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常識の欠如した裏切り者達


 「今更よく僕の前におめおめと姿を出せたもんだね。もはやその図々しさには感心すらするよ……」


 セシルと正式なパーティーを組んでもう完全に袂を分かった〝元仲間〟の二人にラキルはありったけの侮蔑の視線を突き刺しながら口を開く。

 彼の視線の先では地面に頭を付けて土下座をするラキルとザクロの二人の姿があった。


 「それで今更話がしたいってどういう意味なの?」


 特訓終わりの帰路の途中で今の自分が生活している宿に戻る道中にこの二人が待ち構えていたのだ。

 この二人の姿を見た途端に一気に気分が最悪となったラキルはそのまま無視して素通りしようと考えていた。だが横を通り抜けようとすると道を遮って二人が土下座をかまして来たのだ。そして頭を下げながら信じがたい要求をしてきたのだ。


 「お願いラキル! 私とザクロをあなたのパーティーに入れて欲しいの!!」


 元幼馴染の口から飛び出て来た言葉に思わず頭の中が真っ白となったのは言うまでもないだろう。一体どんな神経をしていれば自分達が殺そうとした人間のパーティーに入れて欲しいと懇願できるのだろうか? 脳内に寄生虫でも住み着いて脳みそを食い散らかされてスカスカなのではないか?

 ラキルの後ろで事の成り行きを見守っていたセシルも流石に呆れ果て、頭痛すらする頼みに頭を押さえている。


 そんな【不退の歩み】の二人に呆れ果てられていると気付いてすらいない二人はその後も恥知らずな頼みを繰り返す。


 「もう限界なのよ。ボーグの馬鹿は口先だけでまるで私達を護ってくれない。それどころか仕事のミスを全部私とザクロのせいだと言って暴力まで振るってくるのよ! 最低だと思わない!?」


 それを言うなら僕はお前達に殺されそうになったんだぞ。その事についてはどうなるって言うんだよ?


 「私とミレイも気付いたのよ。自分達にとってお荷物なのはボーグだったと言う真実に。だから本当の役立たずは捨ててもう一度やり直すチャンスをちょうだい!」


 その言い方……つまりはお前達は僕を〝役立たず〟だと思って薄暗い奈落の底に捨てたってことか。


 「「ねえラキル、また一緒にパーティーを組みましょうよ」」


 二人の瞳の奥底はとてつもなく汚く濁っていた。まるでドブ川の様なその反省の欠片も無い二人の瞳を見つめながらラキルは二人の伸ばした手を――


 「お前達ともう一度パーティー組む? 天地がひっくり返ってもあり得ないね」


 当たり前の様に二人を拒絶する。するとこの二人は自分達が突き放された事実が信じられないと言わんばかりに食って掛かって来た。


 「ど、どうして拒むのよ!? 仮にも一緒にチームを組んでいた仲でしょ!?」


 「そうよ! それにミレイはあなたの幼馴染のはずよ! そんな長い時間連れ添った女の子が苦しんでいてあなた本当に見放せるの!?」


 もうここまでくると思わず笑うしかないだろう。一体どの口がこんな戯言をほざいているのだろうか?


 「さっきから自分達が頭のおかしな発言しているって自覚ある? 僕を殺そうとしておいてよく僕ともう一度仲間になりたいと口に出来たものだね?」


 「そ…それは……」


 痛いところを突かれてしまったような顔をしているが真っ当な思考力があればこう言われる事ぐらい普通に想定できるだろうに。それともコイツ等の頭の中では土下座の1つでもすれば自分が笑顔で許してくれると思っていたのだろうか? だとしたら頭の中がお花畑と言う次元ではない。もはや脳が働いてすらいない。


 そもそもコイツ等は仲間に入れて欲しいと懇願しているがそれ以前に自分にまず言うべき言葉があるはずだ。


 「仲間にしてほしい云々言う前にさ、お前達は僕に何か言うべきことがあるんじゃないのか?」


 「え……」


 「い、言うべきこと……?」


 自分から〝あの言葉〟を口にしようとしない二人にラキルが促してみるが当の本人達は理解できずに首を傾げる。

 

 「僕に対しての謝罪に決まっているだろうがッ!! よく『ごめんなさい』の一言も出さずに仲間に入れて欲しいだなんて頼めたな!!」


 過ちを犯したら謝る、そんな事は子供でも知っている常識だ。だが性根が腐敗しているこの二人にはまず仲間に入れてもらい自分の安全を確保すると言う考えが頭の中を占めていた。つまりはこの土下座もただの演技であり心から反省などしていない証明でもあった。だからこそ土下座はしても謝罪は口から出てこなかった。

 無論あれだけの裏切り行為を謝っても許す気などラキルには無い。だがこんな子供でも理解できる常識すら持ち合わせていない二人に心底呆れ果てた彼はもうこれ以上は話す必要性すら感じられなかった。


 「行きましょうセシルさん。コイツ等と会話する事自体が時間の無駄です」


 「まっ、待ってラキル! でもそもそもあなたをパーティーから追い出そうと提案したのはボーグなのよ!!」


 「そうよラキル! 私達だって最初はあなたを大切に想って……」


 「どうしてこの期に及んで自分の罪を素直に認めようとしないんだよ!!」


 少しでも減刑を狙っているのか二人はここまで来てもまだ自分達が間違いを犯した理由をボーグに押し付けようとしていた。ここまで言っても未だに『ごめん』の一言も出てこないなんて完全のこの二人の人間性が終わっているとしか思えない。

 そしてこの二人の醜さに苛立ちを感じているのは被害者のラキルだけではなかった。


 「いい加減に見苦しいわよあなた達」


 それは〝今の彼〟の仲間である最強の《魔法使い》のセシルだった。


 「一度崩した信頼と言うものはそう簡単には修復されるものではないわ。ましてやあなた達は彼の人生を終わらせようとした。それなのに自分の人生に少しでも苦難が訪れれば手のひらを返して裏切った相手に取り入ろうとする。ラキルもそうだけど私だってあなた達を【不退の歩み】に加入させる気などないわ」


 「で、でも……」


 「黙れ」


 次の瞬間、この場の空気が一気に変貌した。

 まるでこの辺りの重力が倍増したかのように重苦しくなりミレイとザクロの顔面からは大量の汗が噴き出て来た。


 「お前達のようなクズと話していると私の耳まで腐りそうなのね。もう一度言うわ――黙るのね」


 Sランク《魔法使い》の全身から漏れ出た魔力の強大さに二人はその場でへたり込む事しか出来なかった。呼吸は荒くなり歯をガチガチと鳴らして視線を下に向け震える。

 その情けない姿を侮蔑の籠った視線で睨みつけながらセシルは隣で同様に冷や汗をかいているラキルの手を取る。


 「何であなたまで怯えているのよ。ほら行くわよ!」


 「は、はい」


 直接圧力をかけられた訳でもないラキルですら怒りを忘れて思わず恐怖を感じてしまった。そして彼女から直接威圧された二人に至ってはまるで寒さに身を震わせるかのようにガタガタ震える事しかできない。


 こうして身勝手な二人の女はセシル達の姿が見えなくなるまで地面に膝をついて震え続けるだけだった。



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