第1ルートの死闘、決着
「どうしてソルは《魔法剣士》の職を選んだんだ?」
それは宿で共に食事をとっているムゲンから投げられた何気ない質問であった。
「ん、どうしてそんなことを訊くんだ?」
「いや別に意味がある訳じゃないんだ。ただ純粋に気になったから質問しただけなんだか…」
同じパーティーとなり共に依頼をこなしていてソルの剣の腕前が他の冒険者とは桁が違う事はムゲンも理解していた。だがだからこそ疑問を感じてしまう。何故彼女は《剣士》ではなく《魔法剣士》の職を選んだのだろうと。
別段《魔法剣士》が悪いと言っている訳ではない。剣と魔法を両立して近距離と遠距離を幅広くこなせる良い職だ。だが近距離の強さを比べるならやはり《剣士》の方が上のはずだろう。魔法に割り振る分の魔力も剣術1本に注げるからだ。無論どちらの職の方が上とか下とかではないが、ソルは戦闘の最中にほとんど純粋な剣技でモンスターを討伐しているのだ。これならば《剣士》の方がソルには性に合っていると感じたのだ。
「戦闘中にソルが扱う魔法は初級ばかりだろ? しかも基本は魔法を使わないしな」
「まあ魔法なら本場の《魔法使い》であるハルの方が何十倍も上だからな」
何故ソルが《魔法剣士》の職に就いたのか、ハッキリ言うのであればそこまで特別な意味などなかった。まだ駆け出し冒険者の時代にハルと二人組で依頼をこなしていた。その際にハルの援護を少しでも出来るようにと彼女は《剣士》でなく《魔法剣士》を選択した。まだ駆け出し時代は今以上に戦闘で魔法を駆使していた部分はソルにあった。だがハルがSランクになる頃にはもう魔法などほとんど扱わずソルは剣の腕ばかりを鍛え続けていた。
一時は《魔法剣士》から《剣士》へとジョブチェンジしようかと考えたこともあったが結局はずるずると引きずって今もまだ《魔法剣士》として戦っている。
「(でも実際のところ勿体ない部分はやはりあるな。折角魔法の適性が上がる職を得ているのに魔法を扱わないだなんて……)」
念願のムゲンとパーティーを組むことで近接戦に対してこのパーティーは更に強化された。ならば自分も新たな戦術を身に着けるべきではないかと密かに考えてはいた。
だが自分はハッキリ言って遠距離戦は苦手だ。多少はできるがハルと比べればお粗末な物、そんな自分が中途半端に魔法を身に着けても大した意味を持たないだろう。
だがここでソルはある名案を思い付いた。魔法は何も遠くの敵を狙う為だけにあるものではない。接近戦しか自分に取り柄がないのであればそれを活かせる魔法を身に着けて見れば良いのではないかと。
過去のムゲンとのやり取りを思い出したソルは何も持っていない両手をゆっくりと広げ、そして手のひらに魔力をかき集める。
「これで終わりだぁぁぁぁ」
自らのスキルで燃え盛る拳を繰り出してくるガイリキの迫力にも臆せず魔力のコントロールに意識を集中する。そしてソルの顔面に紅蓮の拳がぶち当てられる直前――彼女の両手に2本の剣が現れた。
彼女の右手には燃え盛る炎の剣、そして左手には凍てつく氷の剣が握られており、迫りくる拳を左手の氷の剣で切り裂いた。
「なっ、何だこれはァ!?」
斬りつけられたガイリキの拳はソルの氷の剣によって一瞬で氷漬けにされてしまう。
「あいにく私は《魔法剣士》だ。剣が奪われたのなら魔法で作り出せばいい!!」
今回のような剣を手放してしまう状況を想定してソルは自ら『形なき物を剣にする』魔法<フォームレスソード>を密かに開発して訓練を続けていた。その結果習得したのが彼女のオリジナル魔法であるこの炎と氷の形なき二本の剣だ。ハルと比べて精密な魔法のコントロールが不得手なソルは自分の両手から発現できる魔法を会得していた。炎の剣は切り裂いた相手を焼き尽くし、そして氷の剣は氷漬けにしてしまう。
「お、俺様の火が消され……」
「この氷の剣の前じゃお前のスキルは無力だ。相手が悪かったな」
ガイリキの体外に出た血液を発火させる力は血を流して初めて発動するタイプの能力だ。だが氷の剣はガイリキの肉体を切り裂くと同時に傷口を凍り付かせて傷を強引に塞いでしまっている。つまり傷口が塞がると言う事は血が漏れ出てこない、発火はしないと言う事だ。
「こんのぉ!」
「遅い!!」
前蹴りを放ってくるガイリキだが冷気によって肉体の稼働が僅かに遅れる。そのコンマ1秒速くもう1本の炎の剣がガイリキの顔面を斬りつけた。
「あがああ、あ、あづぁあ!?」
顔面に炎の剣を直撃されてガイリキが叫ぶ。その隙を見逃さずソルは自らの肉体を最大限まで強化、そのまま両手の炎と氷の剣を連続で斬りつけ続ける。肉を焦がす炎と身を凍てつかせる氷、その相反する二つの魔法を連続でぶち当てられてガイリキの肉体は完全にまともに機能しなくなる。ついにはガードすら出来ず最後はいいようにやられてしまう。
くはは……どうやら…俺様はここまでのようだ……な……。
自らの命の炎がどんどん小さくなっていく事を自覚しながらもガイリキは最期に笑った。
今まで数多くの命を奪い続けて来た彼はいつかはこうなる事を覚悟して生きていた。だが自分の持てる力を全て出し尽くしたうえでの敗北だ。何も…悔いなど無かった……。
「たのし……かったぜ……」
その言葉を最期にガイリキはソルの繰り出した氷の剣による最後の一撃で全身が氷漬けにされる。その数秒後、ガイリキの心臓の鼓動は完全に停止した。
第1ルート ガイリキ・オルベェン 死亡
勝者 ソル・ウォーレン
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