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レベルアップ化


 ムゲン達が【ディアブロ】第5支部を完全壊滅してからもうかれこれ二週間近く時間が経過していた。守るべき幼馴染を護れず苦悩していたムゲンも随分と立ち直っており今ではギルドの掲示板から見繕って来たモンスター退治の依頼をこなしていた。

 

 「そりゃっと!」


 現在ムゲン達【黒の救世主】が受けている依頼はワイバーンの討伐であった。ワイバーンはA難易度の中々に危険なモンスターであるが今のムゲンにとってはまるで相手にならなかった。

 あの第5支部での激闘で更に自らの力を覚醒させ、これまで低かった魔力量も膨大に増えており今のムゲンにとってはもはやA難易度のモンスターなどDやEのような低ランクの難易度レベルとほとんど変わらぬほどに感じるぐらいだ。


 そして実力に磨きがかかっているのは他のパーティーメンバーである3人も同様であった。彼女達もムゲンと同じくA難易度のモンスター相手に一切危なげのない華麗な立ち回りで次々と狩っていく。

 自分の仲間の余裕を感じられる戦闘風景を見ながらもムゲンは自身のレベルアップについて思案する。


 幼馴染を失った怒りによって自身の中の壁をまた1枚破壊して更なる力を目覚めさせはした。だが今の自分はハッキリ言ってその力を持て余している状態だった。


 「(あの日以降から単純な肉体強化だけじゃなく魔法も扱えるようになりはしたが……)」


 自分目掛けて上空から急下降してくるワイバーンへと手の平をかざす。すると手に平から赤い魔法陣が出現しそこから魔力の塊が放出される。


 「ギギッ!」


 放たれた真っ赤な閃光は一瞬でワイバーンの肉体を消し去ってしまう。


 「相変わらず凄い威力だな。骨すらも残さず塵と化してしまうなんてな」


 最後の1体を狩り終えたソルがこちらに近づきながら空へと昇って行く赤い軌跡を眺めながら呟いた。


 確かに我ながら強力な威力だとはムゲン自身も思う。だが同じパーティーに居る《魔法使い》であるハルと比べればムゲンの扱う魔法はただ力任せの幼稚なものだとも言えた。こんなものは内に眠る強大な魔力を工夫もなく吐き出しているだけだ。出現する魔法陣だってまるで子供の落書きのようで酷く不格好だ。


 魔法とは内の魔力を上手く活用し炎や雷のような力に変換し、それらを技に昇華する事を言う。魔力によって創意工夫の力を振るう者を《魔法使い》と言うのだ。だがムゲンの扱う魔法は体内の魔力をそのまま一切の工夫もなく放出しているだけだ。いくら威力が大きかろうが魔法を扱う者としては未熟児レベルとしか言いようがない。


 「(強大な力でもこれじゃ持ち腐れも良いところだ。このままじゃ駄目だよな……)」


 自ら解放した力を大雑把に振るっている現状にムゲンは少し考える。

 自分の力すら完全に律する事の出来ない冒険者がこの先も大事な恋人達を護れることは出来るだろうか?


 助ける事の出来なかったミリアナの顔が脳裏を一瞬だけ過る。あの時に自分にもっと力が有れば……そんな苦い後悔などもう二度としたくはない。


 「随分と浮かない顔ですがどうかしたんですかムゲン?」


 気が付けば全てのワイバーンを討伐したハル達が心配そうな顔をしながら近くまで集まって来ていた。


 「ごめんごめん、ちょっ考え事をな。別に大した事じゃないから……うぐっ」


 「また自分だけで抱え込もうとしているな。何か思い悩んでいるなら私達にちゃんと報告しろよなー」


 そう言いながらソルは自分の目の奥を覗き込んで来た。

 

 別段大きく気落ちしている訳でもないから相談するほどの事じゃ……いや相談すべきか。恋人であると同時に彼女達はパーティーの仲間なんだ。現状のパーティー内の戦力把握と言う意味合いも兼ねて話してみるか。


 「実は現状の自分の力について少し考えていたんだよ。あのソウルサックとの戦いの中で俺の中の枷が外れて更に大きな力を引き出せるようになった。でも今の俺はその力をまるで活かせていないと思ってな……」


 ムゲンの言葉に対して一番納得したのは《魔法使い》のハルだった。

 今までとは違い今の彼は魔法を扱えるようになりはしたが一流の《魔法使い》であるハルからすればその使い方は覚束無い。ただ強大な魔力を工夫なくぶつけているだけだ。


 だが自分の力に不安を募らせていたのはムゲンだけではなかった。この相談を切っ掛けにウルフも口を開いてこう言った。


 「正直な話をするなら自分の力に不安感を抱いているのは何もムゲンだけじゃないよ。正直私だって今の自分の実力に伸び悩んでいる」


 ウルフの所属しているSランクである【黒の救世主】は全体から見てもバランスの取れたパーティーと言えるだろう。しかしこのチームの中でウルフは自らの能力が一番低いと自覚していた。

 彼女の役職は《弓使い》でありその戦闘スタイルは遠距離攻撃を得意とする。他の《弓使い》から見てもウルフの射撃能力は格が違うかもしれない。だが同じパーティーの3人と比べると戦力的には一番下だと言うのも事実だった。


 そして自らの力に懸念を抱いているのは他の二人も同様だった。


 「あの第5支部での戦いで自分の未熟ぶりは私も実感していました」


 そう言いながらハルの脳裏に映ったのは自分の師であったマホジョの顔だった。


 仮定の話などどれだけ広げても意味など無い。だがこの先の未来の為により一層力を付ける事で誰かを失う悲劇を食い止めれるなら行動を起こすべきだと4人は考える。


 「今後も【ディアブロ】のような強大な敵と戦う機会があるかもしれない。そう考えると俺達パーティーの今以上のレベルアップを考えた方が良いのかもな」


 【黒の救世主】結成から相当数の依頼を達成して来たムゲン達は金銭的にもかなり余裕がある状態だ。しばらく仕事を休み長期間の鍛錬に時間を割いても生活に支障は出ないだろう。

 そんなことを思案しているとソルがある提案を出して来た。


 「なあムゲン、実は1つレベルアップに最適な場所があるんだが……」


 「ん、そんな都合の良い場所があるのか?」


 ソルの持ち出した話に興味を惹いたムゲンがその場所について尋ねる。

 だが鍛えるのに最適な場所だと言いつつもソルの表情はどこか神妙であった。


 「このライト王国から北西に向けて一週間歩き続けた場所に1つの巨大な塔があってな、その名も『修練の塔』と言ってその塔の頂点まで辿り着く頃にはどんな駆け出し冒険者でもSランク、いやそれを上回る力を得られるらしい」


 「おいおいそんな都合の良い話が本当に……」


 「ありますよ。私もその塔についての情報は持っています」


 どこぞの冒険者の流した眉唾の情報ではないかと訝しむムゲンに対してハルもその塔についての情報を持ち合わせていたので実在する事を肯定した。

 しかもそのままハルの口からは更に驚きの情報が提示される。


 「もっと言えば私とソルは1度その塔まで赴き頂点を目指しましたので……」


 なんとハルとソルの二人は過去にこの『修練の塔』へと上ったそうなのだ。

 二人がこの塔へと足を運んだのはまだSランクの称号を得る前の頃だった。少しでも自分達の恩人であるムゲンに追いつきたいと言う想いからこの塔でレベルアップを図ったらしい。


 「それで結局二人はその塔の頂点まで辿り着けたのか?」


 「いえ、私とソルは頂点どころか中間地点まで辿り着けませんでしたよ。到達するその前に私達は――死んでしまったのですから……」



 

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