才能欲しさの勧誘を行う《魔法使い》
時間はセシルとラキルの二人が『常闇のダンジョン』を無事に攻略した時まで遡る。ダンジョン最深部で待ち構えていたこのダンジョンの主を見事に討伐して無事に外へと戻って来たラキルに対してセシルはとある話を持ち掛けていた。
「僕と一緒にパーティーを組まないか…ですか……?」
「そう、〝私達〟のパーティーである【不退の歩み】に一時的に加入してほしいのよ」
ダンジョンを出て持ち掛けられたその話はラキルにとっては信じがたいものであった。何しろ自分達のギルドの最強角の1人であるSランク冒険者から一緒にチームを組みたいと頼まれたのだ。未だにラキルの中には実感と言うものが出て来ず返事に詰まってしまう。
「勿論無理にとは言わないわ。でもあなたは【淡紅の一閃】のメンバーとこれから先も一緒に仕事をしようとも思わないでしょう?」
「それは当然ですけど……」
この質問に対しては即答で頷く事が出来る。自分を平然と殺そうとした人面獣心共と今まで通りに笑って仕事など出来るわけもない。むしろあの3人に対して抱いているのは憤怒の感情のみだ。
とは言え自分如きがいきなりSランク冒険者と共にパーティーを組もうと誘われる、それはそれで戸惑いを感じて躊躇いに近い感情を抱いてしまう。
特にこの『常闇のダンジョン』の最深部で待ち構えていたダンジョンの主であるモンスターとの戦闘で痛感させられてしまったのだ。自分にはAランクの冠が相応しくないと……。
「率直なことを言うと僕を仲間に誘う理由が分かりません。ハッキリ言って僕はAランクどころかBランクにすら届いていない弱小《剣士》です。このダンジョンのボスとの戦闘でもセシルさんの足を引っ張っていただけです。生き残れたのだってスキルの〝幸運〟の力が働いて〝運よく〟生き残れただけです」
ボスとの戦闘を振り返ってみてもラキルは自分の恥を思い出すだけだった。今回対峙したモンスターはこれまで依頼で討伐してきたモンスターとはその実力が次元が違った。過去最強レベルの敵に対して自分の剣では致命傷どころかかすり傷を付けるだけで終わり、あとは逃げ回ってセシルの魔法を直撃させる囮になる事ぐらいしか出来なかった。
今までラキルは多くのモンスターを狩り続けて来た実績から自分の腕前には多少の自信だって持っていた。だがこのダンジョンのボスとの戦闘で思い知らされたのだ。これまで自分が勝利し続けられたのは自らのスキルで引き寄せていた〝幸運〟が理由だったと言う事実に。
「探索中にあなたが話してくれていた通りでしたよ。僕は実力ではなくスキルの効力で今のAランクと言う地位まで上りつめていただけだったみたいです。そんなハリボテ同然の僕をあなたのような〝本物の実力者〟のチームに誘うんですか?」
この時にラキルの中には劣等感だけでなくセシルに対して僅かとは言え疑心暗鬼の心が芽生えていた。
何しろ長い時間一緒に仕事を続けていた幼馴染を含むパーティーメンバーに殺害されそうになったばかりなのだ。信頼を裏切られたばかりの彼は自分よりも遥か格上の人物にチームに誘われても素直にその手を取れずにいた。
もしかしたらまた裏切られるのではないか……その人を疑がう心が根底に根付きつつあった。
「仲間が欲しいのなら僕以外の冒険者でもいいんじゃないんですか? あなたとなら喜んでパーティーを組んでくれる実力者ならギルドには大勢いると思いますし……」
Sランク冒険者セシル・フレウラは現在は〝1人〟で仕事をこなしている事実はギルド内に知れ渡っている。噂によれば1年ほど前までは他にも2人の仲間と共に【不退の歩み】としてチームを組んでいたらしいが。
ラキルがミレイと共に【リターン】のギルドに登録をした時には既に彼女はソロで仕事を行っていたので詳しくまでは知らないが……。だがどちらにしろ彼女が仲間を求めれば他の有名なパーティーから引っ張りだことなるはずだ。それなのに自分のようなスキルだよりの人間をメンバーに加えたがる理由が分からない。
どうして自分とパーティーを組みたいか、その真意に対してセシルは理由を話し出した。
「下手に取り繕う事はやめて正直に話すとしましょうか。私があなたと一緒に組みたいと思う理由はその〝スキル〟にあるわ」
「僕の…スキル…」
「あなたのスキルは『自身やその周囲にとって〝幸運〟を引き寄せる』力が有るわ。あなたのスキルの効力はこの私にも発動していた事はこのダンジョン内の戦闘で確信したわ」
この『常闇のダンジョン』内でセシルは自分にもラキルのスキルの恩恵が働いている実感を何度も感じた。特にこのダンジョンのボスとの戦闘の際には自分にとって『都合の良い幸運』な出来事が何度も起き、そのおかげで無傷のまま勝利を収める事が出来た。もしも単独で挑んでいれば勝利できたとしても決して無傷では済まなかっただろう。
「あなたのスキルはあなた自身が考えている以上に強力なものよ。そして…その者にとって幸運と思える事象を引き寄せれると言うならその力は是非とも私の為に使ってほしいのよ。これがあなたとチームを組みたいと思う理由よ」
「それは……僕の〝スキル〟目当てだと言う事ですか?」
僅かに棘のある発言をあえてラキルはぶつける。
それに対してセシルはしばし間を置き、そして鋭い視線を向けながら残酷な発言をぶつける。
「そう、その通りよ。私はあなたのスキルの力を〝利用〟したいと考えているわ。あなたを裏切った【淡紅の一閃】のように腹の中に隠し事をする気はないわ。私の目的の為にその幸福を引き寄せるスキルを持つあなたを味方につけたいのよラキル・ハギネス」
一切取り繕う事無く自分の胸の内を赤裸々に告げるセシルに一瞬だけラキルの表情が歪む。しかし外面はニコニコと振る舞っていながら自分を裏切った3人組とは違い目の前の《魔法使い》の瞳には〝嘘〟は見られない。
「……どうせ一度は死んでいた命です。わかりました……僕をあなたの仲間にしてください」
本来ならば人間不信となってもおかしくないラキルだが気が付けば彼女の誘いを受けていた。もしかしたらそれはスキル目当てだとしても自分と言う人間を必要としてくれる彼女に無意識に惹かれていたからなのか? それとも仲間を失い孤独となった穴を他の人間で埋めたかったからか?
その答えは今のラキルにはまだ判らなかった……。
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