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腐りきったパーティーメンバー


 時間は少し遡りラキルが仲間達の手によってダンジョン内で裏切りを受けたその日、転移用の魔道具によってラキルを置き去りにした後ギルドへと戻って来た【淡紅の一閃】はのうのうとこんな報告をギルドにしたのだ。


 「そうですか。ではダンジョンの中で【淡紅の一閃】のメンバーの1人であるラキルさんは『モンスターに襲われて』命を落としたんですね」


 「はい……私達のパーティーもこの『常闇のダンジョン』攻略は不可能でした。でも……でも……依頼を達成できなかった事よりも仲間を失った事の方が遥かに重いです……!!」


 リーダーであるミレイは置き去りにしたラキルはダンジョン内のモンスターに殺されてしまったと虚偽の報告をギルド職員に話したのだ。

 彼女は自分達の手で仲間を殺めたにも関わらず本気で悲しんでいるかのように顔を手で覆ってその場で涙まで流す。


 「くそっ! 俺がもっと強ければ…何が《盾使い》だ! 大事な弟分も守れず情けねぇ!!」


 「私ももっと後方支援者として彼の援護を万全にこなせたらみすみす目の前で彼を失う事もなかったのに……こうなったのは私の力不足のせいだわ」


 悔しそうな素振りを見せるボーグと悲痛そうな表情をするザクロ。

 仲間の死を悲しむ3人の姿を見てギルド職員や話を聞いていた他のパーティーは同情の視線を向ける。


 「可哀想になぁ。あのパーティーほど仲間意識の強いパーティーもなかったぜ」


 このギルド内では表向きこのパーティーはとても信頼厚いパーティーとして名が通っていた。とても明るく幼馴染想いのミレイ、少しガサツな部分はあるが頼りがいのあるボーグ、そして誰にでも慈愛に満ちた笑みと振る舞いを向けてくれる聖母と言われるザクロ、その3人が『モンスターにラキルが殺された』と言っても疑う者など1人も居なかった。


 ダンジョン内での捏造した出来事を話し終えるとミレイは憔悴したような顔をしながら口を開く。


 「すいません、今日はもう宿に戻らせてください。流石にラキルを失ったばかりでしばらくは仕事の事を考える余裕もなくて……」


 「分かりました。お仲間を失ったばかりですものね。今は皆さん少し休まれてください」


 悲しみに暮れる【淡紅の一閃】の3人に対して職員の女性は今は心を落ち着かせて欲しいと彼女達を気遣う。

 他の冒険者達も3人に慰めの言葉を掛ける。そんな皆の心遣いに対して表面上は感謝をしているミレイ達だがその内心は違った。


 「(ぷっ……コイツ等大馬鹿じゃないの? こんなお涙ちょうだいの演技も見抜けないなんてさぁ~)」


 本当はラキルを殺害したのは自分達だと言うのに安っぽい演技を少し披露しただけでコロッと騙される周りのボケた連中にミレイは吹き出すのを必死に堪える。他の二人も彼女同様に笑いをこらえるのに必死らしくボーグは拳を全力で握り、ザクロは必死に下唇を噛んで俯く。どうやら周りの目にはその姿は悲しみを堪えている様に見えるらしく益々愉快だった。


 そしてギルドを出て宿に戻ると3人は醜い本性を一気に爆発させた。


 「「「ぷっ……あははははははははッ!!!」」」


 周囲の目が無くなった途端に今までとは一変して3人は醜い本性をぶちまけた。


 「あーやっと大笑いできるわぁ! もう何度吹き出しかけたことやら!!」


 バシバシと自身の膝を叩きながらミレイは目尻に涙まで浮かべてゲラゲラと笑う。


 「実際に目撃者が居ない以上は俺達の発言だけが証拠だからな。まさかモンスターでなく俺達仲間に殺されたなんて他の連中も夢にも思わないみたいだなぁ。しかしここまで疑いの目を向けられないとは日頃の行いが良かったかなぁ?」


 これまで何度も共に戦って来た仲間を殺めておきながら矛盾する発言をするボーグに他の二人が更に大きな声で笑った。


 「それにしてもあの奈落に落ちて行くラキルの顔は傑作だったわね。まさか仲間達の手によって命を落とすなんて微塵も想定していなかったと言った表情だったわ」


 「もうやめてよザクロ。あんな寄生虫なんて仲間だなんて私たち全員思っていなかったでしょう?」


 この中でもっともラキルと長い時間を過ごしたはずのミレイは幼馴染を寄生虫と言って斬り捨てる。そしてそのまま甘えるようにボーグの肩に自身の頭を置いて猫撫で声を出す。


 「ねえボーグ、これで目障りな猿は居なくなったんだからこれからはあの猿の目を気にしないでイチャイチャできるわね」


 「ああずるいわよミレイ。自分ばっかり甘えてぇ」


 ボーグの両隣にミレイとザクロが座るとそのまま二人は彼にまるで飼い猫のようにすり寄る。二人の可憐な女性に熱烈な視線を向けられながらボーグは腹の中で笑いが止まらなかった。


 「(ようやくウチのパーティーの不純物が取り除けたな。さて1人空いた分にまた新しい女冒険者でも加入させるかな~)」


 この【淡紅の一閃】は元々は本当に仲間意識の強いパーティーだった。そう、この4人目に加入したボーグが現れるまでは……。


 かつてのミレイもザクロも同じパーティーのラキルを大切に想ってくれていた。特にミレイに至っては長年一緒に居たと言う事で彼に恋心まで抱いていたぐらいなのだ。だが4人目の仲間となったボーグにとってはラキルは目の上のたん瘤だった。だからこそ時間を掛けてボーグはラキルと言う人間を貶めるように陰で働き続けた。

 最初はミレイとザクロも仲間をどこか悪く言うボーグの態度には思う部分もあり時には反論もしていた。しかしパーティーが名を上げて行くと次第にラキルは他の3人よりも劣る部分が浮き彫りになりつつあった。ミレイと同じ《剣士》であるが剣の腕前はハッキリ言ってミレイより劣り性格の方もどこか頼りにならないと二人は思い始めていた。逆に盾となって仲間を護るボーグの男らしい部分に二人は惹かれていき、ついにはボーグによって良い様に懐柔されてしまったのだ。


 その果てはボーグに唆されてラキルの殺害、主犯である彼は無論の事だがこの二人も完全に腐りきってしまっていた。あれだけ一緒に過ごした彼を殺めておきながら今だってボーグにすり寄っているのだから。


 「(まあ悪く思うなよラキル君。お前がもっと強ければこの二人もお前を選んでくれたんだ。しょぼい剣術にしょうもない『スキル』しか持っていなかったお前が悪いんだからな)」


 実はラキルは希少なスキル持ちだったがボーグは彼の持つスキルなどほとんど役に立たないゴミスキルと考えていた。だが彼は、いや3人は気付いていなかった。このパーティー【淡紅の一閃】が短期間でAランクまで上り詰められたのは彼の持つ〝スキル〟による力が大きかった事実に。


 この時はまだ3人は気付いても居ない。無能と捨てた人物こそがこのパーティーに一番貢献していた人物である事実に……。



もしこの作品が面白いと少しでも感じてくれたのならばブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。自分の作品を評価されるととても嬉しくモチベーションアップです。

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