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糾弾


 「久しぶりだなこの裏切り者共が……」


 ノコノコとギルドに戻って来たかつての仲間達を憎悪の炎が燃え盛る瞳で睨みつけながらラキルは吐き捨ててやった。

 どうやら相手側は自分が待ち構えているなど夢にも思わなかったのか予想通りの阿呆顔を浮かべている。


 「ど、どうしてラキルが生きているの? だってあの時に……んぐっ!」


 「(このバカッ!?)」


 完全にもうラキルは奈落の底で死亡していると思っていたミレイは反射的に幼馴染が生存していた事に戸惑いの言葉を僅かに漏らす。だが反射的にボーグが彼女の口を手で塞ぐ。そしてわざとらしく声を張りながらこんなふざけた言葉を口にする。


 「生きていたんだなラキル! てっきりあの『常闇のダンジョン』でモンスターにやられたとばかり思っていたぞ!!」


 まるで彼が生きて帰って来た事を心から喜ばしく思っているかのような発言にラキルは思わず飛び出しそうになる。


 「落ち着きなさいよ。あまりギルドの中で騒がないの」


 怒りの赴くままに殴りかかろうとするラキルを制止した人物を見て同じ《魔法使い》であるザクロの口からはその人物の名前が零れ出る。


 「Sランク【不退の歩み】のセシル・フレウラ……」


 このギルドの最強角の1人の登場に3人だけでなく周りの野次馬の緊張度合いも高まる。

 そんな場の張りつめた空気や周囲の目など気にもせずセシルは冷え切った視線を向けながらいきなり本題に入る。


 「無駄な口上は抜きにさせてもらうわ。あなた達、ここに居る同じパーティーの仲間であるはずのラキルが怒っている理由は理解できているわよね?」


 「な、何のことだ……」


 彼が自分達を恨みがましく睨んでいる理由など言うまでもないことだろう。だがこんな他の冒険者が大勢見ている中で本当のことなど口に出せる訳もない。

 だがこの状況で言い逃れなど許される訳もなくセシルが改めて問い掛けようとする。しかしついに我慢の限界を超えたラキルが1歩前に踏み出すと怒声を上げる。


 「よくもぬけぬけと『何のこと』だなんて言えたもんだな!? これまでずっと仲間として冒険してきた僕を『常闇のダンジョン』で抹殺しようとしておきながら今更知らないふりをするな!!」


 ラキルの感情の籠ったその発言に周囲で様子を伺っていた野次馬達のざわつきが一層大きくなる。何しろダンジョン攻略の依頼を失敗した【淡紅の一閃】のメンバーの話では彼は『モンスターに襲われて命を落とした』と知らされているのだ。だがその死んだはずの人物がギルドに戻って来て真実は仲間達に抹殺されそうになったと告白している。これまで【淡紅の一閃】は信頼厚いパーティーとして有名だった事を考えると野次馬が騒がしくなるのも尚更だろう。


 「おいおいやっぱりラキルの言っていた通りだったのかよ?」


 「仲間想いのパーティーだと思っていたけどとんだ腹黒連中じゃない」


 ボーグ達よりも先にセシルと共に既にダンジョン攻略を果たしていたラキルはギルドに戻るとすぐに自分の身に起きた真実を告発した。ギルドに戻る最中にボーグ達が嫌悪の混じった視線を向けられていたのも噂が既にギルドに居た者達を経由して広まりつつあったからだ。


 「確かリーダーのミレイってラキルのやつと幼馴染だったよな? 長年一緒にパーティー組んでいた幼馴染を背中から刺したってのかよ? うわぁ怖ぁ……」


 「今までザクロさんって聖人だと思っていたけど失望したわ」


 次第にギルド内は【淡紅の一閃】の面々に対して嫌悪や敵意を向けだす。

 完全に周りが敵となった事でミレイとザクロの二人の表情は青ざめている。だが今まで静かだったボーグはひときわ大きな声を張り上げながら言った。


 「さっきから黙って聞いてりゃ下らない言い掛かりしてんじゃねぇぞ!! お前がダンジョンで死にかけたのはモンスターに襲われたからだろうが!! それがどうして俺達に襲われた事に改編されてんだよ!?」


 「はあ!? この期に及んでまだとぼけるつもりかよ!?」


 「とぼけるも何も嘘を言ってんのはテメェだろうがッ!! それとも俺達がお前を襲った証拠でもあんのかよ!?」


 このままラキルに言わせ続けると不味いと思ったボーグは彼の言っている事こそが虚言だと言い返す。しかしラキルが『モンスターに襲われて死んだ』とギルドに報告していた事や、追い詰められて顔を真っ青にしている後ろのミレイとザクロを見ればどちらの言い分が真実なのかは容易に判断できる。だが今しがたボーグが吠えたように明確な証拠が存在しないのも事実だった。何しろ場所が場所だけに目撃者も存在しない。

 それからしばし言い争う二人にセシルが割り込んでこう言った。


 「私が彼を発見した時、彼の体には大きな火傷や裂傷が見られたわ。まるで魔法や刀剣で付けられた傷のように思えたのだけど?」


 「ぐっ、ひ、火を吐くモンスターや鋭い爪を持つモンスターだって居るだろ! そんなものが俺達の裏切り行為の証拠になるか!!」


 「コイツ……」


 いよいよ堪忍袋の緒が切れそうになるラキル。裏切り行為を働いた時点で許せないがここまで来て自分の罪を隠そうとする意地汚さも許せなかった。

 だが状況的には嘘を言っているのがボーグである事は周り全員が理解しており周りの冒険者はボーグ達には軽蔑を、そしてラキルには同情の視線を送る。


 「こ、これ以上こんな戯言に付き合いきれるか!? おい行くぞ二人共!!」


 このままここに居ても立場が悪くなる一方だと悟りボーグはずっと黙っている二人を引き連れてそのままギルドを後にした。

 意外なことにこれまで興奮していたラキルは去り行く3人を呼び止めずに黙って見送る。


 「よかったの? もう少し追求すればボロも出たのに」


 あれだけ糾弾していた彼が思いのほかあっさりと彼等を逃がした事にセシルが疑念を投げると彼はこう返して来た。


 「大丈夫ですよ。もうアイツ等のギルド内での印象は最悪です。それに……この期に及んで反省出来ないアイツ等をここで罪を認めさせて終わらせるなんて僕の気が済みません。この町でアイツ等はもっともっと追い詰められなきゃ……」


 口元に大きな弧を描きながら自分を見るラキルに対してセシルは小さく息を吐く。


 「(これは…もしかしたら私はとんでもないやつを〝仲間〟にしてしまったのかもしれないのね……)」


 この時にセシルは『常闇のダンジョン』を出た後にラキルと交わした〝約束〟について思い返していた。



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