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【ディアブロ】本部内での予想外の事態


 これはムゲン達が【ディアブロ】の第5支部を壊滅させてから数日後の話となる。


 世界の裏で名を轟かせていた巨大闇ギルドの5つの内の2つの支部を壊滅させられた事で【ディアブロ】本部には残りの3支部の支部長が本部へと緊急招集されていた。

 本部の招集命令を受けた第1支部の支部長である女性、エル・サディドは自らの美しい金色の髪をかき上げながら溜息を吐いていた。


 「(それにしても第3支部に続いて第5支部まで壊滅させられるとはな。表の冒険者達の中にも一線を画す実力者が世に出始めて来たと言う事か……)」


 第5支部の支部長であったソウルサックは決して好きではなかった。だがヤツの実力に関してだけ言うのであればエルは評価に置いていた。ハッキリ言って最初に壊滅させられた第3支部の支部長であるナナシを遥か上回る実力を有していたと言えるだろう。


 「(目を通した報告書の内容限りでは2つの支部を壊滅させるに至ったのは【黒の救世主】のムゲン・クロイヤと言う少年らしいが……)」


 報告書に記載してあったこの名前にはエルにもよく聞き覚えがあるものであった。何故なら彼はこの【ディアブロ】のギルドマスターであるオーガ・ドモスに目を付けられていた。その切っ掛けはハッキリ言って大したものではなかった。それなりに実力のある末端組員の1人があの男の手によって撃破され目を付けられた、ただそれだけの取るに足らない存在だったはずだ。だが気が付けばこの組織に中々の大打撃を与えるほどにまで成長をしている。

 このままではこの本部にまでいづれは乗り込んで来るのではないかと一瞬考えがよぎる。しかしエルの表情には一切の動揺は見られない。


 所詮自分達は闇で蠢く卑しい存在。たとえ一時は順風満帆だとしてもいつかは何者かの手によって終わりを迎える。悪党などの最後は惨めなものだと相場が決まっている。いつかは自分にも報いを受ける時は来るだろう。

 

 だがそれでも構わないさ。汚れた世界に身を浸すからこそ得られるものもある。


 ギルドマスターの待っている部屋まで歩を進めていると前方に見知った人影が確認できた。


 「先に本部まで来ていたのかユーリ、いつも呼び出しに遅れていたソウルサックとは違いお前は感心だな」


 「あっ、ご主人!!」


 自分に呼び掛けて来た人物の姿を確認して第2支部長であるユーリは満面の笑みを浮かべながらエルの方へと駆け寄って来る。


 「お、お久しぶりですご主人」


 「ああ直接顔を合わせるのは久しいな。第2支部の方は上手く管理できているか?」


 「だ、大丈夫です! 僕を拾ってくれたご主人の期待は決して裏切らないように懸命に勤めていますから!!」


 自分はちゃんとしているんだと必死にアピールするユーリの姿に思わずエルの顔がほころんだ。その姿はさながら飼い主に戯れようとする子犬を連想させる。

 そのまま自分にじゃれつくユーリを同伴させてボスであるオーガ・ドモスの待つ部屋まで向かった。


 巨大闇ギルドの総本部と言う事もあり支部とは比較にならないほどの面積を誇るのでこの本部では移動も一苦労だ。しかし歩きながらエルには少しずつ言いようのない違和感を感じつつあった。


 ………この奇妙な違和感は何だ? 


 この本部のアジトに踏み入ってからエルには形容しがたい違和感が強まっていた。

 自分の杞憂なのかと思いながらもようやくオーガの待つ部屋の前までやって来た二人だが扉を開けようとする前にその動きが止まる。


 「どういう事だこれは……」


 扉を開けて部屋の中を確認する前からエルは瞬時に異常を察知し、それにコンマ数秒遅れてユーリも異変を察知した。


 「ご、ご主人……これって……」


 「ああ…濃い血の匂いだ……」


 この扉1枚隔てた向こう側から香る血の匂いを察知して二人は部屋に入る事を躊躇ってしまう。しかしボスの部屋から血の匂いがする事は決して珍しくない。この闇ギルドの中では内部から裏切り者が出る事など珍しくも無い。所詮は表の道から外れた連中の集まり、むしろ闇ギルドに所属している者が全て熱い忠義を持つ方が珍しいのだ。

 今ボスの部屋から血の匂いが漂うのもボスがいつもの様に裏切り者を粛清したと考えれば辻褄はあう。だが問題なのは部屋の中から感じる〝気配〟の方にある。


 「部屋の中から感じられる気配の数は二つだが……」


 歴戦の猛者であるエルは直接部屋を視認せずとも意識を集中すれば気配で相手の動きを察知できる。

 この扉の向こう側からは確かに二人分の気配は感じられる。だがしかしそのうちの1つの気配が動く様子が見られない。普通に考えればボスが誰かを粛清しその死体が転がっている、そう判断すべきなのだろう。だが胸騒ぎが治まらないのだ。


 ――『いつまでも扉の前で佇んでないで入ってきたらどうなの?』


 部屋の中から聴こえてきた声には二人は聞き覚えがある。


 「あの、い、今の声って第4支部長さん…ですよね?」


 「ああ…そうだな……」


 扉の向こう側に居る相手は自分達と同じく支部の1つを任せられている第4支部長の声に間違いなかった。


 だがだとしたらこれはおかしい。何故ボスの待っている部屋から血の匂いが漂いそして第4支部長の声が聴こえる? これではまるで部屋の外まで充満する濃い血の匂いの正体は動かないボスの……。


 そこまで考えが及ぶとエルは瞬時に抜刀して扉を切り裂き中へと突入する。


 「いきなり扉を切り裂いて入って来るなんてノックを知らないのかしら?」


 切り裂いた扉の向こう側に広がる光景に思わずエルは息をのむ。


 そこに居たのは【ディアブロ】第4支部長である女性、ウィッシュ・リードレイドと――全身を幾重にも切り裂かれ血濡れた姿の【ディアブロ】のギルドマスターであるオーガ・ドモスであった。 



 

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