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冷酷なムゲン


 最後の1人であるムゲンとも合流が出来たソル達は彼に連れられてアジトの外へと脱出していた。いや、もはや戦える幹部クラスの連中は誰も残っておらず兵隊もほとんど残っていない以上は脱出と言う言い方は間違いだと思うが。もはやアジトの内部は壊滅同然、もう戦いは終結したようなものだろう。


 だがこの戦いは決して勝利とは言えないのかもしれない。アジトを脱出する道中にムゲンが話してくれた。幼馴染であるミリアナは結局救う事ができず死んでしまったらしいのだ。それに【不退の歩み】からもマホジョが犠牲となった。いくら支部を壊滅できたとは言えこの結果を自分達の勝利だと決して言えないだろう。


 だがソルとハルが一番気になっているのはムゲンの状態についてだ。

 彼は幼馴染の死について話すときに一切悲しそうな表情をせず淡々と事実を告げていた。あれだけミリアナを救って見せようと必死になっていた彼が幼馴染の死をあっさりと受け入れている姿は違和感しかない。

 こうしてアジトの外に出るまでも遭遇する残りの残党に対してもムゲンの振る舞いはどこか容赦なかった。もはや戦意を半ば喪失している相手に対して彼は一切の容赦なく拳を振るい戦闘不能に陥らせていた。中には繰り出された一撃が強大過ぎて命を落としている兵もいた。


 「さて……無事にアジトの外に出れたな。それじゃあ――あとはこのアジトを完膚なきまで破壊してしまうか」


 「え…何を言って…?」


 ムゲンの口から放たれた言葉の意味が解らずソルが首を傾げた時であった。


 「な…何だよあれは?」


 何やらカインが視線を上に持ち上げながら呆然と呟いていた。

 他の皆も視線を上空へと向けて彼と同じ反応を見せる。第5支部のアジトよりも更に上空に巨大な魔法陣が描かれているのだ。まるで血で描かれたかと思う程の赤に染まっている魔法陣を見てソルが隣に居るハルへと質問する。


 「おいハル、まさかと思うがアレってお前の魔法じゃない…よな…?」

 

 「違いますよ。それにアレは…本当に魔法陣ですか?」


 確かに形状こそは魔法陣と酷似しているがその魔法陣に描かれている紋様はSランクの《魔法使い》であるハルすらも見たことがないほど奇怪なものだ。まるで子供が見本の魔法陣を真似て適当に筆を滑らせたかのようなしっちゃかめっちゃかに描かれている。あんな魔法陣では繰り出される魔法だって大雑把なものになるに決まっている。


 「もしかしてムゲン…あの上空の魔法陣はあなたの描いたものなの?」


 皆が突如出現した魔法陣に目を向けている中で最初に気付いたのはホルンであった。

 よく見るとムゲンの指が微かに動いており、その指の動きに合わせて上空で展開されている魔法陣が少しずつ形となっているのだ。


 ホルンの疑問に対してムゲンは相も変わらず光の宿っていない瞳のまま頷く。


 「ああ、どうやらソウルサックとの戦いでまた竜の力が開花したみたいでな。今の俺は魔法も扱えるみたいだ」


 そう言いながらムゲンは腕を下へと勢いよく振った。その動きに合わせるかのように上空の魔法陣擬きから大量の赤い魔力の塊である流星が降り注ぐ。真下にあるアジトは凄まじい勢いで崩壊していき、未だにそのアジト内に残っている兵隊達はその暴虐にアジトごと圧しつぶされていく。


 「な……」


 アジトの崩壊する光景を間近で見せられたハル達は思わず息をのんでしまう。

 いくら敵とは言え大勢の命がアジト内にまだ残っているにも関わらずそれを情け容赦なく蹂躙する光景に震える。ましてやその凄惨な場面を作り上げている人物が仲間であるムゲンが行っているのだから現実味が湧いてこない。


 「おいムゲン…やりすぎじゃ……」


 「何言ってるんだよソル。このアジトに居る連中は全員闇ギルドの人間だぞ? そんな奴ら何て死んで当然だろう?」


 それはもうあのムゲンの口から出て来たとは到底思えないほど冷酷なセリフだった。

 薄々違和感は感じていたが今のムゲンの状態が異常である事はもうこれで確信した。何が何でも救い出そうとしていた幼馴染の死を淡々と自分達に報告し、そして敵とは言え相手の命を奪う事に一切の躊躇も見せない。


 それからしばし続く死の流星群によってアジトは完全崩壊した。巨大なアジトはものの数分によって瓦礫の山へと変わり果ててしまったのだ。無論これでは残っていた敵兵達も無事ではないだろう……。


 「これで全部終わったな……ん?」


 崩れ去ったアジトを相も変わらず感情を悟らせぬ顔のまま眺めていたムゲンだったが瓦礫の一部が不自然に動くのを見逃さなかった。

 ゆっくりとそこへ歩を進めると瓦礫に埋もれながらもまだ息のある者が居た。


 「だ…誰か……たす…けて……」


 どうやら今の攻撃でもギリギリ三途の川を渡らず生き残ったようだが意味はない。こうして自分の目に留まってしまった以上は寿命が数十秒伸びた程度だ。


 「闇ギルドの人間が悪あがきしようとするな――死ね」


 どちらがもはや悪か分からぬ非情なセリフと共にもう抵抗もできないその生き残りを処理しようと拳を引く。だが突き出そうとした自分の腕は背後から二人の人物によって止められた。


 「もうやめろムゲン。それ以上はもう……」


 「ここでその拳を振るってしまえばもうあなたは……」


 振り返ればそこには今にも泣きだしそうなソルとハルが必死の形相で自分の腕を掴み止めようとしていた。



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