SランクとAランクの道中の会話
「ねえ……いつまでそうやってついてくるつもり?」
このダンジョン攻略の為の最下層を私は目指している。その途中に死に体の冒険者を見つけてしまい仕方なく治してやったが今はその事を冷徹ながらも少し後悔している。
折角離脱用の為の転移魔道具までくれてやったにも関わらずこのラキルと言うAランクは何故か私の後を付いてきているのだ。まるでカルガモの子供のようにいつまでもウロウロされるのも目障りで仕方がない。
「脱出する為の道具もくれてやったんだから今すぐ逃げなさいよ。どうして私に付いて来ようとするの?」
「ご、ごめんなさい。でもこんな高価な物をタダで貰う訳には、それに命の恩人を置いて逃げるのも間違っていると思って……その、ダンジョンの攻略目的ですよね? せめて恩返しとしてあなたを手伝わせてくれませんか?」
「はぁ……」
数歩分の感覚を置いて同行してくるラキルの言葉に思わずめんどくさそうに息衝いてしまった。
よくいるのよねこう言う勘違いした男って。彼からすれば命を救ってくれた恩人を1人にしておけないって良心からの行動なのだろうけどハッキリ言って余計なお節介焼き。そもそも1人が嫌なら私が『ソロとなった』今でも【不退の歩み】として活動を続ける訳もないのにさ。まぁ彼からすれば私のパーティーの事情なんて知らないのだろうけど……。
もしも今自分を追いかけてきている相手が一般人ならば脅してでも転移用の魔道具を使わせるところだろう。だが背後から自分の意志で後を追いかけているのは同じ〝冒険者〟だ。それならばもう好き勝手させようとセシルは考える。ダンジョンの中で無駄に騒いでもモンスターを呼び寄せるだけで益が無い。
「あなたの言った通り私はこのダンジョンの最下層まで向かうつもりよ。そこに付いていきたいと言うのならば好きにしなさい。でもね、もう私は既に一度あなたに救いを与えた。だからこの先の道中であなたがどうなろうと私に助けを期待しないで」
言いたい事だけ言うとセシルはそのままさっさと先を目指して再び歩を進める。
その冷え切った態度を前に少しラキルは逡巡してしまう。しかし命の恩人に何かを返したいと言う想いが勝り結局は彼女の後を付いていく事にした。
それからの道のりは本当に静かなものだった。前を無言で歩くセシル、その後を一定の間隔を空けてついていくラキル。
だがしばし歩き続けてセシルの中に奇妙な違和感が芽生えつつあった。
どうしてコイツと行動してからモンスターと遭遇しないの?
あれから大分進んだと言うのにランダムに徘徊しているモンスターとまるで遭遇しないのだ。勿論運よくエンカウントしていないだけと言えばそれだけなのだが……。
モンスターとの戦闘の連続で後ろのラキルに声を掛ける余裕などなくなくると思っていたが何だか予想以上に暇な探索となってしまう。こうなってくると静寂な時間が逆に煩わしくなってくる。
「……ところでさ、あなたよく三日間も生き残れたわね」
「え……あっ、はい」
別に後ろの少年と仲良くお喋りしようと思った訳ではない。だが無言で背後からおどおどと付いてこられるよりも何かしら会話をした方がまだマシだ。
突然セシルの方から喋りかけられて緊張で上ずった声を出すラキルであるが遅れて彼女の発言に驚く。
「えっ三日間!? そんなにもう時間が……」
仲間達に裏切られてからは生きて脱出する事しか頭になかった。しかもダンジョン内は暗転に包まれており昼か夜かなど判らない。
それと同時にこの三日間の間にあの薄汚い裏切り者どもが平和に過ごしていると考えると再び血液が逆流するかのような感覚に襲われる。
怒りが一目で滲み出ていると理解できるその表情にセシルは凡そ彼に起きた悲劇の内容が予想できた。
「随分と真っ赤な顔をしているけど……もしかして仲間に裏切られた?」
「な…何で……」
その場で見ていた訳でもないのに核心を突かれて動揺するラキルに対して彼女はギルド内で【淡紅の一閃】のメンバーの報告内容を彼に教えていた。
彼女から聞かされた話は更に火に油を注ぐものだった。どうやらあの裏切り者達は自分はこのダンジョンに住み着いているモンスターに食い殺されたと報告したらしいのだ。あまりの憎さに思わず吐き気すら感じる。
「【淡紅の一閃】の連中はあなたが確実に死んだと報告し救出も求めなかった。でもあなたはこうしてダンジョン内で今も生きている。しかも私が見つけた時はかなり死に体だった。その傷の中にはモンスターと言うよりも鋭利な刃物で斬られた傷跡も見つかったわ。そうなれば自ずと話は見えてくる。そう……【淡紅の一閃】の3人はあなたをこのダンジョン内で処分したのだと……」
「その…通りです。本当にいきなりの事でした。訳も分からず攻撃されて…アイツ等は絶対許せない……!!」
そこまで怒りに燃えているなら私の転移魔道具を使って脱出すればいいのに……。
そう思いつつも口には出さずにいたセシル。だが彼の復讐心はともかく彼女にはどうしても気になる事があった。
「最初の質問に戻るけど改めて訊くわ。よく三日間もこのダンジョン内で生きて来れたわね。仲間に不意を突かれて重傷だったんでしょう? そんな状態でモンスターがランダムに徘徊している場所に取り残されて……」
「……運は良い方ですから。アイツ等に裏切られてからは〝一度〟もモンスターと会敵しませんでしたから……」
そんな事あり得るのだろうか? 三日間もダンジョン内でモンスターと会敵しないなど……。
このダンジョンに住み着いているモンスターの数は平均的なダンジョンからの出現数よりも上だろう。実際に自分だって彼を見つけるまでは何度戦闘になったことか。そんな環境下で死にかけている中でモンスターに出会わなかったなど奇跡も良いところ……。
そこでセシルは今の状況についても考える。彼と行動するようになってからまだモンスターと遭遇していない事に……
「ねえ、もしかしてあなたってモンスターが寄り付きにくい体質とかじゃないわよね? あなたと一緒に行動してから未だに戦闘に発展しないんだけど」
「いえ別にそんな特異体質では……ただ1つスキルを所持しているんです」
スキル所持と言う事に僅かにセシルが興味を示す。
生まれながらに特殊能力を持っている人材、いったいどんな能力なのか尋ねると彼はこう口にした。
「僕の持つスキル名は《幸運》と言って自分にとっての〝幸運〟を引き寄せる力があるみたいなんです」
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