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俺はもう……折れそうだ……

久々の投稿です!! これから定期的にこの作品も投稿していきますので応援お願いします!!


 狼族の村の片隅にある大木に背を預けながらムゲンはこの世から消失していくミリアナの言葉を反芻していた。

 今までずっと守られ続けていたにも関わらず真実も知らず逆恨みをしていた間抜けな自分を最後まで心配して逝った彼女の表情や言葉を脳内で繰り返すたびに自分と言う存在が疎ましく思えて仕方が無かった。


 どうして俺は彼女を救い出せなかった!? どうして俺はこんなにも弱いんだ!? 俺は一体何なんだ!?


 たとえ死したミリアナが自分を恨んでいなくともムゲン自身は己の脆弱さに怒りと、そして不甲斐なさを感じざるを得なかった。

 自分の腕の中でその魂を儚く散らした幼馴染の温もりが未だに消えてくれない。そして女々しくもその腕に残り続ける幼馴染の温度を思い返しては静かに涙を流す。その繰り返しをいったい何度行ったのだろうか?


 「俺は……どうしたらいいんだ……?」


 今のムゲンはかつてないほどに冒険者としての自信を喪失していた。何しろ救うべき幼馴染が手の届く場所に居たと言うのに救えなかった。自分の中には偉大な竜である父の血が流れているのにこの体たらくだ。


 どれだけ強大な力を持とうがいざと言う時にその力を有効に活用できないなど完全な宝の持ち腐れだ。


 「もう…冒険者は引退すべきなのかもなぁ……」


 そんな弱音がつい口から無意識に零れてしまう。それだけ追い込まれていた彼に対して叱責をする人物が1人居た。


 「そうやって辛い現実から逃げる事が本当に正しいと思っているの?」


 今にも潰れてしまいそうな自分を背後から叱りつけるような口調で話し掛けて来た人物を見てムゲンは思わず驚く。

 そこに立っていたのは彼の大切な恋人の1人であるウルフであった。その後方より少し離れた場所にはハルとソルが様子を伺っている。


 「ウルフ…もう起きても大丈夫なのか?」

 

 彼女はこの村で自分の母親の死を眼前で目撃して錯乱状態になりずっと昏睡状態に陥っていた。だがつい先ほどにようやくその眠りから目が覚めたのだ。

 目覚めてからの彼女はまだしばし動揺が抜けきっておらず震えていた。だが自分が目覚めたと聞きハルとソルの二人が様子を見に来てくれた。その際に二人の自分を気遣う姿のお陰で気分も幾分か和らいでくれた。


 自分が眠っている間にウルフは何があったのかを当然尋ねた。

 どうやら自覚はないが自分はどうやら相当長い間昏睡状態だったらしく、目が覚めた時にはもうディアブロ第5支部を攻め落とした後だったらしい。敵のアジトはムゲンの魔法によって文字通り壊滅、今は瓦礫の山となりライト王国が派遣した騎士達により生き残りや本部に繋がる情報収集が行われているそうだ。

 アジト1つを完全に潰したムゲンの力には驚いたがそれ以上に衝撃的な事実を突きつけられた。


 この戦いによって【不退の歩み】のメンバーであるマホジョ・フレウラが戦死したらしい。そして……今回のアジトに囚われの身となっていたムゲンの幼馴染であるミリアナ・フェルンも亡くなったらしいのだ。


 その話を聞いた時にウルフは今のムゲンの状態が気になって仕方がなかった。


 「ムゲン君は……大丈夫なの?」


 何がどう大丈夫なのか、その説明足らずの質問に対して二人は悲痛な表情を浮かべた。その反応だけで今のムゲンがかなり精神的に追い詰められている事を悟ったウルフは急いで彼の元まで駆けて行った。


 「あっ、おい!?」


 「まだ安静にしていないといけませんよ!!」


 目覚めたばかりのウルフがベッドから飛び出して行って慌ててソル達も後を追いかけそして今の状況に至る。


 まだ母親の出来事を引きずっているウルフも決して心理的に大丈夫とは言えないだろう。だが彼女は自分の心の傷を無理やり押さえつけながら大切な人の元へと急いだ。


 そして村の外れで寂し気に座り込んでいるムゲンを見つけたのだ。


 「酷い顔しているよムゲン君。もしかしてちゃんと寝てないんじゃないの?」


 彼女の言った通り今のムゲンの顔からは生気が抜けている様に見える。そんな彼の隣まで行くと彼女は口を開いて語り出す。


 「私が眠っている間に何があったのか全部聞いたよ」


 「そっか……なあウルフ。俺はどうしたらいいんだろうな?」


 「逆に訊くけどムゲン君はどうしたいの?」


 そう質問するウルフの瞳はとても優しく思わず彼は自分の胸の内の弱さを語った。


 「俺は……怖いんだ。ミリアナを護れなかった事実に今も胸が苦しいんだ。絶対に助けると誓った幼馴染を死なせてしまった罪で潰されそうだ。この痛みから逃げ出したいんだ……」


 気が付けば彼は子供の様に涙だけでなく鼻水まで垂らしてボロボロと泣き出していた。


 「自分が憎まれ役になってまで俺を助けてくれた幼馴染を護れなかった事実が苦しくて苦しくて……吐きそうなほどに頭がクラクラする。こんな情けない自分がこの先も冒険者としてやっていける自信も持てないんだ」


 そう言うと彼は隣に居るウルフを抱き寄せその体を抱きしめながら恐怖に震える。


 「今俺の隣に居るお前やハルにソルをこの先も護り続ける自信がもうないんだ。ミリアナのように俺の目の前で3人が命を落とす場面を想像すると怖ろしくて今も震えが止まらない」


 もしも今後の冒険者活動の中で弱い自分がまた目の前で大事な人を失う体験などしようものなら自分の精神は崩壊しかねない。それならば彼はもう戦いから逃げ出したかった。例え魂が腐りそうなつまらない人生でも構わない。恋人達と4人で末永く生きてさえいられるならそれでいいとすら思っていた。

 

 「なあウルフ……俺はどうしたらいいんだ? 冒険者を辞めればもうこの不安に悩まなくても済むのかな?」


 まるで子供の様な態度を見せるムゲンを見てウルフは一瞬だけ悲しそうな眼をする。だがその直後に彼女は鋭い目つきになると彼を奮い立たせるべくあえて厳しい道を示した。


 「戦いから逃げてもあなたは何も変わらないわムゲン・クロイヤ。そうやって現実逃避するのはもうやめなさい」


 そう言うと彼女は自分の胸に顔を埋めている彼の頬を掴むと今にも唇が触れ合いそうな至近距離で彼の瞳を奥を覗き込んだ。



もしこの作品が面白いと少しでも感じてくれたのならばブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。自分の作品を評価されるととても嬉しくモチベーションアップです。

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