Sランクからのパーティー勧誘
たった今しがたパーティ―をクビになったかと思えば新たなパーティ―からの勧誘。しかも元のパーティーよりも更に上位ランクからのお誘い、この先をどうしたものかと思案していたムゲンからすればこれは嬉しい申し出ではある。本来であれば断るという選択肢はないだろう。
しかしずっと共に戦い続けて来た仲間達からのあまりにも酷い裏切りを受けた直後と言う事もあり彼はどこか警戒心を捨てきれなかった。
「何で俺なんかをメンバーに欲しがるんだ? 言っておくが俺は魔力量も最底辺の無能だぞ」
「ムゲンさんは無能なんかじゃありません!!」
「うおっ、どうした急に!」
自傷気味なセリフを皮肉気に口にした彼だがその言葉は桜色の少女の声に搔き消される。
今までオロオロとしていた彼女だがムゲンの自らを無能と蔑む発言を納得いかないと涙目になりながらも強い眼でこちらを見て否定してきた。
まるで自分のことのように怒りを瞳に灯す彼女の反応にムゲンは当然混乱する。
そもそもどうしてこの二人は自分をパーティーに誘おうとする? ハッキリ言ってSランクの二人からすれば自分など居ても居なくても良いのではないか?
二人の真意が分からず首を傾げているムゲンだが次の瞬間に彼は左へ移動していた。
「……何の真似だ?」
「ははっ、やっぱり躱しやがったな」
いきなり水色の少女がムゲンの腹部へと拳を突き出していたのだ。
彼がもし左へと移動していなければ今頃この鍛えられた拳が深くめり込んでいた事だろう。
「なあお前、自分を無能だって言ったな? でもおかしーな。もしお前が本物の無能なら今の私の一撃を躱すなんてできない筈だけどな?」
そう、ムゲンはSランク冒険者の攻撃を完全に躱してみせたのだ。ハッキリ言って並の冒険者では反応すらできず無抵抗に打ち抜かれている、そんな速度の拳に対応して見せたのだ。
だが彼は彼女に買いかぶりすぎだと吐き捨てる。
「ただの偶然だ。何となく嫌な予感がしたから避けただ……ッ!?」
ムゲンが全てを言い切る前に二発目の拳が彼の腹部に捻じ込まれようとする。その攻撃を今度は避けず反射的に彼は受け止めて見せる。
自分の拳を見事に受け止めた彼を見て彼女はニマニマと嬉しそうに笑った。
「今の拳には魔力を籠めて強化を施していた。仮にもSランクの私の強化した拳を受け止めて置いてまだ偶然だなんて謙遜するか~?」
「……はぁ」
これ以上は誤魔化しが通用しないと悟ったムゲンは諦めた様に呟いた。
「確かに俺は魔力量は低いが魔力操作は長けているみたいでな。肉体強化しかできないがその強化には自信があるんだよ。それに戦闘勘も高いらしい」
彼は確かに魔力の総量は平均以下のため出来る事は他の冒険者と比べて少ないだろう。だが肉体強化の練度は他の冒険者とは比較にならない程に高いのだ。魔力が少なく出来る事が少ない、それ故に彼は肉体強化と言う分野を誰よりも鍛え上げたのだ。
「私の拳を受け止めれるヤツなんてギルド内にも数える程しかいないはずだ。もっと誇っていいぜ、お前は無能なんかじゃないってな」
そう言いながら少女は嬉しそうにムゲンの背中をバシバシと叩く。
何だか先程から感じているのだがこの二人、何だか自分に対して少し馴れ馴れしく思えて仕方がない。確かに同じギルドに登録している者同士とは言えそれだけの関係、少なくともムゲンはこの二人と接点など皆無だった気がするのだが……。
「なあもう一度訊くがどうして俺をメンバーに入れたいんだ? もしかして俺とお前達はどこかで接点があったのか?」
「「はあ……やっぱり憶えてないかぁ……」」
いきなり二人が疲れた様にシンクロして溜息を吐き出した。
「お前はどうやら憶えていないようだけど私とこいつは過去にお前に命を救ってもらった事があるんだよ。ほら憶えてないか? ダンジョンでゴブリンに襲われそうだった二人組の女の子をさ……」
「………ああっ!?」
水色の少女の言葉でしばし考え込むムゲンであったがようやく思い出した。
それはまだ彼がソロ冒険者として活動していた頃、依頼に指定されたモンスターを狩る為にダンジョンへ潜った時にゴブリンの群れに襲われそうな二人の少女を助けた記憶がある。そう確か目の前の二人と同じ髪、桜色の少女と水色の少女だった。
「あの時の泣き虫二人組か!?」
「はう、その節はどうも……」
「だ、誰が泣き虫だ!?」
ようやく思い出したムゲンの言葉に少女達はそれぞれ苦笑を浮かべ、羞恥心から顔を真っ赤に染める。
記憶をよーく思い返してみると確かにあの日にダンジョンで助けた二人の面影がある。
「ようやく思い出したかよ。たく遅いんだよ」
「いやすまない。まさかあの日に助けた二人が今やギルド最高の冒険者になっているなんて考えもしなかったもんだから」
それにあの頃はソロと言うことで味方も居らず生き残る為に自分が強くなることにばかりに目がいっていて自分が助けた人間を深く記憶しておく余裕もなかった。
だがゴブリンに手こずっていた二人が短期間でここまで成長するとは予想外にもほどがあった。
ここで二人はようやく互いに自己紹介を始めた。
桜色の少女はハル・リドナリーと名乗り、水色の少女はソル・ウォーレンと名乗る。
二人の職種はハルは《魔法使い》、ソルは《魔法剣士》らしい。いずれも自分よりもかなり実力のある職種だ。
「まさか昔助けた女の子達が今やギルドの最強の一角であるSランクとは……あれから随分と努力したんだな」
そうムゲンが感慨深く思っているとハルは首を横に振って呟いた。
「私達がここまで強くなれたのはあなたのお陰ですよ」
「それはどう言う事だ?」
「あの時にお前に助けられて強くなろうと決意できたってことさ」
そう言いながら二人の少女はかつての自分達が強くなろうとした日のことを思い返していた。
まだ冒険者となって日が浅く平均を遥かに上回る魔力を持っていても当時は使いこなせなかった二人はゴブリンのような低級モンスターにも苦戦していた。
『はあ…はあ…』
『も、もうダメ…』
ダンジョン内で遭遇したゴブリンの群れに追い込まれ絶体絶命の二人、このままここでゴブリン達に殺されるのだろうか。いや、殺されるだけならまだマシかもしれない。下手をすれば性のはけ口とされるかもしれない。体力も使い果たし逃げることも困難だと悟った恐怖からハルは目の端に涙を溜め、そんな彼女を守るようにソルは彼女を抱きしめながら震える事しか出来ないでいた。
そんな二人の前に颯爽と現れたのは黒髪の同年代の少年であるムゲンであった。
『逃げろお前ら!!』
自分達の盾のように前に立って襲い掛かるゴブリンを次々と拳で打ちぬいて行き宙を舞って行くゴブリン。
初めて出会った赤の他人同然の自分達を必死に守ってくれるその姿に二人はさきほどまでの恐怖は消え、その頼りとなる背中を熱の籠った視線で見つめ続けていた。
ゴブリンを全て退治し終えて場が落ち着くと彼は二人に手を差し伸べてくれた。
『ほら立てるか? もう大丈夫だからな』
そう言いながら自分たちに笑みと共に手を差し向ける心優しい少年にこの二人は憧れを持ち、そして完全に恋に落ちてしまったのだ。
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