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成長する喜び

今回で遂に200話到達しました! 今後もこの作品の応援をよろしくお願いします!! 


 裏切り者のミレイとザクロが【不退の歩み】に加入させて欲しいと懇願してから一週間後、もう【リターン】のギルドではラキルがかつて所属していた【淡紅の一閃】は完全に崩壊してその名は登録名簿から抹消していた。

 どうやらボーグがリーダーのミレイによってパーティーから追放されたらしいのだ。その後は彼は突如ギルドから姿を消して行方不明となってしまった。まぁ仲間を平然と殺そうとしていた男の行方になどラキルをはじめギルドの他の冒険者全ての者にとって心底どうでも良かった。むしろ【リターン】に所属している冒険者の中では膿が排出されたと喜ぶ始末だ。

 

 そして残ったミレイとザクロの二人も何とかチームを立て直そうと奮起していたらしい。だが所詮は我が身優先の二人だ。ものの数日で二人の歯車は全く噛み合わず互いに罵り合う。そうして最後はあっさりとパーティーを解散してそれでお終い。

 そして【淡紅の一閃】が解体されてから二人はどうなったのかと言うと……。


 まずミレイは他のパーティーに奇跡的に加入することが出来た。あれだけ悪評が立っている彼女を引き取るパーティーが存在する事には驚いたがすぐに納得した。


 「おい早くしろよ荷物持ち。もたもたすんなよ」


 「は、はい……」


 ミレイは他のBランクのパーティーに拾われていた。最初はAランクの自分が格下のパーティーにしか誘われない事に不満をいだいていたが贅沢は言えない状況の彼女はそのパーティーの一員となった。だがそこで彼女に与えられた仕事は〝荷物持ち〟と言う不名誉な役職だった。

 当初は何故Aランクの自分がこんな雑用を押し付けられなければいけないのかと怒りをぶつけたミレイに対しこのパーティーの1人である《剣士》の女性からこんな提案をしてきた。


 『そこまで言うなら同じ《剣士》として私と決闘でもしてみる? もし私に勝利できるほどの腕前なら雑用係ではなく正式な仲間として認めて上げる』 


 仮にもAランクの自分が負けるはずがない、そう自信をもって決闘を引き受けた彼女だが結果は惨敗。しかもギルド前の広場で行われたその勝負は大勢の人間に見られてしまったのだ。大勢の人間に醜態を晒した事も大恥だがそれ以上にBランクの《剣士》に手も足も出ず敗北を喫したショックから彼女はまともに剣を振るえなくなってしまった。

 そして彼女が腰を落ち着けられる場所が〝荷物持ち〟と言う雑用係だったのだ。


 「いいか、これからB難易度のモンスター討伐の仕事に出かける。だが断わっておくが荷物持ち、お前は余計な事はすんなよ。所詮お前は非戦闘員なんだからよ」


 「……はい」


 ハリボテのAランク《剣士》はもはや戦闘員とすら見られることなく雑用係として生きて行く事しかできなかった。華やかな冒険者生活から一転してパーティーメンバー達から嘲られる毎日、それが今のミレイの環境となっていた。


 そしてもう1人の落ち目冒険者であるザクロはと言うと既に【リターン】のギルドを辞めてしまっていた。周囲から向けられる白い目に精神が摩耗して限界だったのだろう。もう冒険者として生きて行く事を諦め今は何をしているのか分からない。

 ただ冒険者の1人が偶然入った路地裏で何やら怪しげな雰囲気の男と話し込んでいる様子を見かけたそうだ。


 裏切り者達の忌まわしきパーティー【淡紅の一閃】が完全にギルドからその名を消した事でラキルの中の黒い炎は鎮火されていった。無論連中に対しての恨みの念が完全に消失した訳ではない。憎いと思う気持ちが簡単に消えてくれるのならば苦労など無いのだ。しかしいつまでも恨みに囚われ続ける生き方が自分にとってマイナスである事も事実だ。今の自分には新しい仲間が居るのだから。


 もはや日課となりつつあるセシルとの特訓の最中、彼女からこんな話を投げ掛けられた。


 「それにしても予想通りあなたの元パーティーは完全崩壊したわね」


 「ええ! 所詮は僕のスキルの恩恵で強くなったと勘違いした連中でしたからね!」


 迫りくるセシルの魔法を必死に回避しながらラキルが答える。涼しい顔をしているセシルとは対照的に彼は汗だくとなり必死の形相だ。

 

 「確かにね。でもそれはあなたにも言える事よ。スキルの力無しのあなたの実力はまだまだAランクには程遠いわ」


 「は、はい!」


 魔法の攻撃が頬を掠りながらもラキルは頷く。 

 彼女との戦闘訓練が始まってからラキルの実力は僅かながらも伸びつつあった。まだ特訓を始めた当初は今の様に戦闘中に会話をする余裕すら彼には無かった。だが今は何とか返事をする余裕が出てきている。


 だがそれはまだまだセシルが彼に対して〝加減〟をしているからこそだ。


 「大分今のスピードには慣れてきたようね。なら次の段階に進むわ。ここからは魔法の威力と速度を上げて行くわよ」


 「はいお願いします!!」


 今でさえギリギリの彼では間違いなくさらに上のレベルの攻撃を対処などできないだろう。だが彼の瞳には絶望の色は浮かんではおらず、それどころか今の状況を楽しんでいる様にも見えた。

 僅かではあるが前よりも自分が進んでいる実感、その感覚はラキルにとってはとても〝楽しかった〟のだ。


 「(今はまだ僕は弱すぎる。でも…必ず彼女と同じ高見まで登って見せる!!)」


 決意が宿った瞳の先に映るセシルをしっかりと見つめながらラキルは木剣を握りしめ向かって行く。


 「うおおおおおおお!!」


 「へぇ……随分と良い顔が出来るようになったわね」


 圧倒的な実力差を前に怖気づく事無く立ち向かうラキルの姿にセシルは笑みを漏らす。

 この時に彼女の中では彼に対しての評価が無意識に上がっていた。そして……仲間と共に居る喜びを心の深くから無自覚に喜んでいたのだった。



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