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崩れて行くパーティー


 「くそ、どうして俺達がこんな状態になってんだッ!?」


 苛立ちを晴らすかのように道脇に置いてあるゴミ箱を蹴飛ばして舌打ちをするボーグ。

 ゴミ箱の中身が散乱して道を汚す光景に様子を見ていた街の人間が非難めいた目を向けて来る。


 「何見てんだよお前等!!」


 「ちょっとやめなって……」


 街中で八つ当たりを行うボーグを窘めるミレイ。周りの視線が痛いのか露骨に野次馬達から目を逸らし続けている。

 

 「人の目もあるんだしもう少し穏やかに……」


 「何が人の目だクソが! もう俺達の評価何てこれ以上下がりようがないだろうが!!」


 「きゃあッ!?」


 自分の肩を掴んで宥めて来るミレイをうっとおしそうに突飛ばすボーグ。


 彼が今言った通り現状の【淡紅の一閃】の評価は最底辺まで堕ちていた。

 ラキルを裏切りその後は依頼の失敗続きによりこれまで仲間想いの優秀なパーティーと言う培ってきた印象はすっかり消え失せ、代わりに今の彼等は最底辺パーティーと陰で囁かれる始末だ。ギルドで仕事を探せばクスクスと笑い声まで聴こえてくる。そして変化は周りだけでなくパーティーの中でも生じつつあった。


 「そもそもお前ら攻撃役が無能だからこんな事態になってんだよ!! BやC難易度のモンスター退治すら満足に出来ないだなんてそれでも《剣士》と《魔法使い》かよ!?」


 「(別に職業と依頼の難易度に因果関係なんてないでしょうが……!!)」


 突飛ばして地面に倒れ込むミレイに向け理不尽な物言いをするボーグに対し背後から胸中で非難を飛ばすザクロ。

 この3人がここまで成り上がれたのはラキルの持つスキルあればこそだった。そのスキルを失った今のこのパーティーのランクはCランクギリギリと言えるだろう。事実A難易度どころかB難易度の依頼すら満足に果たせなくなり、C難易度の依頼でも相当苦戦する始末なのだから。


 「くそっ、こんな低い報酬だけじゃやっていけねぇぞ!!」


 つい先日のC難易度達成で得た残り少ない金を手に地面に唾を吐くボーグ。その姿はまるで癇癪を起す子供のようで見るに堪えない。

 

 「(もう最悪……機嫌が悪いとすぐに私たちに八つ当たりして……)」


 「(こんな男についていってもこの先の人生転落しか見えてこないわよ)」


 これまでは男らしく自分達を引っ張っていくボーグの姿に心を奪われていた二人の心も既にこの男から離れつつあった。そりゃそうだろう、自分の無能ぶりを棚に上げて仕事のミスは全て自分達に押し付けるわ、気に入らない事があればストレス発散と言わんばかりに自分達に暴力を振るうわ、そんな人間を愛し続けるなど到底不可能だ。挙句には報酬が少ないと喚きながら節約の1つもせず無駄遣いばかり。

 

 「(はぁ……こんな事ならラキルを裏切るんじゃなかった)」


 最初は自分達の不調が続いただけと言い訳を繰り返していた。しかしここまで落ちぶれれば自分達がAランクまで成り上がったのはラキルのスキルのお陰だと嫌でも気づかされる。彼の持つ『幸運を引き寄せる』スキルの効力があったからこそ自分達はAランクまで簡単に上ってこれたのだ。


 「(今にしてみればラキルが居た頃は戦闘中に相手に不都合な事態が頻繁に起きていた気がする。その隙を付いてレベルの高いモンスターを撃退した回数の多さを考えると彼のスキルが私達パーティーを支えていたと言う事なんでしょうね……)」


 今だからこそ二人はハッキリと言える事がある。自分達はつくべき相手を完全に見誤ってしまったのだ。最初はミレイもザクロも切り捨てようとしたラキルを大切に想っていた。だがこの男に唆されて気が付けば手にかけようとしていた。こうして落ちぶれて自分を見つめなおす機会が訪れたからこそ真にパーティーにとって不要だったのは目の前のコイツだったと実感できる。


 「たくっ、むしゃくしゃしやがる!! おいお前等は先に宿に戻ってろ。俺は少し飲んでから帰るから」


 そう言うとミレイが管理している少ない残金を奪い取るとそのまま近くの安い酒場の中へと消えて行った。その後ろ姿が酒場の中へと消えて行くと二人は揃って彼に対しての不満を口から吐露する。


 「もう限界だわ。これ以上アイツについていっても損をするだけだわ」


 「そうね……少し前まであんなヤツに惚れこんでいたなんて信じられない。今となってはこのパーティーの一番のお荷物はアイツじゃない」


 モンスターとの戦闘では自分とザクロだけに攻撃を任せアイツは後方で様子を伺うばかりで戦闘中にはほとんど何もしないのだ。前面に出る《盾使い》ならば囮にでもなって注意ぐらい引けるはずなのにそれすらしない。そのくせ文句だけは一丁前に吐いて依頼を失敗すれば八つ当たりしてくる。

 まだラキルがパーティーに居た頃は彼の持つスキルの力で自分の振るう剣は相手のモンスターの急所を的確に捉え苦も無く勝利を収める事が出ていた。無傷で勝利し続けていたからこそボーグの口先だけの無能ぶりに気付けず、それどころか彼に惚れこみ挙句にこのパーティーに必要なラキルを裏切ってしまった。だがスキルから与えられるその奇跡が戦闘で発生しなくなってからはボーグはもはや口先だけの詐欺師も良いところ、出来る事と言えば案山子の様に立っているだけだと気付かされた。せめて身を挺して自分達の危機を護ってくれる気概があればまだ彼を見放さずに済んだのだろうが……。


 「ねえミレイ、少し前から言っていたけどあんな単細胞を捨ててラキルのパーティーに入れてもらいましょうよ。こんな落ち目の【淡紅の一閃】なんて離脱して【不退の歩み】のメンバーに加入した方が私たちの安泰な未来に繋がるわ」


 「そうよね。あーあ、どうして幼馴染のラキルよりもあんなクズに入れ込んでいたのか不思議だわ」


 「私達も見事にあの能無しに騙されたものね」


 もしもこの会話をラキルが聴いていれば二人の神経を疑う事は間違いないだろう。

 まるで自分達を被害者の様に語っているがラキルを殺めようと最終的に決断したのは彼女たち自身だ。その時点で彼女達も今蔑んでいるボーグと同じ穴の狢に過ぎない。しかもこの二人はその殺そうとしたラキルのパーティーに入れてもらおうかとまで考えている。もはや厚顔無恥を通り越して狂気すら宿っていると言える。


 「まあラキルには〝色々悪い事〟をしちゃったけど誠心誠意謝ればきっと許してくれるわよ。だからこそ私達がダンジョン内で裏切った件でお咎めなしになってもその事実をすんなり受け入れたんだろうし」


 ちなみにラキルが『常闇のダンジョン』での彼女達が非道を働いたことをあれ以降咎めてこないのは許しているからではない。ただ単純にもう関わりたくないと言う嫌悪感からに過ぎない。


 だが精神がもう腐ってしまっている今のミレイは少し涙でも流し謝れば自分が許されると本気で信じている。まだボーグに誑かされる前の純真な彼女はもう死に、今この場にいるのは自らの保身の為に動く醜い自己愛に塗れた怪物の成れの果てだった。


 そして頭の狂っている二人は酒場の奥で怒鳴り声を上げるボーグをほっぽり出してラキルの元へと向かったのだった。



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[一言] かつてのホルンも闇討ちまではしなかったことからしてもこの二人は
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