Sランク《魔法使い》
ついに第1部キャラ登場ですよ~。
「はあ……はあ……もう……ダメだ……」
もうラキルの精神はいつ限界を迎えてもおかしくない状態だった。
仲間達に理不尽にダンジョンへと捨てられた精神的ショックも大きいがそれ以上に残りの体力面がもう限界手前だった。
奈落へと吹き飛ばされた彼は〝幸運〟にもまだ生きていた。だが五体満足無事なわけもなく着地の際には片脚が完全にへし折れてしまっていた。それにザクロの魔法で腕には大きな火傷、そして腹部には裂傷が刻まれている。
痛い……苦しい……お腹すいた………。
滑落の際に彼の背負っていた鞄の中には応急処置用の道具がいくつか備わっていたので腹部の傷や火傷の方は最低限の処置が出来た。だが所詮は応急処置に過ぎず、しかも折れた足に至っては痛みがどんどん酷くなる。
「(くそぉ……転移用の魔道具はリーダーのミレイが持っていたからな……)」
頭の中でこれまで自分達を引っ張って来た幼馴染の顔を思い浮かべると思わず下唇を噛んでいた。
一体自分があの3人に何をしたと言うのか? あれだけ仲良く一緒に背中を預けていたにも関わらずこの扱いはいくら何でも非道を上回る。
しかしかつての仲間達をいくら恨みがましく思いながも現状の窮地を脱せられる訳ではない。
「くそ……もうこれ以上は動けない……」
痛む脚を引きずりながらダンジョン内を歩き続けて来たラキルも遂に限界が訪れた。唯一の道標になるランタンの明かりもどんどん弱まっている。もうこの魔道具に魔力を注ぐ余裕すらないのだ。
ここで死ぬのかな僕? こんな薄暗いダンジョンの中で誰にも看取られる事もなく……。
「(ははっ…まぁ生きたままモンスターの餌になるよりはマシかな……)」
もしこの地獄を生きて出られたのならばあの裏切り者達に然るべき裁きを与えたかった。それだけが唯一の心残りだった。
そのまま満身創痍の体を小さな虫の這っている地面に転がしているとこちらに向かって何かが近付いてきている気配を感じた。
「(何かが近付いてきている。でもこの足音…モンスターと言うよりも同じ人間の足音のような気が……)」
もしかして他のダンジョンにやって来た冒険者に見つけてもらえたのかも、などと都合の良い幻想を一瞬抱くがすぐにすぐにその考えを破棄する。今近付いてきている足音はモンスターのものに決まっている。もしくは未知のダンジョンと言う事で人型のモンスターかもしれない。いづれも他の冒険者が助けに来てくれたなど〝幸福〟な出来事は自分に訪れない。
ハハッ……仮にも僕は〝幸福に関するスキル〟を持っておきながらこんな末路を辿るだなんてね。せめて……意識が途絶えてから襲われたかったな。それなら痛みも感じずに済んだのに……。
途切れつつある意識の中でラキルは最後の最後に訪れる苦痛に怯えていた時だった。
「これは驚いたわね。まさか生き残っている冒険者が居るだなんて」
自分の耳に届いてきた女性の声にラキルは我が耳を疑いながらなけなしの力を振り絞って顔をゆっくりと上げる。するとそこには1人の美しい女性が立っていたのだ。
金色の美しい髪に整った顔立ち、それにとても豊満なスタイルをし大きな帽子を被っているその女性をラキルは知っていた。
「Sランクの……【不退の歩み】の《魔法使い》の……セシル・フレウラ…さん……」
自分の目の前に立っている人物はラキルもよく知る人物であった。同じギルド【リターン】に所属している〝最強のソロ冒険者〟として有名なSランク冒険者であるセシル・フレウラと言う人物だ。とは言え彼女と交流がある訳ではない。ギルド内での最強角の1人として知っているにすぎず、自分のような冒険者からすれば完全な高嶺の花のような人だ。
予想外の人物の登場に驚いているその時だった、背後からこちらへと猛スピードでモンスターが接近して来たのだ。
「チッ、こんな時に面倒ね。もう何度目の戦闘かしら」
億劫そうな声を出しながらセシルは魔杖を構えて迎撃用の魔法で足止めをしようとする。
「〈ファイアーボール〉」
ダンジョン内では大火力の魔法では崩落の恐れがある為にあえて初級魔法で迎撃するセシル。当然だがいくらSランクとは言え初級魔法程度では下層に潜むモンスターを戦闘不能にはできないだろう。この攻撃もまずは脚を止める為の牽制に過ぎない。
だがここで予想外の出来事が起きた。何とマホジョの放った〈ファイアーボール〉はモンスターの急所を的確に撃ち抜いたのだ。そのままモンスターは当たり所の悪さから一瞬で意識を飛ばしその場に崩れ落ちる。
「あら凄い偶然ね。まさか初級魔法1発で仕留められるなんて〝幸運〟だったわ」
迫りくる脅威を瞬時に対処出来た事に安堵の息を吐きながら視線を倒れているラキルの方へと向ける。
彼はセシルがモンスターを無事に倒せた場面を見て安堵し、そして他の冒険者に見つけてもらえた事から緊張感が抜けて意識を失ってしまった。
「はぁ……面倒だけど放置も出来ないわね」
そう言うと彼女は倒れているラキルを介抱し始めたのだった。
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