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向かうのは地獄の特訓場

今回で第一部は終了となります。次回からは時間が少し進み第二部となります。


 「ちょちょちょちょっと待て!? 話が急にぶっ飛んで頭に入ってこないんだが!?」


 あまりにも淡々と物騒な発言をしたハルに思わずムゲンが口を挟んでしまうのも無理はないだろう。塔の攻略を達成できずに途中で戦死、そう言われても理解が及ばない。では今自分の目の前に居る二人は幽霊だとでもいうのか?


 「まあ矛盾していると思うのも無理ないだろうな。でもハルの言っている通りなんだよ。私とハルは塔の中で一度死んだ。そして気が付けば塔の入り口で目を覚ましていた」


 話を聞いて混乱するムゲンとウルフに向けてソルは更に詳しく事情を説明し出した。


 二人が足を運んだ『修練の塔』は自らの力を高めるための修練場として名のある冒険者ならば一度は耳にするらしい。だがムゲンは【真紅の剣】で雑用同然に扱われておりリーダーのマルクは世間知らずの為その情報がパーティー内に入って来ておらず、そしてウルフは【異種族の集い】で奴隷扱いをされ外の世界の事などに構う余裕すらなかった。


 話を戻すがこの『修練の塔』は明らかに自然にできたものではない。しかし誰が建造したのか一切の謎に包まれている。一説によれば天まで伸びるその塔の頂点にはこの『修練の塔』の主である〝仙人〟が暮らしていると言われているらしい。

 だが自らを鍛え上げるにはこの場所はうってつけと言うのは事実だ。各階から出現するモンスターのレベルは高く、何よりこの塔の中では得られる経験値も外部と比べて格段に高いそうなのだ。


 「私とハルも大体20階まで辿り着いた頃には今に近いレベルまで力を付けれたからな」


 「そんな短時間でそこまで強くなれる場所が実在するなんて……でも途中で二人が死んだって言うのはどういう意味なの?」


 そう、一番気になるのはまさにそこだ。二人が今もこうして生きている以上は死んだと言うのは比喩的な表現なのだろうか?


 だがウルフの質問に対してソルは自分達の身に起きた事実をありのまま告げる。


 「どういう意味もないさ。私とハルは30階頃に急激に強くなったモンスターによって殺された。だが気が付けば塔の入り口へと飛ばされていたんだ」


 「す、すまないソル。話を聞いてもいまいち理解が及ばない。今の話を纏めるとつまりこういう事か? 『自分達は塔の中でモンスターとの闘いによって戦死した。だが気が付けば塔の入り口まで戻されて何故か生きていた』とそういう事なのか?」


 「ああその通りだ。私とハルは間違いなく一度死に、そして五体満足の綺麗な状態で塔の入り口に戻されていた」


 当時ソルとハルも自分達の身に起きた現象に混乱していた。まさか今まで自分達は幻覚でも見ていたのかと混乱していたが彼女達以外にこの塔を攻略に来ていた他の冒険者から聞かされた話に驚愕した。


 「あの塔の中で死ねば自動的に所謂〝初期状態〟となって入り口に戻されるらしいんだ。当時の私達はその情報は持ち合わせていなかったから大層驚いたよ」


 「その初期状態ってどういう意味だ?」


 ソルの口から出て来た単語の意味が解らず詳しく話を聞くとハルが引き継いで説明してくれた。


 「簡単に説明するのならば塔の中で得た経験値、つまりは塔の内部の激戦の末に手にした力や経験が無かった事になるんです。塔に挑戦する前の強さにリセットされると言えばいいでしょうか? あの塔の中で私とソルは何度もモンスターに追い込まれたお陰でかなり実力を付け魔力総量もかなり上昇しました。しかし頂点に辿り着く前に死した私達は気が付けば塔の入り口に飛ばされ手にした力も失い魔力総量も挑戦前の状態に戻っていました」


 「しかもあの塔は一度入ってしまえばもう後戻りは不可能だ。特殊な結界がそれぞれの階の出入り口に張られていて完全な一方通行状態だ。下の階に戻ろうとしても結界で弾かれ途中退場も敵わない。一度入ってしまえば頂点を目指すか、それとも死ぬかの二択しか選べない」


 実際に塔に入った二人から聞かされた話にウルフの顔は少し青ざめる。

 その『修練の塔』は中々にえげつないシステムと言えるだろう。一度入ってしまえばもう後戻りできない。しかも途中で死んでしまえばその塔の中で得た経験は無かった事になる。これまでの努力が全て水の泡となるこのシステムは挑戦者の心を折るには十分だろう。


 「これまでその『修練の塔』の頂点に辿り着いたヤツは居るのか?」


 「どうだろうな? 少なくともあの塔の頂点に到達したヤツの話は耳にしたことが無いかな」


 そう言うとソルはムゲンに対してこう提案をしてきた。


 「なあムゲン、あの塔は中々に鬼畜な仕様だが得られる経験値は大きい。私達パーティーのレベルアップを図るなら挑戦してみないか?」


 かつてあの塔に挑戦して中間地点にすら辿り着けなかったソルは正直悔しさを感じていた。だからこそ機会があればリベンジを果たしたいと考えていたのだ。その想いはハルも同様らしく特に異論を口にする様子はなかった。

 

 かなり怪しげな建造物ではあるが実際に足を踏み込んだ二人の話を聞く限りでは確かにレベルアップを図るにはうってつけの場所とも思える。


 「今の話を聞いて俺は正直試してみても良いと考えている。少なくとも命の保証はされているからな……」


 そう言いながら彼は視線をウルフの方へと移す。もしここでウルフが拒むのならばムゲンとしてもその塔の挑戦は止めにしようと思っていたが彼は自分の恋人の精神力を甘く見ていたらしい。


 「私も……挑戦してみたい。今よりも強くなれる可能性があるのなら……」


 最初は話を聞いて少し恐怖の感情もあったがそれ以上にその塔を攻略できれば今とは比べ物にならない強さを得られると言う確信を持ったのだ。それに自分独りでなく仲間達が一緒ならばどんな試練でも耐える覚悟を彼女はもう持っていた。

 

 「……よし、行ってみるかその『修練の塔』に……俺達【黒の救世主】がより高みを目指す為に……」


 ムゲンがそう言うと他の3人も無言で頷く。その瞳には彼に負けず劣らずの強い覚悟が宿っていた。


 こうして【黒の救世主】の血反吐を吐く程の過酷な挑戦が幕を開けるのだった。



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