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幸運の剥がれたハリボテのパーティー


 ラキルを裏切りダンジョンの奈落の底へと叩き落とした【淡紅の一閃】のメンバーはB難易度の依頼である『盗賊団の撃退』の依頼を遂行しようと物資を運搬する荷馬車の警護の真っ最中だった。


 「(たくっ…予想以上に暇な仕事になっちまったな……)」


 依頼を引き受けたボーグは内心でそんな不満を吐露していた。


 今回の討伐対象である盗賊団のアジトは未だに判明していない。それ故に連中を狩る為にはこうして物資運搬の警護を行い相手から仕掛けて来るのを待つ受け身の姿勢を取るしかないのだ。つまりは警護しているこの荷物運びは囮と言う事だ。ちなみにだがもしもこの荷が道中で襲撃を受けず無事に王国まで届けられた場合は運搬の警護分の依頼料しか得られない。何しろ戦闘がなければあくまで護衛任務、難易度からすればDと言ったところだろう。その程度の依頼ではせいぜい今晩と明日の3人分の酒代ぐらいにしかならないだろう。


 「(頼むからこの馬車を襲いに来てくれよ盗賊団の皆さんよ。あくまで俺達はB難易度の依頼のつもりで引き受けてんだからよ)」


 いくら依頼達成の為とは言え盗賊に襲いに来て欲しいと望むなど本来であれば冒険者以前に人間性を疑われるだろう。だが仮にもAランクパーティーの顔もあるのだろう。内心ではそんな不穏な考えを持っていながらも顔には決して出さないように努めている。


 馬車の荷台の上では仲間であるミレイとザクロが緊張感0と言う面持ちで談笑している。そして馬車の隅では黒ローブを纏っている男性が1人座っている。この人物だがどうやら冒険者とは別に今回の護衛任務を引き受けた用心棒らしい。御者の話では護衛は1人でも多い方が心強いと言う理由からこのような用心棒を雇う事がここ最近では増加しているらいしい。この用心棒は他と比べても護衛料もかなり格安らしく乗せているらしいのだが……。


 「(それにして暗いヤツだな。こんな根暗そうなヤツと一緒に仕事なんざ本来ならお断りしたいところだぜ……)」


 一緒に仕事をすると言う事で表面上は人当たりの良さそうな雰囲気を出して3人は挨拶したのだが見事に無視された。

 当然だがそんな無愛想な相手にこちらから接する理由も無いので3人は隅に座っている男性を同じように無視している。


 それからも僅かに揺れる荷台からのんびりと景色を眺めていると急に馬車が停止した。


 「ぼ、冒険者と用心棒の方!! どうやらお仕事のようです!!」

 

 若干の上ずった御者の声に状況を瞬時に察したボーグは荷台から飛び降りる。そして自分達の進行方向を塞いでいる連中を確認すると嬉しそうに口角を上げた。


 「どうやらつまらない護衛任務にならずにすんだようだな」


 進行方向を塞いでいる集団を見て思わず舌なめずりしてしまう。遅れて盗賊の存在に気付いたミレイとザクロも荷台から降りると即座に戦闘態勢へと入る。

 いつでも迎撃する準備を整える【淡紅の一閃】に対してこの集団を率いているリーダーと思しき男が手に持っている狩猟刀を向けて口を開く。


 「おいその物資を置いていきな。まあ嫌だって拒否しても奪っていくんだがな」


 「ふん、薄汚い追いはぎ風情が吠えるじゃねぇか。俺達がAランク冒険者とも知らずに……」


 筋骨隆々な大男に対してボーグは不敵な笑みを浮かべながら隣に居るザクロに視線を送る。その視線の意味を理解したザクロは相手を小馬鹿にするかのような笑みを浮かべながら一歩前に出ると魔杖を盗賊の一団へと構える。


 「薄汚い盗人に容赦はしないわ。この聖なる光によって浄化されなさい!! <ホーリースピア>発動!!」


 ザクロの構えた魔杖の先端に魔法陣が展開されそこから1本の光の槍が現出する。その槍は勢いよく盗賊団の頭を射抜かんと射出された。


 「さあ往生なさい!!」


 これまで多くのモンスターを〝一撃〟で仕留めて来たザクロの放った光の槍は男の心臓付近へと伸びて行きその命を刈り取る……ことはなくあっさりと狩猟刀で弾かれる。


 「あ、あれ……?」


 自分の得意魔法をあっさり撃ち落されたザクロの口から間抜けな声が漏れ出るのも無理はないだろう。何しろ数多くのモンスターを仕留めて来たこの攻撃魔法があんな蠅でも払うかのように弾かれてしまったのだから。攻撃を撃ち落とした相手の男も予想以上に非力な魔法が飛んできた事で訝しんでいた。

 しかしザクロ本人とは違い隣で様子を見ていたミレイとボーグは今の彼女の攻撃が人間相手だと言う事で必要以上に手加減していたのだと勘違いする。


 「もうザクロったら気が抜け過ぎだよ。いくら相手がレベルの引く追いはぎ相手だからってちゃんとやる気出さないと。それとも野蛮人とは言え人間相手で気が引けた?」


 「やっぱりザクロは優しいなぁ。あんな連中にも無意識に手加減してしまうだなんて」


 ミレイとボーグの言葉に対してザクロは反論を返さない。いや、正確に言えば返す余裕が無かった。


 「(違う…加減なんてしていない。私は普段通りの威力で攻撃を繰り出したはずなのに……)」


 他の二人はザクロが加減したと思っているようだが実際は違う。彼女は相手の命を刈り取るつもりで魔法を放ったのだ。それなのにまるで羽虫でも追い払うかのように自分の魔法は弾かれてしまった……。


 「ザクロと違って私は盗人相手には慈悲は与えないよ。さあ全員覚悟しなさい!!」


 予想外の事態に戸惑うザクロを後目にミレイは腰の鞘から剣を引き抜くと一気に盗賊たちへと駆けて行く。そして一番先頭で仁王立ちしている盗賊団の頭の首筋目掛けて自慢の剣技で首をはねようと振るう。

 

 だが彼女の振るった一閃を相手のリーダーは半歩身を引くことであっさりと回避した。


 「何だそのすっとろい剣技は? そらカウンターだ!!」


 自慢の剣を身切られただけでなくカウンターの蹴りが無防備なミレイの腹部へと叩き込まれた。


 「うげえぇぇっ!?」


 まるで蛙の潰れたような綺麗な容姿に似つかわしくない汚い声を吐き出しながらミレイは地面をバウンドしてボーグの足元まで転がっていく。


 「お、おい何遊んでんだよミレイ……」


 ザクロに続いてミレイまでもが醜態を晒すことで流石にボーグも今更ながらに異常に気付く。

 自分の足元で腹部を押さえているミレイの姿はどう見ても演技には見えない。脂汗を大量に流し蹴られた腹部を押さえて苦しんでいる。それにザクロも明らかに青ざめた顔して危機感をその表情に晒している。


 思うようにいかず混乱の極みに陥っている【淡紅の一閃】達へ相手のリーダーの男が侮蔑を含んだ声色と共にこう告げる。


 「何だコイツ等? 口先ばかりで魔法も剣技もまるでお粗末だな」


 そう、【淡紅の一閃】は全員が盛大な勘違いをしていただけだったのだ。これまで自分達が遥か格上のモンスターを狩り続けられたのはラキルの〝スキル〟の恩恵に過ぎなかっただけなのだ。そして自分達を支えて潤わせてくれた〝幸運〟はもう傍にはいない。


 だって彼等をここまで成り上がらせてくれた〝幸運〟は他でもない彼ら3人が奈落の底へと突き落としてしまったのだから。


 未だに自分達の身に起きた事態に気が付けない【淡紅の一閃】の事情など知らず盗賊団はそれぞれの得物を握りしめて突っ込んで来た。



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