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竜と対等に話せる女性

今回からファル・ブレーン編がスタートします。ちなみにこの章の次はムゲン達にスポットライトを当てようと思っています。


 冷や汗が止まらない。体の震えが止まってくれない。そして心臓が今にも破裂するのではないかと言うぐらいに大きな鼓動音を鳴り響かせ続ける。

 その原因は自分達を能面のような顔で見つめている目の前の青年の圧力だった。


 蒼く長い綺麗な髪に端正な顔立ち、少し化粧でも施せば女性と見間違えるその姿はとても歴戦の冒険者には見えない。だがそんな華奢な見た目とは真逆に彼の全身から放たれ続ける〝威圧感〟はその容姿とはまるでかけ離れた〝猛者〟としての雰囲気を吹き出し続けている。


 「質問、答えろ。俺の仲間に何した?」


 ゆっくりとファル・ブレーンが口を開いた。大声を張り上げている訳でもなければ決して怒りの形相をしている訳ではない。しかし静かな声に感情が読み取りにくい無表情だからこそ猶更怖ろしく感じる。


 「聴こえない? 質問、答えろ。そいつに何した?」

 

 「あ…あの……」


 このギルドに移籍する前まではモンスターの戦いで多少なりとも恐怖を感じた経験は当然ある。だが目の前の青年と向かい合っているこの状況、ハッキリ言ってこれまで相対して来た凶暴なモンスターなど足元にも及ばない。

 それもそうだろう。何しろ彼らに睨みを利かせているのはモンスターをあっさりと捕食する〝竜〟なのだから。


 「おい、いつまで黙る気だ? これが最後、その女に何をした?」


 この瞬間にこのパーティーのメンバー達は瞬時に理解した。ここで返答をしなければ自分達は間違いなく死ぬと。

 男たちの脳内では全員自分の首が飛ぶ光景が広がる。そしてそのイメージ通りの結末を何としても回避しようと男の1人が正直に質問に答える。いや……助かりたい焦りのあまりに『正直に話し過ぎてしまった』のだ。


 「あはは……そのぉ、あ、あんまりにも綺麗なお嬢さんだったのでちょっと……」


 「ちょっと?」


 「く、口説いていました。あはは……」


 他の連中は何を血迷ったことを口走っていると一斉に睨みつける。

 テンパって喋っている最中は頭が真っ白でつい馬鹿正直に答えてしまった男だがすぐに自分の失言に気付き更に顔面が青く染まる。

 

 気付いた時には男の首には青く光る刃が首元まで添えられていた。


 「な…あ…い、いつの間に……?」


 一体どのタイミングで剣を鞘から抜いて自分の首に刃を押し付けられていたのか分からなかった。あまりにもファルの動きが神速すぎてこの連中レベルでは彼の一連の動作が見えなかったのだ。


 「お前、かなりの命知らず。俺に喧嘩売ってる?」


 冷たい鋼を頸動脈に押し当てられている男はもう涙目となりながらも首を高速で横に振って否定する。恥も外聞も捨て必死に命乞いの言葉を口にしようとするが恐怖のあまりもう声を出せないでいた。


 「(や、ヤバい、このまま黙っていると首を斬られる。で、でも怖ろしくて声が上手く出て来ねぇ……!?)」


 周りの仲間達も同じく唇を震わせる事しか出来ないでいた。そして周辺の野次馬達もまたファルの全身から滲み出ている〝怒気〟に当てられて止めに入れず傍観しているだけだった。


 だがそんな中でただ1人だけ怒れる竜の暴走を止めに入れる人物が居た。


 「駄目ですよファルさん。この剣を鞘に納めてください」


 怒れる竜をそっと諫めたのは男達に絡まれていた紫髪の女性だった。

 首元に刃物を押し付けられている男は頼むからこれ以上この化け物を刺激しないで欲しいと目で訴える。


 「(不用意に横から声なんて掛けんじゃねぇよ! これ以上機嫌を損ねたらマジで俺の命が……!!)」


 しかし男の予想とは裏腹にファルは信じられないぐらいあっさりと彼の首元に添えていた剣を鞘に納めたのだ。


 「私なら大丈夫ですから行きましょう」


 「分かった。お前がそう言うなら、それに従う」


 女性の言葉に素直に従いファルの全身から漏れ出ていた殺意は完全に霧散していきギルド内の重い空気も払拭される。

 竜の逆鱗から解放された男達は安堵のあまり全員が揃って膝から崩れ落ちその場で尻もちを付く。

 だが緊張感が抜けて安心している男達に対してファルは去り際に殺気を叩きつける。


 「次、こいつに手を出したら、確実に殺す。産まれて来たこと、後悔するほど残酷に」


 「もうだから駄目ですってば。ファルさんはすぐ物騒な事を言うんだから」


 濃密な殺気を放つ彼をまるで母親の様に叱りつける女性の姿に周囲の野次馬達は心底肝の強い女だと尊敬の念すら覚えていた。

 ファルと女性の二人がギルドから出て行ったあとに事の成り行きを見守っていた周囲の冒険者達が騒がしくなる。


 「ほんと、あのファル・ブレーン相手にあんな接し方できるなんて凄い女だよな」


 「てゆーか今でも俺は信じられないぜ。あのファルが〝仲間〟を作ったって事実にな」


 「だよなぁ。一体どういう経緯で彼女はあんな怪物とチームを組んだんだろうな?」


 これまで孤高の戦士としてギルド内で怖れられ続けた狂戦士、その彼が〝対等〟に見れる仲間と巡り合えた理由を知る為には少し時間を巻き戻す必要があるだろう。


 そう、ファルが独りで生き続けた人生を変える切っ掛けを掴んだのは今から一ヶ月前まで遡る。



もしこの作品が面白いと少しでも感じてくれたのならばブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。自分の作品を評価されるととても嬉しくモチベーションアップです。

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