を得る、その程度の認識だ。これまでだってそんな生半可な覚悟でもS難易度の依頼を達成して来たのだ。今回も自分は簡単に終わらせられる、そう思っていた。


 だがどんな一流の実力者だろうが〝失敗〟をしない者などこの世に存在しない。その現実を今回の依頼によってファルは知る事となる。



 ◇◇◇



 闇ギルド【チェーン】は突如として現れた〝複数人〟の敵の対処で完全に大混乱状態と化していた。


 「て、敵襲ぅぅぅ!!」


 「くそ、一体どうなってるんだ!? まさか今攻め込んで来た奴等の〝増援〟か!?」


 目的の闇ギルドへと辿り着いたファルは特に警戒もせず堂々と真正面からギルドへと乗り込んだ。だがギルドの入り口付近にまで足を運ぶとこのギルドの兵隊達が武器を持って応戦して来た。しかしファルは奇妙な違和感を感じていた。 

 その理由は仮にも裏家業である闇ギルドにしては警備が雑だと言う点だった。


 ここまで近づかれてからようやく対応を始めるなんて裏の住人にしてはぬけ過ぎている。それとも……自分の対応をする余裕すらないほどにギルド内では何か起きているのか?


 内心で危機管理の浅さに呆れながらもファルは次々と襲い来る敵達を切り裂いていく。

 まるで命の宿っていない〝物体〟でも切り裂いているかのように人間を次々とドラゴンキラーの剣で分断していく。


 「歯ごたえ無し、正直、期待外れ」


 「ひ、ひいぃぃぃ化け物だァ!!」


 まるで虫でも払いのけるかのように襲い来る兵隊達を目にも止まらぬ剣速で斬り伏していく異次元の戦闘力、そして何より返り血を浴びながらも繭一つ動かさぬ冷酷性にギルドの兵隊達の戦意は喪失され逃亡を始める。


 「クソったれが!! 楽に大金を得れると思ったから正規ギルドから闇ギルドに移籍したんだぞ!! こんな化け物と戦うぐらいならしょぼい稼ぎしか出来なくても表側のギルドで仕事を続けていた方がマシじゃねぇか!!」


 ファルに恐れ戦き逃亡を図る兵隊の1人がそんな発言を漏らしていた。


 【ディアブロ】が消えて闇ギルドの増加に伴い非合法な仕事に手を染める人間はこの2年間で増加していた。裏の世界に堕ちる原因の1つは与えられる報酬の額だった。正規ギルドとは違い非合法の仕事で得られる報酬は表側のギルドと比べるのも馬鹿馬鹿しくなるぐらいに大きな差があるのだ。

 正規ギルドでのモンスターとの命がけの戦いよりも違法な薬物の販売、力の無い貴族などの裕福な層の人間の誘拐など楽な仕事で得られる報酬は破格でありそこに味を占めて泥沼に沈む者も大勢いた。事実このギルド【チェーン】には元々は表側のギルドで仕事をしていた者達も大勢いた。


 とは言えファルにとってそんな事実は心底どうでも良い。誰が闇に堕ちようが何だろうが所詮は〝他人〟なのだから。


 だから相手の命を奪う事にも微塵の躊躇もせずに実行に移せるのだ。


 「た、助けッ!?」


 「見逃してくれぇぇぇぇ!!」


 命乞いをしながら戦意を失い逃げ惑う敵の兵隊達を次々と追いかけながら斬り殺していく。そして入り口付近の敵を皆殺しにした後、彼はそのまま一気にギルドの組織内部へと踏み込む。

 だがギルド内に踏み込むと同時に歴戦の強者であるファルは瞬時に気付く。


 「(……いる、逃げず向かってくる敵が。コイツ…強い……)」


 自分の強さに怖れて逃げて行く兵隊達とは異なり明らかに前方から強い闘気を自分にぶつけてくる敵を肌で察知したファルは一度その場で急停止する。

 そして足を止めるとほぼ同時だった――こちらに向かって金色の髪を靡かせながら1人の女性が斬りかかって来たのだ。


 ――ガギィィィィィィィンッ………!!!


 自分の身体を上下に分断しようとするその刃をファルは自らの愛刀で受け止めて見せる。


 「ほお、私の一撃を真正面から受け止めるか……」


 「驚いた。どうしてお前、ここに居る?」


 自分に斬りかかって来た相手の顔を見てファルは少しばかり驚いて見せた。直接の対面こそはないがファルはこの女性を知っていたからだ。

 何故ならその人物は国々から〝指名手配〟されているあの【ディアブロ】の元支部長の1人を務めていた人物――エル・サディドだったのだから。 

 



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