《剣聖》と《剣聖》のすれ違い
「なるほどな、つまるところ【ディアブロ】本部に繋がる情報は残っておらず……か……」
「申し訳ありません国王様。ご期待に沿えず……」
「そう畏まるな。お主を責めている訳ではない」
ライト王国の貴族街の中でももっとも格式の高い王の済む王宮内、その〝謁見の間〟ではこの王国内では3人しか持たない《剣聖》の称号を持つ騎士であるローズ・ミーティアが今回の【ディアブロ】支部の調査結果を報告していた。
残念ながら本部へと繋がる目ぼしい情報は無かったのだが崩壊したアジトの中でも奇跡的に息のあった末端の組員を1人捕らえる事に成功した。口が利けるまで治療を施した後に出来うる限り情報を絞った結果この支部はなんと人ではなくドラゴンキラーの剣によって管理運営をされていた事実には思わず声を失ってしまった。
「他にもその組員の話ではあの支部内には希少な〝スキル持ち〟も複数人居たそうです。崩壊したギルド内にはその組員から聞いた特徴と一致する死体が3体確認できました。そして副支部長も……しかし残り二人に関しては亡骸は確認できず、恐らくはどさくさに紛れて逃げ出したのではないかと……」
「ふ~む、希少な〝スキル持ち〟を複数人も有するか。未だに【ディアブロ】の持つ戦力の底は見えずか……」
この世界の裏側で暗躍する闇ギルド【ディアブロ】の名は多くの国にとって悩みの種だ。このライト王国に限らず他国でも【ディアブロ】の本部に繋がる情報は喉から手が出るほどに欲しいものだろう。しかし今回の様に大した情報を得られない事はもう珍しくも無い。だからこそ国王にも大きなショックは見られなかった。
「報告ご苦労だったなローズよ。もう下がってもよいぞ」
「はい、では自分はこれで……」
深々と頭を下げて〝謁見の間〟から退出しようとするローズだが何かを思い出したの王に呼び止められる。
「ああそうだ。勤めに戻る前に娘に顔を出してくれるか? 最近アセリアが『ローズが仕事ばかりで構ってくれませんのー!』と言って駄々をこねて困っているのだ」
先程までとは違いその顔は一国の王と言うよりも純粋に娘を想う優しい父親の顔だった。
その表情を見て内心では始終緊張気味だったローズの表情も思わず柔らかくなる。
「畏まりました国王様。それでは」
ローズの退出後に国王は深いため息を一度つくと〝とある冒険者チーム〟について考える。
「それにしても支部とは言え【ディアブロ】の基地1つを瓦礫の山に変えるとは。確か【ファーミリ】のギルドに所属している【黒の救世主】だったか? どうにかこの力を上手く活用できないだろうか……」
◇◇◇
〝謁見の間〟から退出後にアセリアの居る部屋まで急いで向かおうと王宮内の長い廊下をローズが歩いていた時だった。前方から1人の女性騎士がこちらへと向かって歩いてくるのが見えた。
「あらローズじゃない。こんな場所で顔を合わせると言う事はアセリア様に呼び出されたのかしら?」
「クワァイツ・ギンニールか。そう言う貴様こそ何故王宮内に居る?」
彼女の前に現れたのは同じく《剣聖》の称号を持つ女性騎士であるクワァイツ・ギンニールと言う名の人物だった。この王国の第二騎士団を率いる騎士団長だ。だが第三騎士団の団長であるローズとはお世辞にも友好的な関係とは言い難い雰囲気を互いにむき出しにしていた。
「私達第二騎士団は他国に赴いていた第一王女様の警護に今しがた帰還したところなのよ。これから国王様にも挨拶をするつもりだったけど……そう言うそちらこそどうして王宮に? ああごめんなさいね。そう言えば国王様の命によって第三騎士団は崩壊した闇ギルドの調査なんてつまらない任務を与えられていたのよね? 崩壊した建物からは何か有益な情報を得られたかしら?」
「貴様……」
完全にこちらを見下すかのような物言いに思わずローズからは殺気が漏れ出る。その殺気に当てられてクワァイツからも猛獣のような威圧感が放たれる。
「そう言えばあなたは第二王女であるアセリア様とも親しかったわね。もしかして調査報告のついでに王族にコネでも作るつもりで王宮内をうろついていたのかしら?」
「そうか、そんなに早死にしたいか?」
ここまでコケにされて黙っていられるわけもなく思わず腰の剣に手を伸ばしつつローズが鋭い眼光と共に抜剣体制を取る。最強の称号を持つ者の殺気は周囲の空気を歪め、その殺気を至近距離で涼しい顔をして受け止めるクワァイツもその手は腰の剣を今にも引き抜こうとする。
まるで二頭の竜が牙をむいて対立するかのようなプレッシャー。互いの体から漏れ出る魔力は風となり周囲に吹き荒れる。並の人物ではこの空気の中に割って入る事は不可能だろう。
だがそんな殺気に塗れている場に乱入して来る人物が1人だけ居た。
「やーっと見つけましたわローズ! 全くここ最近全然私に構わないで退屈でしたのよ! 今日は私にたーっぷり付き合ってもらいますわ!」
「ア、アセリア様……」
背後から軽い衝撃と共に抱き着いてきたのは第二王女のアセリアであった。この濃密な殺気の中に堂々と飛び込んで来れるとは流石は王族と言うべきだろうか。
「さあ今すぐに私の部屋に来なさいな!」
「ちょっ、ちょっと……!」
かなり強引にローズの手を引いてその場を後にする二人、だがその際にアセリアは一瞬だけクワァイツを睨みつけていた。
そのまま立ち去っていく王女の背中を眺めながらクワァイツは小さく笑い声を漏らす。
「流石はこの国の王女様と言う事かしら。間一髪で爆発手前の猛獣を綺麗に宥めたわね」
例え戦闘力はなくとも王族の持つ特有の覇気に対して称賛を零しながら彼女もその場を去っていくのだった。
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