アルメダの第二人生 2
あれからさらに数日経過したが未だにアルメダはスーザンの元へと身を置いて過ごしていた。だがスーザンの仕事を手伝う合間の時間を見つけては彼女はある特訓を密かに繰り返していた。
「<アクアブレット>発動!!」
彼女は大きな岩へと目掛けて水の魔法を放っていた。
かつては一流の冒険者であったスーザンから密かに魔法の基礎を教えてもらった彼女は暇な時間を見つけては身に着けた魔法を試し打ちしていた。
手に平から撃ち出した水の弾丸は岩を削って辺りに破片を撒き散らすが貫通には至らない。
「はあ……やっぱり才能ないのかなぁ?」
自分の発動した魔法の威力を見てげんなりとしてしまう。以前にスーザンさんから見せてもらった初級魔法はどれもが初級のものとは思えないほどに洗練されていた。この水の魔法の<アクアブレッド>だってスーザンさんならば軽々と岩を貫通していたと言うのに。
「こんな事じゃいつまでたっても私はあいつの力になれないじゃない……」
縛り付けられていた怨霊から自由に動ける肉体を手にする事ができた。そんな自分が一番やりたい事を何度も考えたがやはり到達する答えは1つだった。
自分を苦しみから解放してくれたムゲン・クロイヤの力となり、そして彼と一緒に外の世界を見て回りたい、それが自分の求める今の〝願い〟であった。しかしその為にはまず自分には最低限の強さを身につけなければならない。
ムゲンと共に歩んでいくと言う事は冒険者である彼に付いていけるだけの〝強さ〟を身につけなければならない。だからこそ魔法を身に着けようとこうして藻掻いているがムゲンの強さにはまるで届いていない。
「はあ…今日はそろそろ戻ろう。あまり遅くなればスーザンさんも心配するだろうし……」
「あら、そんな気を遣わずもっと練習しても良いわよ?」
「そうですか。それならもう少し……うえぇぇぇ!?」
独り言として呟いたはずの自分の言葉に返しを入れられた事に普通に返事をしたアルメダだが、遅れて驚いて後ろを振り返るとそこにはニコニコと笑っているスーザンが立っていた。
「い、いつから居たんですか?」
「実は初めからずっと見ていたのよ。もっと言うなら時折アルメダちゃんがこの場所で魔法の練習をしている事も知っていたのよ」
別に自分が魔法の特訓を行っている事実は絶対秘密にしなければならない訳でもない。だが特訓中はスーザンに見られているとは露にも思っておらず何だか少し恥ずかしくなる。
「ご、ごめんなさい。秘密にしていて…」
「謝る事なんてないわ。それに私の方こそ何だか悪戯気味に話し掛けてごめんなさいね。それよりもアルメダちゃん、そこまで時間を見つけては魔法の練習をするのはどうしてかしら?」
スーザンの口から問われたその質問をアルメダは単純に疑問を投げかけられているだけでない事を理解した。彼女のこの質問はつまり『魔法を身に着けその力であなたは何をしたいのか』と尋ねていると悟り、彼女は自分の今やりたいと思っている事が何かを話した。
「私はムゲンの……あなたの息子と共に人生を歩んでいきたい。彼と同じ〝冒険者〟となって自由に生きて…彼の力となりたいです」
「ねえアルメダちゃん。それはムゲンに恩義を感じているからなのかしら? だとするならあまり感心しないわね。それは結局あなたが恩と言う見えない糸で縛られて本当にやりたい事を見失っている危険もあるわ。本当に…自分の心からの意志でムゲンと供に先を歩んでいきたいと思っている?」
「確かに恩義も理由の1つなのかもしれません。でも……それ以上に彼と居ると楽しかったんです。だから体を用意してもらった恩など関係なく私はあなたの息子さんと並んで歩いてみたいんです。きっとその先に生前では見られなかった景色があると思うから……」
真っ直ぐにスーザンの瞳を見つめながらアルメダは自分の本心をぶつけた。
その答えを聞いてスーザンは驚きはしなかった。むしろ嬉しそうに笑うと彼女を祝福するかのような言葉を投げ掛ける。
「そう…やっと見つかったのね。本当に自分のやりたい事が…ふふっ、ムゲンも中々に罪な子ねぇ。こんな美人な女の子にここまで言わせるなんて」
「……でもやりたい事は見つかったんですけど今の私ではその望みを叶える資格がまだありません。こんな情けない魔法しかまだ身に着けていない今の自分じゃ足を引っ張るだけ……」
そう言いながら自分の魔法による情けない破壊痕を見つめながら彼女は溜息を漏らす。
「スーザンさんと比べると自分のお粗末な実力じゃムゲンに付いていく事なんてできない。まずは私自身が冒険者としてやっていけるレベルまで成長する必要があります。それで…もし迷惑でなければスーザンさん、私に魔法の訓練を付けてくれないでしょうか?」
ハッキリ言ってこうして暇を見ては魔法のトレーニングを行ってきたが未だに目立った成果は得られていない。
今まではスーザンに隠していたが既に知られていたならばもう構わない。そう思い目の前の自分よりも遥かに高みに立っている《魔法使い》へと魔法の訓練を付けて欲しいと頼み込む。
どこまでも純粋なその瞳はとても過去に怨霊だったものとは思えないほどに済んでおり、そんな女の子に出来うる限り力を貸してあげたいとスーザンは思った。
「最初に言っておくけど普段の生活とは違い指導に関してはスパルタよ? 中途半端に根を上げず最後まで付いてこれるかしら?」
まるで覚悟を試すかのようなスーザンの発言に対してアルメダは無言でじっと見つめて来た。
その覚悟の灯っている瞳の奥を見れば答えは十分に分かりスーザンは頷いて了承した。
「いいわ、今日からあなたに私の教えられる限りの事をレクチャーするわ。しっかり付いてきなさい!!」
「はい!!」
普段は自分をまるで娘の様に接してくれる彼女からは想像のつかないほどの覇気を感じさせる命令口調の言葉、それに対してアルメダは覚悟を示して大声で返事をするのだった。
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