眠り続ける仲間
セシルと正式にチームを組む事が決定した後にラキルはとある場所へと連れて来られていた。
本来であればダンジョン攻略を無事に果たした二人はギルドに戻って仕事完了の報告を済ませるべきだろう。だがラキルが【不退の歩み】に加入した事でセシルにはどうしても彼に会わせておきたい二人の人物が居たのだ。
セシルに言われるがままついてきた建物の前までやって来てラキルは思わず顔をしかめる。
「ここって……診療所ですよね……」
どういう訳かこの町の中心部に構えている診療所に案内されたがその理由に首を傾げてしまう。現状では自分にもセシルさんにも目立つ外傷は見当たらない。仲間に裏切られて受けたダメージも彼女のお陰でダンジョン内でほとんど完治されている。
もしかして自分が気が付かないだけでセシルさんはどこか負傷したのかと考えていると彼女が口を開いてこの場所にやって来た理由を語り出す。
「この施設に私の大事な仲間が居るの。【不退の歩み】に加入した以上は挨拶はしておくべきだと思ってあなたを連れて来たのよ」
その言葉を耳にして内心でラキルは驚いていた。
自分達が【リターン】のギルドに登録をしたときから彼女はソロで活動していたはずだ。確かに昔は仲間と共に一緒に仕事をしていた噂は耳にしていたが……。
「(もしかして仕事の中で大きな怪我でも負って今も治療を……)」
冒険者活動に勤しんでいる者にとって医療機関の存在は必要不可欠と言っても過言ではないだろう。パーティーの中には回復魔法で傷を癒せる者も居るだろう。だが回復魔法と言えども治せる傷にも限界はある。その場合にはやはり医療施設の人間の力が必要なのだ。
施設に中に入り受付に向かうと相手の受付係の女性がセシルを見て悲しそうな顔を向けて来た。
「今日も来たんですねセシルさん」
「ええ、定期的に顔を見せてあげないと」
「お二人もきっと喜びますよ」
「……私がただ自分を落ち着かせたいだけよ。勿論二人の顔を見たい気持ちもあるのだけど……」
何やら受付係と話しているようだが会話の内容までは聞き取れない。それにしても受付の女性の対応からセシルさんとはもう何度も会話をしている間柄なのだろう。
「行くわよラキル。入院中の仲間達にあなたを紹介するから」
「あっ、はい」
話し終えたセシルに案内されて辿り着いた病室、その扉を開くと二人の人物がベッドの上で眠りについていた。
「……今日も来たわよカイン、ホルン……実は今日はお見舞いだけじゃなく大切な話があってきたの」
笑顔を浮かべながら優しい声色で眠っている二人の男女に声を掛けるセシル。だが話し掛けられた二人は何のリアクションも見せずに眠り続けている。
ベッドの上で眠り続けている二人の姿を見たラキルは思わず顔が引き攣ってしまった。
年齢は見る限りではセシルさんと同じくらいの男女、だがその二人の身体には複数のチューブが取り付けられている。二人のベッドの間には何やら大きな機材まで置かれておりその機材からも伸びているチューブには薄緑に発行している液体が二人の身体に注がれている。
「あ、あの……この二人は一体……」
「私の……【不退の歩み】の大事な仲間よ。意識不明の重体で今もなお治療を施されているの……」
そう言いながら女性の方の頬を撫でながらセシルは下唇を噛み締めて俯く。それはまるで自分の無力感に苦しんでいる様にも見えた。
実際にいくらSランク《魔法使い》と言えども眠っている仲間の二人、カインとホルンを目覚めさせる術を彼女は持っていなかった。
「その…このお二人は何か大きな病に侵されているんですか?」
そんな質問を口にしながら自分の間抜けぶりに思わずラキルは情けなくすらなった。
馬鹿なのか僕は? いくら気まずいからってこんな質問するなんて……。
ダンジョン内であれだけ大きな負傷を負った自分を完璧に治療できた彼女が恐らくは一年以上前からこの医療機関に二人を預けている事を考えると難病の類なのは間違いないはずだ。いや、そもそもこんな状態の二人を見れば重い病を患っている事なんて一目瞭然だと言うのに。
自分の頭の悪さに後悔の念を抱いているとセシルは俯いたまま返答をする。
「病気……と言うよりも〝呪い〟と言った方が正しいのかもしれないわね。この二人は常に魔力が〝吸収〟され続けているのよ。今から一年以上前からね……」
「魔力を吸収され続けている?」
別に医学に詳しい訳でもないラキルだがそんな奇病など聞いたことも無い。いや、そもそも病気の類なのだろうか? 今しがた彼女も二人の状態を〝呪い〟と表現していたが……。
「このゴテゴテした機材が気になるわよね。これは貯蔵している魔力を注入する機材よ。常に魔力を吸引されている二人の魔力が枯渇しないようにね……」
「……一体セシルさんの仲間に何が……」
かなりデリケートな話題だと理解はしているがこれからこの【不退の歩み】のメンバーとなる以上は知っておくべきと思い質問をすると彼女は話してくれた。
そしてこの話を聞き終えてからラキルはようやく理解する事となる。どうして彼女が自分の〝スキル〟に拘って仲間に引き入れたのかが。
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