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仲間の死を嘆き流す涙


 フル・ガルジョットを撃破したカインとホルンの2人は襲い来る敵兵を蹴散らしながら先を目指していた。二人とも既に大分体力を消耗しているがスキル持ちであるフルと比べれば兵隊達程度など敵ではなかった。今は目先の敵の対処に目が行っていて自覚はないだろうがこのアジトでの戦いで二人のレベルは更に引き上がっていた。


 「潰れなさい!!」


 しかも今はカインだけでなく後方支援タイプであったホルンもスキルの力に目覚めている。ホルンの操る重力で動きを押さえつけられ、そこへ重力の影響を一切受けないカインが一気に敵を切り裂いていく。


 「本当に便利ねスキルって。魔法と違って魔力を必要としないからさ」


 自分の力をどんどんと巧みに扱えるようになってきたホルンが視界に入る残りの敵を全て重力で押さえつける。


 「動けねぇ!?」


 「ちくしょうふざけんな!!」


 地面にへばり付いている兵達が必死に起き上がろうとするがまるで数十人の人間がのしかかっているかのような重量に立ち上がる事すらままならない。

 

 「悪いなアンタ等。闇ギルドに居座り罪の無い人を虐げ続けて来たなら容赦はしない」


 動けない相手を一方的に斬りつける事は本来なら抵抗感も芽生えるだろう。だが相手はあの闇ギルド【ディアブロ】の人間だ。このギルドにはどれほどの人間が苦しめられてきた事だろうか。そう考えると不思議とこの連中には罪悪感は芽生えない。

 一切の情け容赦なく残りの敵を排除しようとするカインだが彼よりも先に動けない敵達へと攻撃を発動した者がいた。


 突如として敵兵達の真下に巨大な魔法陣が展開される。そしてその魔法陣が強烈な光で辺り一帯を眩く照らした直後、魔法陣から地獄の業火が噴き上がった。


 「あぎゃあああああ!?」


 紅蓮の炎の中から聴こえる敵兵達の断末魔を耳にしながらカイン達はこの魔法が誰のものなのかすぐに理解できた。


 「これは<インフェルノタワー>……もしかしてマホジョか?」


 背後から近づいて来る足音に反応して二人がゆっくりと振り返り魔法を撃ちこんだ人物を確かめる。だがやって来た相手の姿を見て二人は戸惑いを露にする。


 「セシル…?」


 現れたのは【不退の歩み】の仲間であるセシルであった。いや、彼女がこの場に現れた事自体は何もおかしな事はない。だが彼女は何故かマホジョの魔杖を持っており、そしてマホジョの姿は見当たらないのだ。つまり今の魔法はセシルが放ったことになる。


 「今の魔法はセシル、あなたがやったの?」


 「……」


 ホルンの質問に対して彼女は無言で頷いた。

 だがそれはおかしな話だ。セシルの持っている職は<アサシン>であり<魔法使い>ではない。確かに彼女も魔法は扱えるがマホジョの様な高火力の魔法など持ち合わせていなかったはずだ。

 それに彼女の恰好も少し気になっていた。何故か彼女はマホジョの被っていた帽子を被っているのだ。そして肝心のマホジョの姿はどこにも見当たらない。


 「なあセシルどうしてお前1人だけで行動してるんだよ? マホジョはどこに……?」


 カインから投げられた問いに対してセシルは無言のままだった。だが口には出さずとも二人はすぐにマホジョが何故この場に居ないのか理解した。いや、理解させられてしまった。


 だってセシルの瞳から大粒の涙がポタポタと零れ落ちているのだから。


 「うそ…よね…? マホジョは今…どうしているの? べ、別行動を取っているだけよね?」


 そんな訳がないに決まっている。どうして敵のアジトの中で急に二人別行動を取ると言うのだ? リスクが高まるだけじゃないか。


 「なんで……何で黙っているんだセシル? お願いだよ、マホジョとは別行動を取っているだけだよな? あいつはお前と同じく無事なんだよな!?」


 それは確認を取ると言うよりも願望を口にしているだけであった。

 もう二人とも目の前で泣いている仲間の姿を見て答えは解っている。でも、それでも『違う』と一言セシルの口から出て来る可能性を信じる。


 「マホジョは――――――」


 ついに堪え切れず号泣しながら嗚咽に混じった言葉でセシルは辛く悲しい現実を二人の仲間へと伝えた。

 それは信じたくない現実だった。直接セシルの口から語られても未だに何かの間違いではないかと思った。


 「そんな……マホジョ……」


 その場で膝をついて頭を抱えるホルンを見てセシルが涙を流しながら謝罪を述べる。


 「ごべ…ごべんなざいなのね。わだじがもっと強ければマホジョは死なずにすんだのね。わ、わだじのぜいで……」


 辛いのはこの場に居る3人全員が同じだろう。だが自分の腕の中で冷たくなり動かなくなったマホジョの姿を思い出すとセシルの胸は張り裂けそうだった。もっと自分の実力があればマホジョは死なずにすんだのではないか、何度もその後悔ばかりが彼女の頭をぐるぐると駆けまわる。


 そんなセシルを見てカインは彼女を抱きしめる。


 「お前のせいじゃないよセシル。冒険者稼業に身を置いている以上マホジョだってお前に恨みなんて抱いている訳がないさ。それよりもマホジョの元まで案内してくれるか? 最後に……顔を見ておきたい……」


 必死に涙を堪えながらカインは最後に仲間の顔が見たいと告げる。

 もう顔中を涙と鼻水で濡らしながらもセシルは頷いて二人をマホジョの亡骸のある場所まで案内した。

 今はまだ戦闘の真っ最中と言う事で彼女の遺体は外には持ち出す余裕はなく、セシルは彼女の亡骸をピーリーと戦闘を繰り広げた部屋の隅に寝かせている。


 案内されて辿り着いた部屋の隅で横たわるマホジョの亡骸を前にしてカインはゆっくりとその冷たくなった顔を撫でる。


 「お疲れ様だなマホジョ。聞いたよお前の魔法でセシルの命を助けたんだって? お前のお陰でセシルはこうして生きている。だから安心して眠ってくれ」


 そう言いながらこれまで必死に堪えていたカインもついに涙腺が崩壊してその場で泣き崩れる。その涙は他の二人にも伝播してその場で膝をついてまた涙が溢れる。


 今この場は敵地の中だと理解しつつもカイン達はしばしの間その部屋で静かに泣き続ける事しかできないでいた。



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