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燃える血の持ち主


 第1ルートではSランク冒険者とスキル持ちによる凄まじい激戦が繰り広げられていた。部屋の中を人知を超えた身体能力を発揮する二人の男女が何度も衝突していた。


 「ハッハァッ!! 流石はこのアジトに乗り込んで来るだけの事はあるな! ここまで俺様と競り合う相手は久々だぜ!!」


 魔力で強化した拳をガイリキは繰り出しながら豪快に笑い続ける。その拳をソルは自らの愛剣で弾き返す。ソルが剣先で弾き返した相手の拳からは僅かに血が噴き出てソルの頬へと付着する。

 

 「(くそ、ムゲンほどではないがコイツなんて頑丈な体をしてるんだ!)」


 生身の肉体をドラゴンキラーの剣で弾き、切り裂き続けているにもかかわらず与えられえるダメージは微々たるものであった。本来であれば一撃で肉や骨を断つ斬撃は僅かに肉を抉って少量の血液を流させる程度のダメージしか与えられていない。だが蓄積されているダメージはガイリキの方が上回っている。それにスピードもソルの方が上でありここまでの戦いで彼女はまだ相手からの攻撃を一度も受けていない。


 「(何だこの胸騒ぎは……)」

 

 ここまでは自分が優勢に立ち回り続けられたソルであるが何か違和感を感じる。

 本来であれば対峙している者よりも実力が下であれば焦りを見せるはずだ。だが目の前の筋肉ダルマは一向に笑みを浮かべ続けている。いや、コイツは純粋な戦闘狂であるから戦っている間ずっと笑っている事は理解できる。だが焦りが一切見られない事がどうにも気持ちが悪いのだ。

 

 これではまるでここまでの戦いが相手の思い通りに展開しているようではないか。


 「……そろそろかな?」


 もう千を上回る攻防の最中にガイリキが微かな声でそう呟いた。そして彼はこの場で大きく指を鳴らした。


 その瞬間にソルの体のあちこちからいきなり発火したのだ。


 「な、何だ!?」


 まるで理解できない攻撃に襲われソルは困惑する。何しろガイリキが指を鳴らしたと同時に自分の体のあちこちから火が燃え上がったのだ。少なくとも魔法の類ではない。頬や衣服に点々と発火した火を急いで消すがその動きはこの高速で動く戦闘時には致命的だった。


 「もらったぁッ!!」


 「ぐっ、コイツ!!」


 動きが止まった隙を見逃さず放たれるガイリキの拳がまともに頬へと突き刺さる。その際に彼女が感じたのは殴打による鈍痛だけでなく燃えるような〝熱さ〟だった。


 こ…これは…コイツの拳も燃えているだと?


 自分の火を消す事に意識が向いていて気が付かなかったが発火現象は自分の身にだけ起きたわけではなかったのだ。自分を殴りつけているガイリキの両の拳、そして体のあちこちから火が出ているのだ。

 殴り飛ばされながらソルはこの攻撃について考察を巡らせる。


 この発火現象は間違いなくアイツのスキルによるものだろう。だが解らないのは相手だけでなく自分にまで炎が現出している事だ。完全な無差別攻撃? いや、だとしても何故全身でなくこんなまばらに火が出て来る? そこに何かカラクリが……ん、待てよ。よく見たらアイツの体から出ている炎……傷口から出ていないか?


 ガイリキの拳は彼の全身から出ている火の中で一際強く燃え盛っている。そして他の火が出ている部分もよく観察すれば傷口部分から火が出ており、逆に傷の無い部位からは火が出ていないのだ。

 

 どういうことだ傷口から発火する仕組みなのか? いや…だとしたらおかしい。私の体には目立った外傷は皆無だ。なら何が原因だと言うんだ……。


 襲い掛かるガイリキの火炎の拳を剣で弾きながら相手のスキルを見極めようとする。

 そしてしばしの打ち合いでようやくソルは炎の発動する条件を理解した。それはこの男の〝血〟が火を起こしているのだ。


 「なるほどな、血液を発火させる事がお前のスキルの正体か。しかもお前自身はその炎で焼かれる事はないと」


 「ははっ流石だぜ! もう俺様のスキルに気が付いたとはな!!」


 このガイリキの持つスキルは《血液発火》と言い自らの体外の出た血液を発火させる力がある。

 先程のソルの体から火が出たのもガイリキの返り血が付着したからであり、彼の拳がもっとも激しく燃え盛っているのも一番外傷が多いからだった。

 確かに中々に厄介なスキルだが手の打ちようがない訳ではない。要は血液に触れなければ発火する事はないと言う事だ。


 「ネタが割れてしまえばどうと言う事はない!!」


 そう言いながらソルは自らの視力を魔力で強化して底上げする。

 今までよりも目に映る景色が鮮明に見えるようになり、これならばこの男の返り血を全て躱す事も不可能ではない。

 一瞬で勝負を決めようとソルは剣先に魔力を集約して心臓部に突きを放つ。


 「その心臓を穿ってやる! これで終わりだ!!」


 今まで一番最速かつ魔力による補助で強化されたこの突きは間違いなくこの男の強靭な肉体をも貫ける自信をソルは持っていた。


 そしてその自信を裏切らないかのように彼女の一撃はガイリキの肉と骨を完全に貫いた――ただし貫いた箇所は心臓のある胸部でなく盾として構えた腕の方であった。


 「なっ、コイツ腕を間に挟んで防御を…!?」


 「ぐぐ……完全に片腕が死んだな。だがこれでまともにカウンターを入れることが出来る!!」


 脂汗を流しながらガイリキは剣の突き刺さった腕を捩じった。そのせいで更に肉が刃で抉れ大量の血液が宙を舞った。

 

 「くそ、不味い!」


 撒き散らされた血液には発火を引き起こす能力が付与されている。このままでは全身に返り血を浴びかねないと悟り右方向へと移動して落下する血の雨を何とか回避した。だが握っていた剣はガイリキの腕に突き刺さったまま手放してしまう事になる。


 「隙ありだぜ!!」


 血の雨を避ける為に右へと移動を終えた直後、すでに動きを先読みしていたガイリキの蹴りがソルの横腹にぶち当てられる。


 「がっぶぁ……!!」


 今のソルの一撃同様にガイリキの方もこの蹴りに魔力を集約していたようでその威力は今までの比ではなかった。

 自らの肋骨が数本へし折れた事を理解しつつも一気に部屋の端まで吹っ飛ばされる。


 「おごっ……ゴホッゴホッ……!」


 咳込みながら血を吐き出し、鈍く繰り返される鈍痛にソルの表情は苦悶に彩られる。

 苦しんでいる彼女の様子を見てガイリキはその場でガッツポーズを取って見せる。


 「よし手応えあり! 今の蹴りで肋骨が3本は確実にぶち折れたぜ! これは形勢逆転だな!!」


 自分の攻撃がまともに入った事を歓喜するガイリキに対してソルは引き攣りながらも笑みを浮かべる。


 「な…何をもう勝った気でいる? まだ…私はピンピンしているぞ?」


 「おっいいねその強気な姿勢は。俺様はそう言う最後まで諦めないヤツは殺し甲斐があって大好きだぜ」


 「ふん…けほっ…イカれた筋肉ゴリラが……」


 動くどころか呼吸をするだけでも痛みが走る脇腹の激痛を堪えつつも立ち上がる。だが自分の愛剣はガイリキの腕に突き刺さっており今の自分は完全に無手の状態だ。

 武器を失ったソルに対してガイリキは余裕を持ちつつあった。


 「いくら剣の達人と言えども素手では俺様には勝てないぜ。さあ…そろそろ最終決戦だ」


 「ふん…私も舐められたものだな。剣が奪われた程度で私が折れると思ったか?」


 「その最後まで折れない心構えは大好きだぜ。お前はこれまでの中で一番の相手だったぁ!!」


 腕に突き刺さっている剣をソルとは反対方向に放り捨てるとガイリキは一気に彼女の元まで飛び込んでいく。


 この時に迫りくる筋肉の塊を見つめながらソルはあの日のムゲンとの会話を思い出していた。



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