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本当に無能だったのは誰なのか?

あと数話でこの章も終了して次の人物達の物語が始動する予定です。できれば早くムゲンやヒロイン達も出したいので。


 「くそっ、アイツ等一体どこで何やってんだ!?」


 酒場から飲んだくれて帰って来たボーグは今は町の中をウロウロと徘徊していた。

 かつては羨望の眼差しをこの町に住んでいる多くの住人から向けられていた彼だが今は侮蔑の籠った視線しか送られなくなった。そんな現実から目を逸らす為に酒に溺れる。ここ最近ではそれが彼の日常生活となりつつあった。


 「宿に戻ってもミレイもザクロも居やしねぇ。留守番も満足にこなせねぇのかよあの女共は!!」


 ボーグがあの二人の行方を捜しているのは決して仲間を心配する心からなどではない。落ち目となった今の自分にはもうあの二人しか言いなりに出来る人間が居ないからだ。

 彼が知るはずもないが二人は恥知らずにもラキルのパーティーに入れて欲しいと頭を下げに向かっている。結局は3人全員は我が身の事しか考えていないのだ。そう言う意味ではこのパーティーはお似合いのメンバーとも取れるのは何とも皮肉なものだ。


 しばらく当てもなく徘徊していると前方から見知った二人を遂に見つけた。


 「おいお前等!! どこほっつき歩いていやがった!!」


 前の方から肩を落としてトボトボと歩いてくるミレイ達を見つけた彼が唾を飛ばしながら喚いた。

 いつもであればここで自分に対してへりくだり頭を下げる二人だが今日は違った。二人はまるで自分の存在など見えていないかのように無視して横を通り抜けようとしたのだ。

 

 この態度にただでさえ今の境遇に苛立っているボーグの怒りが沸騰するのは当然の道理だった。


 「人が心配して捜しに来てやったってのにその態度は何だコラァッ!?」


 ミレイの胸ぐらを掴もうとすると、次の瞬間に頭部に凄まじい衝撃が走った。


 「あ…あ…あ…!?」


 頭部に走る鈍痛の直後に全身に電気が走ったような感覚と共に体がマヒしてその場で倒れ、頭からは少量とはいえ血が滴って地面に落ちる。


 「な…何を……」


 かすかに動く首をザクロの方へと向けると彼女が持っていた魔杖の先端が少し赤く染まっていた。

 

 「もう限界なのよ。これ以上〝無能〟の男に付いていくのは」


 そう言うとザクロは今までの恨みを籠めて倒れているボーグの背中に魔杖を振り下ろしてやった。背中を叩きつけられたボーグの口からは『ぎゃっ』と情けない悲鳴が漏れる。

 その惨めな姿のクズを害虫でも見るかのような眼で睨みつけながらミレイはこれまで積もりに積もった恨みを足蹴りと共にぶつけてやった。


 「こうなったのも全部お前のせいなんだよ!! このパーティーにラキルが不要だとずっと言い続けて私達をその気にさせやがって!! お前こそが真の無能じゃねぇか!!」


 「私達は最初は彼を大事に想っていたけどお前のせいで心変わりしてしまったんだよ!! その結果今の最低評価の烙印を町全体から押し付けられたんだ!! お前こそ【淡紅の一閃】にとっての異物だったんだよ!!」


 「ぎゃっ、がっ、や、やめ!?」


 「「黙れクズが!!」」


 一度解き放たれた彼女達の恨みは収まる気配が見れず、動けないクズ男にありったけの憎しみを気が済むまでぶつけ続けた。

 素面の状態の彼なら反撃できるだろうが酔った状態の上、最初の不意打ちで頭部をぶっ叩かれた彼は無抵抗で二人に蹴られ、踏まれ続けた。


 「はぁ…はぁ…思い知ったかこのゴミ野郎」


 「このパーティーのリーダーとして言わせてもらうわ。今日であんたは【淡紅の一閃】から追放させてもらうわ。ただの極潰し同然のアンタなんて居ない方が遥かにマシよ」


 そう言うと二人は最後に倒れているボーグに向けて唾を吐くとそのまま立ち去っていく。

 全身に靴底の跡を付けてぼろ雑巾となったボーグはその場で受けた痛みと共に彼女達の言葉が耳から離れないでいた。


 ――『無能』


 ――『無能、無能』


 ――『無能、無能、無能、無能、無能』


 違う……俺は無能なんかじゃない。無能なのは俺以外のメンバーに決まっているだろうが……。


 身動きの取れない状態で蹴られ続けながらボーグはあの二人の『無能』と言う言葉が耳から離れないでいた。


 これまで何もかも順調だったはずなのにどうしてこうなった? あの役立たずだと思っていたラキルをダンジョンで殺そうとしたからか? それとも攻撃役であるミレイとザクロが弱かったからか? それとも――自分が奴等の罵ったように〝無能者〟だったからか?


 本当はボーグだって気付いていた。自分達がここまで成り上がれたのはラキルの持つスキルの力であった事実を。だがその事実を認めたくなかったのだ。もしもその真実を認めてしまえば自分達の積み上げて来たと思っていたものは全て偽りだと認めると言う事に他ならない。今の今まで見下していたラキルの背におぶさって調子に乗っていた醜態を受け止めなければならない。それがどうしてもボーグには我慢できなかった。

 だがここまで堕ちれば嫌でも気付かされる。本当に【淡紅の一閃】に必要だった存在は一体誰なのか、そして本当に不要な存在は誰なのかを……とっ、真っ当な人物ならこのように考えれるだろう。だが残念ながら仲間を平然と殺そうとする輩の脳みそなど正常に働くわけもないのだ。当然その辞書に『反省』と言う言葉も載っていない。


 「くそが……許さねぇ……こうなったのも全部ラキルのせいじゃねぇか。そもそもアイツが自分の持っているスキルの恩恵を俺達に付与していた事をちゃんと話していればアイツを殺害してまでパーティーから追い出そうとはしなかったんだ。そうさ……自分の力の説明を怠っていたアイツこそが一番の無能なんだ」


 ボーグの中にはラキルに対しての悔恨など最後まで芽生えなかった。それどころか今の自分の落ちぶれた現状を彼のせいにする八つ当たりを見せる始末だ。そして怒りの矛先はラキル以外の二人にも向けられていた。


 「ミレイとザクロの馬鹿女共もそうだ。俺が今まで何度も盾となって護ってやったのに俺をパーティーから追放だと? 手のひらを返して恩を仇で返すとはこのことじゃねぇか」


 そもそも全ての発端は自分だと言う事を棚に上げてミレイとザクロにも憎悪の炎が燃え移っていく。確かに彼女達も人として終わっているのだが彼だけには二人を非難する資格が無い事にも気付かずに。


 「許さねぇ……いつか……いつかお前達3人に復讐してやるよ。今に…今に見てやがれ……!!」


 痛めつけられた体を引きずりながら血濡れの顔で邪悪に笑みを浮かべる。歯も何本か折れ、唇の端も切れ醜悪な顔面に血のメイクを施して浮かべる笑みはまるでモンスターだった。


 この日以降よりボーグ・ハルボテは消息不明となる。そして少し先の未来でラキルと彼は再び相対する事となるのだった。



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