ミリアナの後悔物語 7
総合評価8000までついに辿り着きました。これもこの作品を読んでくださっている皆さんのお陰です。今後もこの作品は続いていきますので応援してください。
そしてミリアナの後悔物語は次で最終話となります。
ああ……私の意識がどんどん〝この世〟から消えていく………。
自分の幼馴染に伝えるべきことを全て伝え終わると残りカスであった自分の意識がどんどん希薄となっていく。もう2、3秒後には自分と言う精神はこの世から消えてなくなるのだろう。
ああムゲン……私の大好きなムゲン……どうか私の死を引きずらないでください。どうか前を向いて折れることなく先の未来を進んでください。
その願いを残りの短い刹那の中で何度も何度も繰り返し願い続ける。そして気が付いた時――ミリアナ・フェルンと言う人格は〝この世界〟から消えていた。
◇◇◇
人間は死ねばどうなるのだろうか? その明確な答えを出せる者などこの世には存在するのだろうか? 古代魔法の中には死者をも蘇らせる魔法が存在する。魔族との戦争時代はその古代魔法により黄泉の国から蘇った者も居るが死後の世界がどのような世界だったか生き返った者の中には答えられる者は存在しなかった。揃って口から出て来る回答は『気が付いたら生き返っていた』と言うものばかりだ。
だが不思議な事に蘇生の古代魔法を使っても生き返らぬ者も極わずかに居たのだ。その者が生き返らない理由については未だに解明されていない。そして遂には古代魔法が多くの《魔法使い》から忘れ去られていった。だがもしかしたら蘇生しなかった者は〝別の世界〟で新たな人生を歩んでいたからだったのかもしれない……。
ソウルサックに意識を乗っ取られて完全に自分の精神が消滅したミリアナだったが気が付いた時には目が覚めていた。
「……あれ?」
目が覚めると彼女は見覚えの無い、いや正確に言うのならば大いに見覚えのある場所に居た。だが何故自分がこんな場所に居るのか理解が追い付かなかった。
「ここって……故郷の私の部屋だよね?」
ミリアナが目覚めた場所は故郷の村である自分の家の自室のベッドの上だったのだ。しかもそれ以上に驚いたのは自分の肉体の状態の方だ。何故なら自分の体は明らかに〝若返って〟おり見た感じでは8、9歳くらいと言った風体だ。
「もしかして今までの事は全部夢だったの?」
そう呆然と呟いた直後頭部が割れるかのような激痛がミリアナを襲った。
痛みのあまり彼女は頭を抱えてベッドの上から転げ落ちる。声を上げる事もできずに脂汗を流しながら痛みに耐えていると彼女の脳内に膨大な量の情報が流れ込んで来た。
「(何よ…これ……もしかして〝この体〟で過ごしてきた記憶…?)」
頭の中を駆け巡るのはこの若返った体の自分が過ごしてきたであろう人生の足跡だった。やがて痛みが治まると流れ出た汗を拭いながらミリアナは今の現状を悟った。
「私…もしかして〝過去〟に戻って来たの…?」
正直自分の身に何が起きたのかまるで理解できないがこの体の9年間の記憶が一気に流れ込んできてミリアナは全てを理解した。ソウルサックによって殺された自分は過去の世界に戻って来たのだ。そう……まだ自分の幼馴染がこの村を出ていく前までの時間に……。
だが自分の記憶を読み取ってミリアナは大きなショックを受けていた。その理由はこの世界でもムゲンはどうやら前回の世界同様に虐げられており、しかも彼女の母であるスーザンが既に〝亡くなっている〟のだ。
「まさかスーザンさんが既に死去しているなんて……」
ミリアナは数度の深呼吸を繰り返し、自身の中の記憶を元にこの世界のムゲンの状況や自分の立ち位置を整理する。
この世界でもムゲンは前回の世界と同じ理由から自分の両親も含め村人全員から爪弾きにされている。そんな中で彼の味方なのはどうやら自分だけらしい。前回の世界ではムゲンの母であるスーザンも彼の味方として傍に居てくれたのだがこの世界では彼女は病死により半年前に亡くなっている。
「(スーザンさんは既にこの世に居ない。そのせいでムゲンは前の世界以上に更に虐げられている。これが…この世界の現状……!)」
下唇を噛み締めながらミリアナは拳を震わせていた。
この世界には魔法と言う大きな力を持っていたスーザンと言う抑止力が居なくなった為にムゲンはスーザンの死後は村の中で堂々と迫害を受けており、中には人目もはばからず暴力を振るわれて村から力づくで追い出そうとする鬼畜共まで居る始末だ。
そんな悲惨な幼馴染の境遇を知りながらこの世界の自分はただ寄り添うだけで何もしていないらしい。どうやらこの世界の自分は悪意に満ちている大人連中に怖れて陰で隠れてムゲンを慰める程度の事しかしていないらしい。
「どうしてどの世界でもムゲンはこんな過酷な境遇を背負わされないといけないの?」
とにかくまずはムゲンに直接会いたいと思い急いで着替えて家を出たミリアナだが、外に出てすぐ視界に入った〝ある光景〟を見て凍り付いてしまう。
「早くこの村から出て行けこの〝化け物〟が!」
「いつまでこの村に居座るつもりだ!」
複数人の村の大人が1人の少年を取り囲んで木材を手に殴りつけていたのだ。
「や、やめてください。痛い…いたい…!」
自分よりも倍以上の年齢の集団に殴られていたのは幼馴染であるムゲンであった。
その光景を見てミリアナは気が付けば駆け出しており、そして一番手前に居る大人へと向けて強烈なタックルをお見舞いしていた。
「ぐわっ!?」
いきなり背後からぶつかってこられて前のめりに倒れる村人。それに反応して他の村人の暴行の手も止まった。
その隙を見逃さずミリアナは蹲っているムゲンの腕を掴むとその場から急いで離れる。
「ミリアナ…?」
「逃げるわよムゲン!!」
なぜ自分が過去に跳んだのか、そんな理由など最早どうでも良かった。ただ目の前で苦しんでいる幼馴染を救える機会が与えられたのなら今度こそ間違った選択などするものか。
もう今度こそ私は間違えない。どんな過酷な運命が待っていようとも最後まであなたと共に……!!
その決意を表すかのようにミリアナは傷付き泣いているムゲンにとびっきりの笑顔を向けてこう言った。
「大丈夫だからねムゲン。たとえ村の皆が敵だとしても私は最後まで今度こそあなたの味方として居続けるから!!」
その言葉に今の今まで生気が消え失せていたムゲンの瞳に光が灯り、そして喜びのあまり熱い雫を落としていた。
その弱々しいムゲンを見てミリアナは今度こそ彼と共にこの先の道を歩んでいく覚悟を固め、背後で騒ぐ村人達を置き去りにしてムゲンと共に村から逃げ出したのだった。
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