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あなたはムゲン・クロイヤ?


 次から次へと襲い来る敵兵を薙ぎ倒しながらアジト内を移動して他のメンバーと一刻も早く合流を果たそうと動くソルとハルの二人。

 しかしこのアジト内に所属している敵兵の数も有限であり人数は限られている。二人が長時間移動しながら暴れまわっていたお陰もあって襲い来る敵の数は最初と比べると大分その人数は少ない。


 目の前の敵を斬り捨てながらソルは襲い来る敵の数が進むにつれて明らかに減って来ている事を口に出し指摘する。


 「どうやらこのアジト内の兵隊も残り少ないみたいだな。敵の数だけじゃなく遭遇率もかなり減って来ている」


 「どうやらそうみたいですね。ただ気になるのは他の仲間達の安否です。未だに合流できていませんから……」


 そう言いながらハルが不安気な表情を浮かべたその時であった、通路を曲がると見知った人影が視界に入ったのだ。


 「あっ見つけました! 【不退の歩み】のみなさーん!!」


 自分の視界に【不退の歩み】の4人が映り込んでハルが手を振りながら声を掛ける。すると向こう側もハル達の存在に気付いたようで走りながら歩み寄って来た。

 無事に【不退の歩み】の4人と合流できたことに一旦は安堵の息を漏らすソル達であるがすぐに違和感を察知する。こうして合流できたにも関わらずカイン達は暗い顔を浮かべており、そしてマホジョもカインにぐったりとした状態で背負われている。


 「おいどうしたんだ3人共そんな浮かない顔をして。それにマホジョの方も気を失っているのか?」


 カインにおぶられたまま眠っているマホジョについて質問をするとカイン達の瞳からいきなり涙が溢れる。


 「ど、どうした? 一体何があったんだ?」


 「……マホジョはもう死んでるのよ。カインが背負っている彼女はもう魂の宿っていない抜け殻なのよ……」


 涙ながらにホルンの口からは放たれた衝撃の事実に二人は言葉を失う。

 

 「し…死んでいるだと? その背中のマホジョはもう生きていないと言うのか?」


 そう言いながらソルは恐る恐るマホジョの頬に手を添えた。

 手のひらを通して伝わって来る彼女の肌の冷たさは一切の熱が宿っておらず、すでに生命活動が停止している事が嫌でも思い知らされる。


 カインに背負われているマホジョはとても死人とは思えないほどに綺麗な姿をしていた。その理由は《聖職者》であるホルンが回復魔法によって傷ついていた彼女の肉体を出来うる限り修復したからだ。その行為はせめて亡骸だけでも綺麗にしてあげたいと言う仲間達の思いだった。

  

 「そ…そんなぁ…嘘ですよ。マホジョさん……」


 マホジョの死に対してソル以上にハルの受けたショックは大きかった。

 まだ駆け出し時代にハルはこのマホジョから魔法の扱い方を教わっており彼女にとっては恩師である。

 ハルの涙する姿を見てソルは苦しそうに下唇を噛み、そしてセシルは溢れ出る涙を拭いながら謝罪を口にする。


 「全部…全部私のせいなのね。私がもっと強ければ……」


 「もうやめろセシル。何度も言うがお前のせいじゃないよ」


 未だに自分の弱さを責め続けて苦悩を露にするセシルを気遣うようにカインがフォローする。


 本当ならばソルとしても恩師を失ってショックを受けているハルをもうしばらく慰めてあげたいところだ。だがここはまだ【ディアブロ】のアジト内、悲しみに暮れるのは安全な場所に出てからの方がいいだろう。


 「行くぞハル。ここで死んでしまったらそれこそマホジョも悲しむはずだ」


 「……わかってます」


 少々薄情な気もするがハルとて歴戦の冒険者だ。この場で泣きじゃくり続ける事が愚かな行為だと言う事ぐらいは理解している。無理やりに流れ出る涙を一旦止めて立ち上がる。

 ハルが問題なく動ける事を確認するとソルは【不退の歩み】の面々の顔を無言で見つめ大丈夫かどうか確認を取る。


 「心配しなくても大丈夫よ。私達だって今すべきことが蹲って泣きじゃくる事じゃない事くらい把握しているわ」


 本来であれば同じパーティーの仲間を失いハル以上にショックを受けているはずのホルンが目の端に浮かぶ涙を拭いながら自分達は大丈夫だと伝える。悲しむことはこの場所から出た後にいくらでもできるのだから。


 「よし…あと合流していないのはムゲンだけだな」


 恐らくだがムゲンはもう既にこの支部のトップであるソウルサックと交戦している真っ最中なのかもしれないとソルは考えていた。


 「(囚われの身である幼馴染を助け出そうと躍起になっていたからな……)」


 だがもしムゲンが単身でソウルサックとぶつかっているのならば少々不味いかもしれない。

 純粋な戦闘能力の差以前に相手は幼馴染の肉体を操って戦っている。いざとなれば我が身を人質にしてムゲンを追い込むことだって出来るはずだ。


 「(それに……さっきから妙な胸騒ぎがする)」


 言うまでもなくソルは自分の恋人の強さを信じている。だがムゲンとソウルサックが1対1で戦う事を考えると胸騒ぎが収まらないのだ。

 上手く言葉では表現はできない、だがもしソウルサックと戦えばたとえ勝利したとしてもムゲンの身に何かよからぬ事が起きるのではないかと言いようのない悪いイメージが頭から離れてくれない。


 そんな不安が頭の中を駆け巡っている時だった。ソル達の居る通路の奥から大勢の人間の悲鳴が轟いてきたのは。


 「ぎゃあああああああ!?」


 「た、助けっ!?」


 大勢の人間による重なり合った断末魔にソル達が反応して身構える。次第に悲鳴の数は1つ、また1つと減っていきやがては静寂に包まれる。その静かになった通路の奥からコツコツと人の足音がゆっくりと徐々にソル達の方へと近づいてきた。

 一体何者かと近づいてくる相手に警戒を強めるソル達だが、相手の方は先に彼女達の姿を視認したようで気さくに声を掛けて来た。


 「ああやっと合流できたなみんな。心配しなくてももう大丈夫、このアジトのボスであるソウルサックならもう殺したよ」


 「ム…ムゲン…?」


 自分達の前に現れたのは紛れもなく仲間であるムゲンであった。だが彼の恋人であるソルとハルの二人は勿論、【不退の歩み】の3人も眼前に立っている彼の姿を見て言いようのない違和感を感じざるを得なかった。


 ムゲンの全身にはおびただしい量の返り血が付着していた。だがそれ以上にそんな悍ましい状態になりながらもムゲンは〝笑って〟いるのだ。


 「よし、みんな無事に合流できた事だしあとはこのアジトを破壊するだけだな」


 普段の彼からは想像のできない物騒な言葉を吐きながら彼はどす黒く濁った瞳で仲間を見つめていた。

 

 「ム…ムゲンなんだよな? お前はムゲン・クロイヤでいいんだよな?」


 自分の質問が間抜けだと自覚しつつもソルは思わずそう質問せずにはいられなかった。確かに姿形はムゲンそのものだ。だが……どこか……今の彼は〝変〟なのだ。


 「何を言ってるんだソル? 正真正銘ムゲン・クロイヤだよ」


 何だかまるで心を失っているかのように見えるのは果たして自分の気のせいなのだろか……?



もしこの作品が面白いと少しでも感じてくれたのならばブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。自分の作品を評価されるととても嬉しくモチベーションアップです。

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