その頃の【淡紅の一閃】は……
マッドバッドの群れからの襲撃以降はまたしてもモンスターとはバッタリ遭遇しなくなり暇な時間が訪れる。そして遂にあと少しでこのダンジョンの最下層の階へと辿り着こうとしていた時、セシルは後ろで一定の間隔を置いてついてきているラキルへと声を掛けた。
「ねえあなた、このダンジョンの攻略が終わったら少し話があるのだけどいいかしら?」
「話ですか…もちろん構いませんけど……」
「ただその前に一つだけあなたに確認しておきたい事があるわ。あなた、ここを出たらまた元のパーティーメンバーとやり直したいと思っている?」
その質問はラキルにとっては少し癪に障るものだった。
「戻る訳がないじゃないですか。むしろ地上に出たらアイツらの悪行をギルドに報告してやりますよ……」
その答えにセシルは内心で当然かと思う。むしろこれで『戻る』と言おうものなら頭を疑うレベルだろう。
「そう……それじゃあ私にとっては『都合が良い』わね」
「……?」
いまいち彼女の言っている言葉の意味が理解できずに首を傾げるラキルを横目で見つめながらセシルは彼を裏切った【淡紅の一閃】のメンバーを〝哀れんでいた〟。何故ならば裏切り者達である3人はすぐに思い知ることになるからだ。自分達がAランクまで無事に成り上がれたのはラキルのお陰であったと言う事実に。
「(ここに至る途中の戦闘で理解した。このラキル、ハッキリ言ってAランクに相応しい実力を身に着けていない。ここまでやってこれたのは間違いなく幸運を引き寄せるスキルのお陰なのでしょうね)」
最下層へ降りて行くその道中で繰り広げられたマッドバッド戦でセシルの目から見てもラキルの実力はC、もしくはDと言えるほどにレベルが低い。にもかかわらず彼がAランクまで成り上がれたのは間違いなく彼の持つスキルによる恩恵が大きかったのだろう。先程の戦闘の様に相手に都合よく〝不運〟が起き、そして自分は〝幸運〟を呼び寄せる。そんな〝都合の良い偶然〟をスキルで戦闘のたびに何度も手繰り寄せていたからこそAランクまで成り上がれたのだろう。普通に考えればそんな偶然ある訳ないがスキルの力だと言うならば納得は出来る。
「(彼のスキルは遥か格上のモンスターにも通じる。だからこそ大した実力を持たずとも身の丈に合わないランクまで駆け上がれた。そして……他の【淡紅の一閃】のメンバー達も同様なのでしょうね。彼のスキルが戦闘面で発揮されていて相手の不運が起き、その偶然が度々起きたお陰であっさりモンスターを討伐できてしまった。だから自分達が強いのだと錯覚してしまった。実際はまるで大したことがないのに……)」
今回の『常闇のダンジョン』の依頼を受けた際、彼等のパーティーも別のB難易度の依頼をギルドで受理していたはずだ。確か依頼内容は『ライト王国に続いている街道に現れる盗賊団の撃退』だったはずだ。
どうやらここ最近王国に運ばれる物資が狙われているらしく王国騎士だけでなくついにギルドにも依頼が出たらしい。ただ噂によればその盗賊団には中々に腕の立つ猛者も数人いるらしく偶然物資運搬の護衛の依頼を受けていた他のギルドの冒険者が再起不能寸前までの負傷をしたらしい。
恐らく〝淡紅の一閃〟の面子は自信満々でこの依頼を受理したのだろう。自分達の実力ならばB難易度の仕事など余裕だと高を括っているのだろう。
だがもしも彼女達の実力がラキルよりもほんの少々上回っている程度だとしたら……今頃は地獄を見ている頃かもしれない。
そして夢から覚めるだろう。自分達は取るに足らない存在だったと言う現実に……。
◇◇◇
「くそぉ!! どうしてこんな事になってんだ!?」
〝淡紅の一閃〟の《盾使い》であるボーグ・ハルボテは必死の形相で街道沿いの森の中を走り続けていた。《盾使い》である証明となる自らの盾を背中に背負いながら彼の両脇には意識を失った仲間と言う名の役立たずが抱えられていた。
「オラ待てやこのチキン共がッ!!」
「冒険者様ともあろう者が盗賊相手に背を向けて情けねぇぞ!!」
「ひいいいいい!?」
彼の背後からは今回の討伐対象である盗賊団の人間が追いかけてきていた。その顔はとても愉快そうで敵前逃亡している【淡紅の一閃】を嘲るタイプの笑みだった。
「くそっ!! お前達いつまで寝てんだよ!? 早く起きてあいつ等を対処してくれよ!!」
自分に抱えられている《剣士》のミレイ・ウウルスと《魔法使い》のザクロ・マディライアは未だに呑気に気を失っている。二人はそれぞれ頭部から出血しており決して軽くないダメージを引きずっている。
どうして……どうしてこんな事になっているだ? 俺達Aランクパーティーがどうしてこんな……!?
汗だくになって走りながらボーグはこの窮地に陥る前までの出来事を振り返っていた。
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