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もっと自信を持てよ


 それはまだムゲンがソロの冒険者として活動を行っている時代の話になる。

 彼は魔力量が平均よりも低いと言う理由から他の冒険者達からチーム加入を断られ続けていたのだ。どうせ仲間にするのなら有能そうな人間を、そうギルドの冒険者達は考えていたからだ。

 たとえ魔力量が少量といえどもそれだけでその人間の全ての価値が決まるわけではない。事実ムゲンは肉体強化なしでもモンスターと渡り合える〝特殊〟な強靭な肉体を持ち合わせていた。つまり戦力としては決して無能などではなかったのだ。だが周囲の冒険者はあくまで魔力の総量にこだわり彼を自分達のチームに引き入れようとはしなかった。


 正確な事実を言うのであれば実はこの時にハルとソルの二人は彼とチームを組みたいと望んでいたが自分達の実力ではまだ彼と一緒に戦うに相応しくないと思い自分を鍛えることを最優先にしていた。だが無論のことムゲンの与り知らぬ事実だ。


 だがその二人だけでなくムゲンと共に戦いたいと手を差し伸べてきたとあるパーティーが居たのだ。


 「なあお前、いつも独りで仕事に行ってるけどよければ俺達のパーティーに入らないか?」


 いつものように独りでも可能そうな依頼を掲示板の前で吟味している時に背後から声を掛けられた。

 このギルド内では爪弾き状態で基本的に自分に話しかけてくる人間なんてせいぜい受付嬢くらいだった。だからムゲンは信じられないと言った表情で反射的に振り返る。


 「おいおい何て顔してんだよ。ちょっと声かけただけだろ」


 振り向けばそこには自分と同年齢位の1人の少年と2人の少女が立っていた。


 「えっと……?」


 「ああ悪い悪い。まずは自己紹介からだよな。俺は《魔法剣士》のマルク・ビーダルだ。それでこっちの二人がメグとホルンな」


 「ちょっとおざなりな紹介やめてよね。あっ、私は《魔法使い》のメグ・リーリスって言うの。よろしくね」


 「私は《聖職者》のホルン・ヒュールよ」


 自分に声をかけてきた人物達は表裏を一切感じさせない笑みを向けて自己紹介をしてくれた。

 このギルド内ではこんな純粋な顔を向けられる事がなかったムゲンはこんな時にどう返せばいいか分からずつい素っ気なさそうに名前と職業だけを名乗る。


 「ムゲン・クロイヤ、職業は《拳闘士》だ」


 「へえ~《拳闘士》かぁ」


 ムゲンの職業を聞き終わったマルクはニッと真っ白な歯を見せながら改めて自分をパーティーに勧誘してきた。


 「じゃあ互いの名前も職業も分かったことだしどうだ、俺達のパーティーに入らないか?」


 「……何で俺なんかをパーティーに入れたがる?」


 これまで自分はいくつものパーティーへ加入を頼み込んできたがどこもかしこも門前払いだった。そんな自分を何故パーティーに入れたがるのか彼には理解できなかったのだ。もしかすれば騙されているのではないかとすら勘ぐってしまう。

 そんな彼の疑念に満ちた目を向けられているマルクは特に気にすることなくマイペースな調子でこう続ける。


 「いや実は俺達まだ駆け出し冒険者でさ。受付の人から聞けばお前って俺達と年も変わらないけど独りでいくつも依頼をこなしてきたらしいじゃん。たった一人で何度も依頼をこなし続けるお前に少し憧れてさ、もしよかったら俺達のパーティーに入ってほしいと思ったんだよ」


 「俺なんぞよりももっと色々有望な冒険者はいるだろ。それとも憐れみから俺を誘っているのか?」


 そう言いながらそっぽを向くムゲン。

 そんな彼に対してある少女が言葉を投げる。


 「はあ…ねえあなた、もう少し自分に自信を持ったらどうかしら?」


 自分を卑下するムゲンに呆れた様なため息とともにそう行ったのは《聖職者》のホルンであった。


 「あなたの噂はそれなりに聞いてはいるわ。魔力が少ない、そのことで他の冒険者から陰で笑われている事もね」


 本人がもっとも気にしているであろうデリケートな部分をザックリと口にするホルン。だがそれは決して馬鹿にしているのではなく彼に自信を与えるための激励に近いものだった。

 

 「魔力が低い、にもかかわらずあなたは今日までいくつもの依頼を〝独り〟でこなし続けてきた。それがどれだけ凄い事かもう少し自覚を持ちなさいな」


 それはこのギルド内で他の冒険者から初めて言われた言葉であった。

 今までどれだけ依頼を成功させてこようが彼は心の奥底では自分に自信を持つ事が出来ずにいた。周りの冒険者が誰も彼も自分を『無能』と言っていたのだ。それ故にどれだけ依頼を達成し続けても胸の奥には棘が刺さっていた。


 だがホルンのこの叱咤を受けて彼の胸に刺さり続けていた棘がぽろっと抜けた感覚がした。


 「本当に俺でいいのか? 俺をお前達のパーティーに入れて……」


 「なに遠慮してんだよ。そもそも俺達の方から頼んでるんだぜ」


 そう言うとマルクは未だに最後の一歩を踏み出せないムゲンへ手を伸ばす。


 「俺達【真紅の剣】に入れよムゲン。俺達はお前を大歓迎するぜ」


 まっすぐに伸ばされるその手をしばし無言で見つめ続けるムゲンは一度瞼を閉じる。そして再び瞼を開くとゆっくり手を伸ばした。


 こうして彼は遂に手にすることが出来たはずだった。依頼達成の報酬なんぞよりももっと価値と意味のある『仲間』と言う存在を……。



 ◇◇◇



 まるで走馬灯のように初めて【真紅の剣】へと加入した時の記憶が鮮明に蘇るムゲン。

 視線の先では自信を持てなかった自分を奮い立たせてくれたホルンが今は項垂れている。まるで周りの冒険者すべてに爪弾きとされて頼る者の居なかった孤独だった過去の自分を見ているようだ。


 「(どうしてこうなったんだろうな…)」


 自分の事だけしか考えられなくなったホルンだが最初からあんな人間性だったわけではない。それはマルクとメグも同じだ。彼等は『無能』のレッテルを貼られていた自分を受け入れてくれたんだ。


 俺があの三人とやり直せる事はもうないんだろう。でも…あいつらがもう一度昔のように戻れる可能性があるなら――


 「もう少し自分に自信を持ったらどうだホルン?」


 ムゲンがそう言うと彼女は地面に顔を向けたまま肩をぴくっと揺らし反応する。


 「お前は仮にもAランクパーティーの冒険者だろ。俺だけの功績でそこまで成り上がったわけじゃないはずだ。だから…もっと自分に自信を持てよホルン」


 かつて自分自身に失望を感じていたムゲンはホルンの言葉で自信を持てるようになった。別にこれはその借りを返すわけではない。でも…あの三人がこのまま腐って終わっていくのは心のどこかで嫌だったのだろう。


 だって【真紅の剣】は自分を初めてパーティーに誘ってくれた『仲間』なのだから。


 ムゲンは振り返らずそれだけを言うと待たせているハルとソルの元へと向かう。今まで項垂れていたホルンはそんな彼の背中を見つめて自分の過去を思い出していた。


 「ああ…そうだったわね。偉そうに『自信を持て』なんて言っておいて私は何をしているんだか」


 そう言うと彼女は立ち上がりそのままムゲンの元を去っていった。

 だがその表情は先ほどまでとは違いまるで憑き物が落ちたかのように真っ直ぐ自分の進むべき道が見えていたみたいだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 昔はほんとに良い奴らだったんだな、やっぱ力が人を変えてしまうのか
[良い点] 『自信を持ての』過去と現在のやり取りが良いですね。仲間になる過去の時と決別の現在でも、思い遣りを感じる。実にいい話でした。こういうの好きです。
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