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どうして〝お前〟が……!?


 誰よりも先に自分の割り振られたルートを突破したムゲンは一切足を止めることなく前へ前へと歩みを進め続けていた。

 自分を待ち伏せていたスキル持ちを戦闘不能にしてしばし先を進むと、もしもの時の為に控えていたであろう兵隊達が一斉に押し寄せて来た。だがムゲンが腕をスイングするだけで生じる風圧だけで兵隊達は押し返され、それでも強引に突っ込んで来ようとする者には拳圧によって通路の壁や床にめり込ませる。


 「だ、駄目だ。こんな化け物に勝てる訳ねぇ!!」


 「くそっ、これ以上は付き合ってられるか!!」


 攻撃を当てるどころか近づく事すらままならず蹴散らされる味方の姿を見て兵隊達の中には背を向けて逃げ出そうとする者まで現れる始末だ。


 「おい逃げんじゃねぇ! ぐはっ!?」


 自分達の後ろの味方が引き返していき前の方でムゲンと戦っている敵兵が叫ぶ。だがその直後にムゲンから飛ばされる拳の衝撃波により意識が吹っ飛んでしまう。


 「(よし、雑兵どもは完全に戦意喪失気味だ。これならスムーズにソウルサックの元まで行けるぞ)」


 相手にならないとはいえ数が多すぎて無駄に時間を消費していたこの状況は一分一秒でもソウルサックの元に辿り着きたいと思っていたムゲンにとってもかなり痛手であった。だが自分の暴れぶりを見て引き返す兵隊達の姿に内心でガッツポーズを取る。


 だが逃げ出した兵隊達が背中を見せてしばし逃走した時、通路の奥から凄まじい冷気が一気に通路を駆け抜けていった。


 「さむっ……!?」


 自分に吹き付ける冷風を魔力で肉体を覆ってやり過ごすムゲン。

 だが彼以外の通路に集まっていた兵隊達は今の冷気により一瞬で全身が凍り付かされる。


 「まったく、アジトに攻め入られた程度でこの体たらく。一度この第5支部の兵隊達を一新する必要がありますかね?」


 通路の奥から澄んだ女性の声が響いてくる。

 その声の主は自分の行く手を阻んでいる氷漬けの兵隊達を砕いていきながらゆっくりとムゲンの前に姿を現した。


 現れたのはあらゆる男性を魅了してしまう程の美しい容姿を持つ絶世のエルフであった。

 しかしムゲンは相手の美しさに惑わされることなど無く、それどころか一瞬で人間を冷凍してしまうその実力に舌打ちをする。


 「くそっ、また厄介そうな相手が出て来たな……」


 「あなたがソウルサックの目的の少年ですか。初めまして、この第5支部の副支部長を任せられているハレード・パルメスです」


 丁寧な口調での自己紹介を終えると同時に彼女は魔法を展開する。


 「古代魔法発動――<優しい悪夢の世界>」


 通路の壁や床を埋め尽くさんばかりの大量の魔法陣が一斉に展開すると同時にムゲンの視界は光で包まれた。



 ◇◇◇



 「………んあ?」


 四方八方に展開された魔法陣から放たれた眩い光にムゲンは思わず目を閉じてしまっていた。すぐに光は収まりムゲンの視力も回復した。だが次に自分の瞳の中に飛び込んで来た光景に彼は混乱してしまう。


 「……どこだよここ?」


 先ほどまで一本に続く通路上に自分は立っていたはずだ。だが再び瞼を上げると視界に広がる風景は一変していたのだ。


 何故ならムゲンは大勢の冒険者達で賑わっている、自分の所属しているギルドの酒場の机に座っていたのだ。


 「……は?」


 数秒前までの緊迫した空気からどんちゃん騒ぎしている冒険者達の喧噪に思考が停止してしまう。

 

 ど…どうなってるんだこれは? 何で俺は【ファーミリ】のギルドの酒場に居るんだ? まさかあのエルフ族の魔法は相手を転移させる類の魔法だったのか?


 もしそうだとするなら状況は最悪だ。このギルドからあの第5支部のアジトまではかなりの距離がある。とてもではないが今から再度アジトに向けて全速力で走ったとしてもその間に仲間達がやられている可能性がある。かと言って自分は転移魔法の類の術は持っていない。


 「くそっ、四の五の考えるのは後だ! とにかくアジトに向かわないと!!」


 急いで元居た戦場に戻ろうと席を立つムゲンだが、背後から聴こえてきた〝少女〟の声に思わず全身が硬直してしまった。


 「おーい何してるのよムゲン? 折角の依頼完了の打ち上げだって言うのに何で1人で離れて飲もうとしてるのよ」

 

 ……あり得ない。どうして……どうして〝お前〟が生きているんだ?


 振り向かずとも自分に背後から声を掛けてきている人物が誰なのかムゲンには瞬時に理解できた。だって〝彼女〟とはかつて共にパーティーを組んで戦い続けて来た仲だったのだから。


 ――『もし何時か生まれ変わってもう一度巡り合えたらまた一緒に冒険を――』


 自分の目の前で彼女はその言葉と共に自爆してこの世を去った。その最期の別れの瞬間をこの眼に焼き付けている。


 ゆっくりと唇を震わせながら振り返り、そして瞳に飛び込んで来た人物を見て呼吸が止まる。


 「何を間抜けな顔をしてるのよ? ほら、早くパーティーメンバーで打ち上げするわよ!」


 そこに立っていたのはかつて【真紅の剣】時代の戦友――《魔法使い》メグ・リーリスだった。



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