ソルとハル、戦闘開始
もうすぐ150話突破しそうです。今後もこの作品の応援をよろしくお願いします!!
第1ルートへと割り振られたソルは警戒をしながら先に進んでいくと広々とした空間へと出た。そしてその部屋の中央では何やら体格の良い男性が居た。そして何故かその場で腕立て伏せをして汗だくとなっている。
「1059! 1060! 1061……おお遂に来やがったな!! お前が俺様の対戦相手か!!」
「……何だお前は?」
「俺様か? 俺様の名前はガイリキ・オルベェンだ!!」
「いや名前を訊いている訳じゃなくてだな…」
自分の元までやって来たソルの姿を見るとその男は無駄に爽やかな笑みを向けて来たのだ。
正直今の今まで気を張り続けていたソルの緊張感が弛緩しそうになる。まさか闇ギルドの人間からこんな屈託のない笑顔をぶつけられるとは思いもしなかった。
「(と言うよりもコイツ本当に闇ギルドの人間なのか? 確かに凄まじい圧は感じるがこれまで対峙して来た【ディアブロ】の連中と比べるとどうにも空気が……)」
だがこの場に居ると言うことは間違いなく【ディアブロ】の人間なのだろう。
相手の態度のせいで緩みかけていた気を張りなおすと相手の男は嬉しそうに豪快な笑い声を上げた。
「がはははっ! そうそう、そうやって常にマジで神経を尖らせ続けろよ。緩み切っている相手を倒しても意味はねぇからな!!」
「随分と優しいんだな。わざわざ敵に塩を送るなんて余裕じゃ無いか」
「別にそうじゃねぇよ。ただ戦うなら互いにマジでなきゃ意味がねぇってのが俺のポリシーだ」
やはりこの男はどこか調子が狂う。この男の瞳には悪意の類が一切見られないのだ。本当に純粋に戦いを楽しみたいと言う想いが伝わって来る。
だからこそ戦う前にソルは彼へとつい質問せずにはいられなかった。
「どうしてお前はこんな闇ギルドに身を置いている?」
「んん?」
「お前の目からは純粋な闘気しか感じられない。とても闇に身を堕とすタイプには見えんがな」
「別に闇ギルドだから居る訳じゃない。ここなら〝戦いの場〟を提供されるから居るだけだ」
「……何だと?」
「俺様はただ命を懸けた魂のぶつかり合いがしたいだけだ。この裏の世界なら俺様の望む戦いが今回の様にお膳立てされる。だから俺様はこの【ディアブロ】に身を置いているんだよ」
さも当たり前のような表情でそう告げるこの男を見てソルは自分の目が曇っていた事に気が付かされた。
コイツ……純粋すぎる。相手の生死など二の次三の次、ただ自分が出し惜しみなく全力で戦う事だけを目的に生きている。その勝負の結果、相手の命が散ろうが自分が命を失おうがそんな事なんてコイツには『どうでもいい』事だと本気で考えている。闘争と言う行為が生きる理由となってしまっている。
「はん、今が良ければそれでいいか……前言撤回するぞ。お前は間違いなく闇ギルドの人間だよ」
この男の戦う理由はあまりにも凶悪すぎる。善や悪などコイツには重要ではない。ただ血のたぎる戦が出来るなら後はどうでも良いのだ。
「戦う前に教えろ。お前、これまで戦いたいと言う理由から何人殺してきた?」
「そうだなぁ……ん~30は殺してきたぞ! 中には俺も危ない戦いもあったな!!」
「………そうか、なら容赦はなしだ。お前は――ここで殺す」
◇◇◇
第2ルートを進んだハルもまたソルと同じタイミングで待ち伏せていた敵と対峙していた。
「どうやらアンタが自分の対戦相手みたいっスね」
「あなたがこのルートで待ち構えていた〝スキル所持者〟ですか…」
ハルの目の前に立っているのは自分と背丈がほぼ同じ少年であった。だがその瞳には一切の光が宿っておらず生きる気力すらも感じられないほど儚さが醸し出されている。
「アンタに恨みはないですけどここで死んでもらうっスよ」
「そうはさせません。こちらこそ闇ギルドの人間である以上は遠慮なく倒させてもらいます」
魔杖を構えて即座に魔法をぶつけようとするハルに対して少年は不快そうに唾を吐いた。
「何が闇ギルドの人間である以上はっスか。闇ギルドのような場所でしか落ち着いて生きていけない人間の事情何て考慮していない上から目線の発言、マジでうざいっスよそういうの!!」
苛立ちを籠めながら少年は自らのスキルを発動させて一気に突っ込んで来た。
「(真正面から突っ込んで来た? とにかく速度重視の魔法で迎撃を…!)」
「へえ……スピードのある魔法で足止めしようってことっスか?」
「!?」
ハルが魔法を放つよりも先に少年は彼女の考えを口に出して言い当てて見せる。
完全に行動を読み取られてしまったハルは動揺して魔法の発動が一瞬だけ遅れてしまう。それよりも先に少年の方から魔法が飛んできた。
「<ファイアーボール>!」
「くうっ!?」
ギリギリで魔法は回避できたハルだが既に短刀を構えた少年が迫って来ていた。
地面に転がりながらもすぐに魔法を発動しようとするがまたしても少年が彼女の考えを言い当てて見せたのだ。
「ふ~ん…地面から発動するタイプの魔法で不意を突こうって魂胆っスか。意外とセコイところあるんスね」
「(ま、また読まれた!?)」
ハルが地面に魔法陣を展開するよりも早く背後へとバックステップを取って距離を置く少年。
「(見たところ身体能力は少し高い程度、それに魔力の大きさも私の方が上回っている。でも攻撃を当てられない。まるで……)」
「まるで心の中を読まれているかのように……スか。まあその通りなんっスけどね」
自分のスキルの正体をまるで隠す様子も無い少年。
普通ならば相手に手の内を自ら教えるなど愚の骨頂だろう。だが彼の能力は例外と言ってもいいだろう。何しろスキルの正体を知られたとしても防ぎようのない能力なのだから。
「俺は他者の心の声を聴きとれる力を持つ。これが俺のスキル《読心》の能力っスよ」
サオール・デュルス――スキル名《読心》 周囲の者達の心の声を読み取る能力。
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