表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

148/305

IF もしもムゲンが闇落ちしたら 3

本編とは異なりムゲンがかなり闇落ちしてます。あくまで〝もしも〟の物語ではありますが本編の彼とのギャップに注意してください。


 一面に広がる地獄絵図、むせ返るほどの濃い血の香り、血みどろとなって辺りに転がっている骸となった村人や冒険者達、その中心地には両手の拳を返り血で真っ赤に染めて立っている少年が1人居た。


 「ふん…何がAランクパーティーだ。この程度で俺に挑んで来るとはな……身の程を弁えないからこうなるんだ」


 手に付着した血を舐めとりながら邪悪に嗤うのはかつては【真紅の剣】の一員であったムゲン・クロイヤだった。

 足元に転がる死体を踏みつけながら彼は村の中から食料や金品を奪っている亜人である部下達に声を掛ける。


 「おい成果の方はどうだったネーナ? それなりに絞り取れたか?」


 「ばっちりです。今まで襲った中で一番大きな村でしたから蓄えも相当あったようです。特に食糧に関してはもうしばらく考えなくてもすみそうですよ!」


 興奮気味に用意した馬車の荷台にギチギチに重ねられている強奪品の多さに喜びながら猫耳の少女ネーナがその場で跳ねる。

 

 現在のムゲンは完全に人の道から外れて生きていた。この村の様な平穏な場所を襲っては略奪を繰り返す盗賊団の若き頭が今の彼の立ち位置だった。周りに転がっているのは罪なき村人達と、そして不運にもこの村でモンスター退治の依頼を受けて居合わせていた正規ギルドの冒険者パーティーだった。

 何一つ罪など犯していない彼らは一人残らずムゲンと部下達の手によって殺されていた。かつての彼を知る者からすればこの鬼畜以上の所業を彼が行ったなど信じられないだろう。 


 パーティーの仲間、ギルドの連中、そしてライト王国すらからも追放されてしまった彼は学習したのだ。この世は馬鹿正直な人間ほどそんな不遇な目に遭う確率が高くなると。表側の世界では自分は奪われるばかりだった。かつて【真紅の剣】に所属していた頃などまさにそう、どれだけ堅実に生きようが馬鹿は奪われて最後には搾りかすとなる。

 そんな生き方が愚かだと気付き彼は奪う側に回った。その切っ掛けはこの猫族であるネーナであった。


 暮らしていた町や国からも逃げる事となり自ら死すら選ぼうかと思っていた時にネーナと出会った。彼女は奴隷商の人間に汚い欲望を満たすための商品として扱われ反抗すると容赦のない暴行を受けていた。その光景を見てムゲンは頭の中で何かが切れた。この瞬間に彼と言う人間は別人に生まれ変わったのだ。別に目先で痛めつけられているネーナを救いたかった訳ではない。ただ大した力も無いくせに威張り散らす奴隷商人があの【真紅の剣】のクズ共を連想させてしまい歯止めが利かずつい殺してしまった。その初めての殺人により彼は一線を越えてしまった。


 もう後戻りは不可能だと悟った彼は恐怖に怯えて竦んでいる奴隷たちへと選択肢をやる。


 『お前達はこれからどうする? 今この場にお前達を縛っている人間はもう居ない。俺はかつては正規ギルドの人間だったが見ての通り奴隷商の人間とは言え殺人を行った。今後は奪う側に回って生きてやる。もし行く当てがないなら俺と共に来い、そんな度胸は無いと言うなら首輪を外して好き勝手に散れ』


 殺して奪い取った彼らの枷である首輪の鍵を無造作に放り捨てムゲンはこれからどうするのかを彼女等に問うた。とは言え彼女等は互いに顔を見合わせるだけで答えを言い淀んでいた。奴隷と言う立場から解放してくれた事には全員恩義を感じてはいる。だが彼に付いて行っても果たして大丈夫かどうかと言う不安も無視できない。とは言えいかに亜人とは言えこんなぼろ布しか纏っていない乞食同然の自分達だけで生きていけるかどうかも分からない。


 彼に付いていくか、それとも一人で生きていくか、全員がどちらを取るべきか葛藤を繰り返していると1人の少女が進むべき道を選択した。


 「私はあなたに付いていきます! いえ、一緒に付いていかせてください!!」


 その声の主は奴隷商の人間から暴行を受けていた猫族の少女であった。


 決断を渋っている他の連中とは違い窮地を救われた時から彼女はムゲンに付いていこうと勝手に決めていた。そんな人物から共に来るかと誘われたのならば断わる理由など何一つなかった。

 全く淀みのない同行宣言に興味が湧いたのかムゲンは何故ついていこうと思ったのかその理由を問う。


 「付いて来るかどうか尋ねたのは俺だ。だがお前は何を思って俺に付いていこうと思った」


 「理由は単純なものです。私はあなたと同じく〝奪う側〟になって成り上がろうと思ったからです」


 このネーナと言う猫族の少女は常に奪われる側の立場だった。

 幼いころから優秀な姉と比較され親の愛情を奪われ続けた。それでも優秀な《魔法使い》である姉を尊敬して彼女に必ずいつか追いついて見せると努力し続けた。だが最後はあろうことか目標としていたその姉に裏切られた。


 共に故郷を出て姉妹で名のあるパーティーへと加入させてもらった。だが姉は不出来な妹を疎ましく思いモンスターと共に背後から彼女を撃ち抜いたのだ。


 『ど…どうして……?』


 『私はもっと上を目指したいのよ。その為には出来損ないの妹はここで捨てておきたいの』


 そう、自らの出世と言う欲の為に姉は妹の自分をあっさりと切り捨てた。

 瀕死となったネーナはそのまま今にも死にそうな状態のまま奴隷として姉に端した金で売られた。その際に姉は仲間達も抱き込んでいたようでパーティー全員がネーナを見限ったのだ。


 「奴隷にまで堕とされた事で私も気付いたんです。生きるためには奪う側が一番賢い生き方だと。だから私と同じ考えを持つあなたと共に行動させてください!!」


 自分の恥辱の過去を話し終えるとネーナはその場で土下座をして懇願する。

 同じ奴隷として闇に塗れる覚悟を決めた少女の土下座に他の奴隷から解放された女性達も選ぶべき道を決断した。


 「私も! 私も一緒に付いていく! 今度は私達が奪う側になるんだ!」


 「今まで散々傷つけられ穢された!! 今度は私が同じことを間抜けな連中にしてやる!」


 憎悪は次々と伝染してやがては爆発する。

 これまで世界に対して恨みを抱き続けていた彼女達はもう止まらない。


 自分と同じ闇に濁った亜人達を見てムゲンは小さく笑みを浮かべて言った。


 「よしいいだろう。今日から俺達は奪う側の存在だ」


 こうしてこの日、ムゲンが率いる盗賊団【ベンジャンス】が結成された。



 

もしこの作品が面白いと少しでも感じてくれたのならばブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。自分の作品を評価されるととても嬉しくモチベーションアップです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ