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仲間を取り戻す為なら私はどこまででも……


 「私の大切な仲間がこんな目に遭ったその根本的理由は今から2年前に遡るわ」

 

 彼女が口にした今から2年前、それは各地の冒険者ギルドにある内容の仕事が多く舞い込んで来るようになってきた時期と一致する。その仕事とは『闇ギルド』関連の依頼だ。闇ギルドの調査、中には壊滅の依頼書がギルド掲示板に貼り付けられるようになった。


 その理由としては間違いなく闇ギルド【ディアブロ】の完全壊滅が原因だろう。


 これまで裏の世界でその名を轟かせ続けて来た【ディアブロ】は今から2年ほど前に壊滅した。だがそのギルドの崩壊理由はどうやら内部争いが理由らしい。捕縛された元【ディアブロ】の末端構成員の数人から得た確かな証言だ。何より残っていた他の支部も調査に向かった結果全て壊滅していたそうだ。だが【ディアブロ】支部長の3人は未だに消息不明となっている。一体【ディアブロ】内部で何が起きたのか、捕らえた構成員からもその情報は得られず巨大ギルド壊滅の理由は謎のままだ。

 だがこの巨大組織の壊滅は新たな波乱を世界に振りまく事となってしまう。これまで数多くの傘下に従えていた他の闇ギルドの楔が【ディアブロ】崩壊によって完全に切れてしまったのだ。悲しいかな、【ディアブロ】は他の闇ギルドの手綱を握り抑止力となっていたのだ。


 【ディアブロ】と言う組織がその名を消した後に多くの闇ギルドが世界各地で名を広めて来た。そしてそれぞれのギルドは力を蓄え複数の闇ギルドはその名を更に大きくした。

 

 「あなたも知っての通り昔と比べ今の冒険者活動の中には闇ギルド関連の仕事が増加しているわ」


 「はい、時々【リターン】の掲示板でも見かけます。そう言えばセシルさんってこれまで【リターン】経由の闇ギルド壊滅の依頼を単独でいくつか引き受けて来たんですよね?」


 セシルがギルド内で注目を受けている理由の1つもそこにある。Sランクと言う称号は無論、ソロで闇ギルド壊滅の依頼を数度完遂して来た圧倒的な実績が彼女の評価をさらに上げているのは間違いない。


 「……私が闇ギルド壊滅の依頼を率先して受けている理由……何故だと思う?」


 「えっと…それは……名を上げたいから、とかではないですよね?」


 「……あながち間違ってもいないかもしれないわね。名を上げれば私により闇ギルド関連の仕事が舞い込んで来る可能性が上がるから」


 そう言いながらセシルの表情には僅かに怒りが滲み出る。

 

 「ここで寝ている仲間のカインとホルンの3人で私達も当時増加していた闇ギルド関連の依頼を引き受けていたわ。あの大組織である【ディアブロ】と比べ正規ギルドに仕事で回される闇ギルドは所詮傘下の弱小組織ばかりだったわ。でもある日ギルドに舞い込んで来たとある闇ギルドの調査依頼、その仕事が私の大事な仲間を地獄に落とした」


 とある理由から【ファーミリ】と言うギルドから今の【リターン】のギルドに移籍してから【不退の歩み】はドンドンと名を上げて行った。そしてSランクにまで昇格した3人に【リターン】のギルドを経由してとある闇ギルドの調査依頼が任せられたのだ。


 「私達はギルドマスターからの頼みで闇ギルド【ユーズフル】の調査を任命されたのよ」


 「【ユーズフル】……【ディアブロ】壊滅後から有名になった闇ギルドの1つですよね」


 【ディアブロ】が消えた後に一際大きく勢力を拡大させ3つの闇ギルドが裏世界で台頭して来た。その中の1つが今セシルの言った【ユーズフル】なのだ。


 「任せられた仕事の内容はあくまで〝調査〟だったわ。どうやら支部の1つが建設されていると言う噂があってね。そして現場に調査へと出向くと情報通り支部の建設がなされていたわ。そして……そこにはギルドマスターである〝あの女〟も居た……」


 セシル達が調査に向かった支部は多くの末端構成員が支部建設に勤しんでいた。その兵隊達だけならば【不退の歩み】の3人で余裕で撃退できたはずだ。だが支部の建設具合を偶々視察に来ていた【ユーズフル】のギルドマスターと交戦となってしまったのだ。


 「その戦闘で建設途中の支部は壊滅できたわ。でも……私の大事な仲間はヤツに……」


 今でも思い出す。自分の仲間に生き地獄を味合わせたあの忌々しい女の顔を。そして去り際に放ったヤツの言葉を……。


 ――『せっかく建設中の支部をおじゃんにしたお返しは貰うわ。あなたのお仲間二人の魔力は死ぬまで私が頂かせてもらうわね』


 「患者服の下、二人の胸には魔法陣が刻まれているわ。その魔法陣を経由して魔力を延々とヤツに吸収されているのよ」


 魔力とは使えば減るが休養を取れば体力と同様に回復する。しかし二人は常に魔力を吸収され続け自然回復が追い付いていない。日に日に二人は衰弱していき、そしてついには意識を保つことすら不可能となってしまった。


 「今はこの施設の貯蔵した魔力を送る魔道具の機材のお陰で二人は命をつなぎとめている。これが無ければ二人は魔力が欠乏し、やがては生命力も消えて死に至る。それがヤツの残した呪いなのよ……」


 二人に刻まれた魔法陣を外そうとセシルも方々手を尽くした。しかしこの手の類の呪いを解くには呪いを刻んだ張本人に外してもらう、もしくはその人物の抹殺しか手段が無いらしい。もし不用意に力技で解こうものなら呪いを掛けられている本人の身が持たない場合があるらしいのだ。強靭な肉体と精神の持ち主ならば強引に外す事もできるだろうが今の衰弱している二人には命に関わる方法だ。


 「私が高ランクの依頼をこなし続ける理由の1つは純粋な金銭理由よ。二人の意識が戻ったとしてもすぐに仕事復帰は難しいだろうからね。それに治療費や入院費の事を含めてお金はあるに越したことはないわ。そしてもう1つ…冒険者として名を上げる事で闇ギルドの仕事を出来うる限り私に宛がってもらえる可能性を上げるため。現状では【ユーズフル】に関する手掛かりはないからね」


 そこまで言うとセシルはどこか冷徹な瞳でラキルを見つめながら更にこう続ける。


 「あなたのスキルは自身や身近な存在にとって『幸福と思える事象を引き寄せる』力が有る。だとするなら……【ユーズフル】に対しての情報や仕事が私に舞い込んで来る可能性も高まるってことになる。私にとって奴等の情報を得る事は〝幸福〟なのだから……」


 「………」


 自分を見つめる彼女の瞳の奥を見てラキルは何も言えなかった。その瞳の奥底に垣間見えた怒りの感情があまりにも大きく圧倒されてしまったからだ。

 そして……どんな犠牲を払ってでも仲間を救う冷たい覚悟に内心で恐怖すら抱いてしまった。だって彼女が自分を見つめる眼は〝仲間〟を見るものではなく〝道具〟を見るかのような冷たい眼だったから……。



もしこの作品が面白いと少しでも感じてくれたのならばブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。自分の作品を評価されるととても嬉しくモチベーションアップです。

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