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自分ではなく大切な人の為に目覚めるスキル


 「くそ、迷路かこのアジトの中は!!」


 ムゲンに続いて2番手で自分を待ち構えていたスキル持ちであるガイリキを撃破したソル、現在は襲い来る兵隊達を斬り捨てながら先を目指してムゲン達と合流しようと奔走していた。

 敵のアジト内と言う事もあり次々と襲い来る兵隊達にうんざりしながら剣を振るっていると聞き覚えのある少女の声が魔法名と共にソルの耳に届く。


 「<ライトニングスピア>!!」 


 「うがああああ!?」


 自分に向かって来ている兵隊達へと突如として大量の雷の槍が降り注そぐ。その雷の槍は十数人は居た兵隊達をまとめて戦闘不能にした。

 黒焦げとなっている敵を見つめながら援護魔法を繰り出してくれた相手を見てひとまず安堵の息が漏れる。


 「どうやらそっちも無事だったみたいだなハル」


 「はい、ソルも無事……とは言い難い気がしますよ。何だか表情が少し苦しそうです」


 「まあ本音を言うのであれば無事ではないがな。肋骨が3本は折れているし……」


 ハルとは違い回復系統の魔法が使えない為に無理やり痛みを我慢して動いていたが正直ソルも活動の限界が近づいていた。なのでこのタイミングで最初に合流できた相手がハルだったのは幸運と言えるだろう。

 ソルが回復を頼むよりも先にハルは魔力回復のポーションを飲み干して大分減少していた魔力数を元の状態へとリセットする。そして即座にソルの傷を癒す為に回復魔法を発動して折れた骨や全身の細かな傷を治してあげた。


 「うんお陰で楽になった。感謝するぞハル」


 「いえ、それよりも他の皆さんとも早く合流をしないと……」


 ここに至るまでハルは他の誰とも遭遇しておらず、その逆にソルも他のメンバーが今どうなっているか把握できていない。


 「正直ムゲンの事も勿論心配だが他の2組の方はもっと不安を感じてしまう」


 別段【不退の歩み】の4人を見下してる訳ではない。だがAランクとSランクには大きな実力差が存在するのも事実なのだ。いくら【不退の歩み】が2人ずつコンビで行動しているとは言え総合戦力を自分達と鑑みると不利なのも事実だ。


 「(なあホルン……お前達は今大丈夫なのか?)」


 かつては自分の恩人であるムゲンを理不尽に追放した相手であるがそれでも話し合って多少は分かり合えた仲なのだ。無事でいて欲しいと心から願っている。

 不安そうな表情のソルの肩を軽く叩くとハルが立ち止まっている場合ではないと告げる。


 「とにかく今は先を目指しましょう。こうして進んでいけば【不退の歩み】の面々とも合流できるかもしれません。それに私達だって同じく敵地の中に居るんです。こうして立ち止まっているだけでも危険です」


 「ああ…そうだな……」


 確かにハルの言う通り、偉そうに他のメンバーの心配をするほど自分達にゆとりはない。対して賢くない頭を動かすぐらいならば今は脚を動かして先に進むべきだろう。


 「……どうやらまた追加が来たようです」


 そう言いながら魔杖を構えるハル。

 その視線の先には武器を手にした兵隊達がこちらへと迫って来ていた。


 「本当に休ませてくれないな」


 まるでゴキブリの様に湧き出て来る敵兵達へとソルが突っ込みながらぼやく。


 「(ホルン……必ず生き延びろ。お前とはもう一度腹を割って話もしたいからな……)」



 ◇◇◇



 「クソがッ、どうなってんだテメェの〝その力〟は!?」


 フル・ガルジョットはこの勝負は自分の圧勝で終わると思っていた。

 特に目立った傷を負う事もなく完璧な勝利を手に出来ると確信していた。何しろ相手は二人組とは言えその戦闘スタイルは自分にとっては相性が良かったのだから。

 片方のカインとやらは《剣士》の職の持ち主。だが接近戦が主体のヤツは自分のスキル《モンスター創造》による物量で近寄る事もできず消耗していくだけだ。そしてもう片方は《聖職者》の職の少女、だが純粋な《魔法使い》とは違い体力や状態異常の回復が主体の魔法が基本で大火力の魔法を持ち合わせていない。それに対する自分はスキルの力で一切の魔力を消費せず無限にモンスターを作り出せる。そうしてあと一歩のところまで追いつめていた……はずだった……。


 「はああああああッ!!」


 本来は後方支援である《聖職者》のホルンは前に出て両手をかざしていた。

 普通に考えれば回復役が前に出るなど選択ミスだろう。だが彼女は普通の《聖職者》とは一線を越えて覚醒しつつあった。目の前で狼狽するフル・ガジェットと同様の〝スキル持ち〟へと。


 「潰れなさい!!」


 自分の中の感覚に身を委ねてモンスターの大軍へと両手を振り下ろす。すると振り下ろした彼女の手の動きに合わせる様にモンスター達は床へと真上から圧し掛かる力によって潰されて霧散する。


 「ホルンさん……その力は……」


 「さあね? 正直私も自分の身に何が起きているのかよく分かっていないわ。でもその事を考えるのは後よ。今は目先の脅威を排除する事が先決よ!」


 「ああ、分かっているさ!!」


 フル・ガジェットはまだ4歳と言う幼い頃からスキルを自覚して扱えていた。スキル所持者と言うのは大概は幼い時代にその力を自覚するものだ。しかし中には自らのスキルが遅れて覚醒するパターンもある。

 このホルンはまさにこの戦いの中で眠り続けていたスキルが目覚めた。生きるか死ぬかの瀬戸際まで追い込まれた時に火事場の馬鹿力と呼べばいいのか稀に強大な力を発現させる者も少なからずいるだろう。だがホルンの場合力が目覚めた切っ掛けは自分の為などではなかった。隣で懸命に戦っている『大事な人』を守る為に目覚める事ができた力だった。


 「(いつもいつもカインの後ろで見ているだけなんてもうごめんよ! 私はもう彼の〝後ろ〟で戦うなんてイヤ、これからは彼の〝隣〟で戦って見せる!!)」


 今覚醒しつつあるホルンのこのスキル、もし彼女が【真紅の剣】時代のままのような人間だったら恐らくこの力は覚醒しなかっただろう。

 

 自分の為でなく大切な人の為だからこそ遅れながらホルンは自らの内なる力を目覚めさせられたのだ――《重力操作》のスキルを。


 「はああああああああ!!!」


 自分の力を徐々に理解しつつあるホルンは今までで一番の雄叫びと共に両腕に力を籠めてフル率いるモンスターの軍勢目掛けてスキルの力を振り下ろす。 

 ホルンの重力の力の範囲は広まり、その場にいる全てのモンスターだけでなくフルまで重力の影響で真上から降り注ぐ力に抗えず隙を付いた。


 「今よカイン!! この一撃に全てを籠めなさい!!」


 「こ、コイツ等!?」


 ここにきてフルはようやく自分の命に危機感を覚えた。

 一方でホルンにも余裕はもうなかった。いくらスキルに関しては魔力を消費しないとはいえここまでの戦いで魔力、体力が消耗しているホルンはこれが最期のチャンスだと思いカインへ全てを託す。

 自分の恋人が叫ぶと同時にカインは両脚に魔力を注ぐと一気に膝をついているフルの元まで跳躍する。


 「(何でアイツは重力の影響を受けてないんだよ!?)」


 上から押さえつける力に必死に抗おうとしながら全く重力の影響を受けず一直線に近づいているカインに対してフルは理不尽さを呪う。どうしてお前はこの重力下で普段通りに動けるんだと。

 だがフルにとっては理不尽かもしれないがホルンにとってはカインが重力の影響を受けない事は何ら不思議ではなかった。スキルはコントロールする事で影響を与える対象者を判別できる。この力はカインを守りたいと言う想いから発現した能力なのだ。そんな力が彼を傷つけるなどホルンからすればあり得ない話なのだから。


 「とどけぇぇぇぇぇぇ!!」


 「や、やめろぉぉぉ!?」


 地面へと縫い付けられながら迫りくるカインへと叫ぶフルだがもう遅かった。


 握った剣へ残りの魔力を全て注いで一閃したその斬撃はフルの肉体を完全に切り裂いた。


 「ち…ちくしょう………」



            第4ルート フル・ガジェット 死亡


          勝者 カイン・グラド、ホルン・ヒュール



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[一言] 最後の勝者マホジョとセシルになってますよ
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