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あなたは来るのが遅かった


 長き激闘の末に遂に自身の目の前に現れたソウルサックを前にムゲンは頭に血が上りかける。

 自分の恩人の肉体を良い様に操る目の前のふざけた剣を今すぐにでも叩き居りたい衝動に駆られる。だがいくら竜の力を覚醒した自分と言えどもコイツ相手に不用意に攻めるのは命取りだ。

 大きく深呼吸をして自分の荒立っている憤怒の感情を鎮める。


 「(冷静になれよムゲン・クロイヤ。ここで感情だけに身を任せて戦ってその結果敗北なんてしてみろ。そうなればミリアナは永遠にあのくそ野郎の玩具のままなんだぞ)」


 「意外と冷静なんですね。てっきり現れると同時に本体である自分をへし折りにくるとかと思いましたが……いや、それとも言う程この幼馴染を大事に想っていないのですかね?」


 自分が操っているミリアナの表情筋を駆使して嘲るような笑みをぶつけてやる。

 だがムゲンはその顔を見ても冷静に構えを取る。一度深呼吸をして心を整理した彼はこの笑みが挑発であると見抜いていた。


 「(へえ…どうやらやせ我慢でなく本当に冷静さを保っているみたいですね。思ったよりもクールな一面もあるみたいですね)」


 今の挑発で飛び込んできたら最速の一刀を繰り出そうと考えていたソウルサックも少し残念そうに内心で思う。だが同時にこの程度の挑発に引っかかるほどの愚か者でない事を嬉しくも思っていた。

 前回の戦闘では完全にこのムゲンは自分の力を凌駕していた。だが今の自分の精神とミリアナの肉体は完全に適合している。その結果今のソウルサックの強さは以前の比ではない。


 「どうやら挑発して誘っても乗って来る様子もないようですので駆け引きナシでいきますよ」


 そう言うと一気にソウルサックはムゲンへと馬鹿正直に真っ向から突っ込んで来る。

 まるで地面が爆発したかのような強烈な踏み込みで一気に剣の間合いへと入り込み、そのまま一切のフェイント無しの横なぎを振るってくる。

 

 「はあッ!」


 刃物ですらも生身の肉体で逆に欠けさせる強靭な身体を持つムゲンと言えどもこの一撃を受け止める事は避ける。上半身と下半身を分断できるであろう一撃を避けると同時にカウンターの蹴りを相手の手首目掛けて繰り出す。

 

 「おっと危ない」


 だが放たれた蹴りの攻撃を腕を引くことで回避するソウルサック。

 続いてソウルサックは両手で剣を握ると一呼吸の間に閃光の様な速度で連続で斬撃を繰り出す。その全てを躱そうとするがそのうちのいくつかの斬撃が肉を掠めて切り裂く。


 「おやおやどうしました? さっきから〝本体〟である自分ばかりに攻撃をして〝ミリアナ〟の肉体に打撃を当てようとすらしていないではないですか? この期に及んでまだ幼馴染を傷付ける事に抵抗感でも抱いているのですか?」


 「ぐっ、黙れ!!」


 図星を突かれてしまい攻撃に粗が出てしまう。その隙を見逃すほどこのソウルサックは決して生易しい相手ではない。動揺により回避のタイミングがワンテンポ遅れてしまいソウルサックの斬撃がムゲンの胸を上から斜めに切り裂く。


 「ぐっ…がっはぁ……!」


 攻撃が当たる直前に半歩身を引き、そして肉体に魔力を注いだお陰で致命には至りはしなかった。だが決して浅手と言う事もなくそれなりの量の血が流れてしまった。


 「調子に乗るなよ……!!」


 致命傷ではないとはいえ着実にダメージを蓄積されてムゲンにも焦りが出始める。

 ここまでの戦闘でもまだミリアナを気遣って力を温存していた彼もここにきて本領を発揮する。更に倍以上の魔力数を肉体強化に上乗せして全身から怒気を放つ。


 「もうそろそろへし折らせてもらうぞ!」


 まるで時間が切り取られたかのように一瞬でムゲンはミリアナの目の前に移動して手首を捻り彼女の体を地面に転がす。そして目にも止まらぬ速度でソウルサック本体である剣を奪い取るとそのままその剣の端と端を万力の様な力で掴んだ。


 「ぶち折れろぉ!!」


 怒りと共に渾身の握力で掴んだ剣をそのまま一気にへし折って見せる。

 剣の中央部から二つのへし折れたドラゴンキラーの剣であるソウルサックを念のために遠くに放り捨てる。


 以前の戦闘でソウルサックは遠隔で支配下に置いている人間を多少は操れたからな。まあさすがにあんなザマになってしまえばもう終わりだろうが。


 思いのほか呆気なく決着がついたがこれでミリアナの意識も戻る、そう思い彼女を介抱しようとする。


 「とにかくこれでミリアナも解放されたはずだ……」


 ようやく幼馴染を救い出せたと思いムゲンがほっと一安心して倒れているミリアナの方に向き直る。


 だがどういう訳か地面に横たわっていたはずのミリアナの姿が振り返ると消えていた。


 「どこ見てるんですか? 自分ならここですよ」


 足元の方から聴こえてきたミリアナの声に反応して視線を下へと下げるとそこにはミリアナが体勢を異常に低くして身構えていた。その構えはまるで抜刀術のような型であり、次の瞬間ミリアナの魔力を纏った手刀がムゲンの体を下から切り裂いた。


 「な…ん…だと……?」


 先程胸を切り裂かれた時以上に深いダメージを負いながらも必死に後ろへと跳んで距離を置く。口の中に溜まった血を吐き出しながらムゲンは混乱していた。

 間違いなく本体であるソウルサックは真っ二つにしたはずだ。それなのに何故未だに彼女は正気に戻らない?


 その疑念を表情から読み取ったのかミリアナの声を通してソウルサックが話し始める。


 「この肉体は本当にかつてないほどの適合率でした。今までの器は本体だった剣を通して肉体をコントロールする事しかできなかった。だがこの肉体と自分の相性は抜群どころではない。1秒ごとに意識が深く溶け合い、そして遂には剣の中に存在していた自分の人格までもがこのミリアナの肉体の中へ滑り込んで行った」


 そこまで言うと一度言葉を区切りソウルサックは舌を出しながらムゲンに最悪の絶望を叩きつけた。


 「もうこの肉体は文字通り自分の操り人形となったんですよ。自分と言う呪縛から愛しい幼馴染を解放する方法はただ1つ――彼女を殺す事以外にもう存在しない。あなたはね、間に合わなかったんですよ」


 告げられる残酷な事実にムゲンの表情は感情が抜け落ちたかのように絶望一色に染まった。



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