出発
今回ハルがムゲンの事をさん付けで呼んでいませんが誤字ではありません。
セシル達が同じギルドのファル・ブレーンから襲撃を受けると言う一幕はありはしたが無事に翌朝を迎えて当初の予定通り【ディアブロ】第5支部への出発は問題なく決行される事となった。そして【黒の救世主】、【不退の歩み】の合計8人のメンバーは待ち合わせ場所に指定していた広場へと集合していた。
【不退の歩み】の4人がやって来ると既にムゲン達が到着していたのだがそこである違和感をカイン達は感じ取っていた。
こう…上手く言えないのだが【黒の救世主】の女性陣がどこかやる気に満ちていると言うか、気合十分と言うか……それに心なしかより一層女らしく見えるのだ。まるでこの一晩で彼女達が大人のように成長したような……。
「何だか彼女達の肌にツヤがあるのね。温泉旅行から帰って来たホルンの時の様に」
そこまでセシルに言われて最初に違和感の理由に気付いたホルンの顔がボンっと赤くなる。そして次に彼女達の変化の原因を理解したマホジョは含み笑いを浮かべカインはわざと咳ばらいをしてこの話題を露骨に逸らす。どうやら聴力の良いムゲンの耳にはカイン達の会話が聴こえていたようで彼も大きく咳ばらいをして早く本題に入ろうと訴えている。
「んんッ!! 遅れて悪いなムゲンさん。それじゃあ早速【ディアブロ】の支部を目指そうぜ」
「ああ、それじゃあセシル、案内する前に改めてアジトまでのルートを話してくれるか」
ムゲンに頼まれてセシルは頷くと事前に用意していた地図を全員の目に入る様に広げて説明に入る。
「大方のルートは昨日一度話しておいたけどさらに細かく説明するのね。まず目的のアジトは今日中に辿り着くのは恐らく無理なのね。目的地であるアジトの道中には1つの村があるのだけれどそこがある意味での難所なのね」
「……狼族の村…か……」
当然のことだが第5支部のアジトは人目には付かない場所を想定して構えられている。前回の第3支部も誰も寄り付かないような場所にアジトが建設されていた。だが今回の支部まで続く道中には少し無視できないポイントがあるのだ。
それは狼族が寄り添って生活をしている中規模の村の存在だった。この村についての話は昨日の内からセシルに聞かされている。
「アジトに最短距離で突き進むにはこの村を通過する事が一番の近道なのね。それ以外のルートを選べば遠回りとなってしまうのね」
第5支部までのルートはいくつもあり時間を気にしないのであれば安全なルートも選択できる。だが安全ルートを選択した場合はかなりの遠回りをする事になり1日は時間をロスしてしまう。その他のルートではモンスターの出現率が大きく支部に到着するまでに万が一の事態に陥る危険もある。だが唯一狼族の集落を経由するルートならばモンスターの出現率も一番低くもっともアジト到着まで安全に進める。
だがこのルートには1つの問題点がある。それはこの集落の狼族は元々は他国から追いやられて逃げて来た虐げられてきた者達の集まりであると言う事だ。
「第5支部の建設の際に周辺の地理確認をしてこの村をソウルサックは発見したのね。村には狼族しかおらず私達部下を使って調べてみると他国から追いやられた者達の集まりだと言う事実を掴んだのね」
「でも少しおかしくないですか? それなりに離れた距離とは言え支部の近くに村があるのならば第5支部の者が放置するだなんて……」
人目に忍んで存在する闇ギルドならば周辺の村などは壊滅するのがセオリーだろう。だがソウルサックの指示の元その村は手つかずで放置されている。
だがそれは決して善意からなどではない。その集落に居を構えている狼族は虐げられてきたがゆえに村の中で自給自足の生活を送っている。つまり外の世界との繋がりを隔絶しているのだ。それが放置している理由の1つ、だがソウルサックにはもう1つの目論見があったのだ。
「支部長であるソウルサックはいざとなればこの村を吸収して自分の支部の戦力にしようと目論んでいるのね。狼族は亜人であるために基本的のスペックは人間を超える、だからあえて今は放置している状態を維持しているのね」
「流石は闇ギルドらしい考えですね。人の心のない鬼畜の所業ですね」
侮蔑の入り交じった声色でセシルを見ながらハルが呟く。まるで自分が責めらていれるように思ったセシルが縮こまるとムゲンが軽くハルを叱る。
「おいそんな当て付けみたいな言い方はやめろハル。少なくとも彼女は味方なんだから」
「わ、分かっていますよムゲン。その…申し訳ありませんでした」
ムゲンから説教をされてはさすがにバツが悪くなりセシルへと頭を下げる。だがセシルの立場からすれば今は離反したとしてもそのギルドで活動をし続けていた立場なのだ。だから気にしないで大丈夫だと頭を下げるハルに伝える。
「しかしこの話を聞くと第5支部はやはり放置しておけないな。第5支部を放置し続ければその村も近い未来襲撃されるかもしれないからな」
そう言いながらソルは隣で俯いているウルフを心配そうに横目で様子を伺う。
同じ狼族である彼女からすればこの話はとても悲しいものだろう。自分と同じ種族の者が虐げられ国を追われ、その上さらに闇ギルドに利用されるかもしれないのだ。この中で誰よりも一番胸を痛めているだろう。
「昨日も話した通り私達はこの狼族の村を超えるルートを通過するのね。ただ狼族の者達は外の者達に対して恨みを抱いているのね。その村の住人が黙って通行を許可してくれるかどうか、それがアジトまでの最大の難所なのね。私はいつも<ステルス>の魔法を使ってこっそり通ってはいたけど……」
セシルの懸念点はもっともだろう。外の世界との繋がりを絶っている者達とひと悶着にならなければいいのだが……。
多少の不安点は残りはするがこうしている間にもミリアナはどんな状態にされているのか分からない。1秒でも早く第5支部に辿り着かなければならない。
「それじゃあ案内を頼むよ。みんな……誰も死なずに必ず帰って来るぞ」
そのムゲンの言葉にこの場に居る誰もが決意の灯っている瞳を彼に向けて頷いた。
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