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第5支部での出来事


 闇ギルド【ディアブロ】第5支部の支部長であるソウルサックは乗っ取ったミリアナの体を制御して剣を振るい続けていた。

 ミリアナの肉体を通して振るわれる剣速はもはやSランク冒険者ですら視認する事が困難なほどの域に達していた。


 「随分と自分の精神とこの少女の肉体が馴染んできましたねぇ」


 ダンジョン内で彼女の肉体を乗っ取った時はまだミリアナの精神が多少の邪魔をしていたせいで完全にこの肉体の持つポテンシャルを引き出し切れていなかった。だからこそ逆に真の力を解放して十全にコントロール出来るようになったムゲンに一方的に押され逃げる羽目になった。

 だが今のソウルサックは自らの手に入れた新たな肉体に歓喜していた。


 まさかこの少女にこれだけの力が秘められていたとは。今の自分ならばあのムゲンと名乗っていたハーフ竜も仕留められそうだ。

 

 ソウルサックは乗り移った人間と自身の相性によってその肉体の持ち主の秘めたる力の引き出せる割合が変化してくる。これまで器として利用してきた人間の中でも最大で八割程度までが力を引き出せる限界値であった。だがSランク冒険者であり《剣士》であるミリアナの肉体とソウルサックは過去一番に相性が抜群だった。取り付いた直後から時間も大分経過し今のソウルサックはこの肉体の力を100パーセント引き出していた。いや、ミリアナの力にソウルサックの魔力によりそれ以上の力を手にした状態となっていた。


 「やはりこの体は素晴らしい……あの時に無様に逃げる事しかできなかった雪辱は晴らせそうですね」


 自分の手にした過去一番の戦闘力に酔いしれていると何やら耳障りの声が聴こえてきた。


 「おい一体いつまで俺は我慢し続けなきゃならないんだ!!」


 興奮気味に荒い呼吸を繰り返しながらやって来たのは最近この第5支部に加入した元冒険者のモブルであった。

 ムゲンに追い込まれていた時に逃がしてくれたのはこの彼だ。しかもその際にモブルは見返りとしてこのミリアナの肉体を求めて来た。当然のことながらソウルサックには約束を律儀に守る理由はない。だが彼はこの【ディアブロ】の一員に入れてほしいと自ら志願してきたのだ。


 「(仮にも表側のギルドではAランク冒険者だった男。こちらのギルドに加入してくれるのならばそれなりに歓迎すべきですからねぇ)」

 

 もしモブルが取るに足らない雑兵レベルならばダンジョンから逃げきれたと同時に彼を殺していた。だが平均以上の実力を持ち自分達のギルドに加入したい者ならば利用した方が利益になる。そう思い彼を自分の支部に招いたが最近では選択を誤ったかもしれないと後悔している。


 「あんたを逃がす代わりにその女を俺にくれるって話はどうなっている? もう大分待たされているぞ」


 「もちろん約束は守りますよ。ですが知っての通り自分は剣です。相性の良い次の肉体が見つかるまでは我慢してください」


 「たくっ……」


 納得のいかないと言った表情をしつつもソウルサックの操っているミリアナの笑顔を見てモブルの鼻の下が伸びる。

 その気色の悪い視線にミリアナの顔を通してソウルサックの額に血管が浮き出る。


 ああ気持ちが悪い、この自分を舐め回すような視線……そろそろ我慢の限界ですよ。


 とは言えここでへそを曲げるような事を言えばますますこじれそうなので表情は笑顔を向けたまま彼には下がってもらった。そして入れ替わる様に次にやって来た相手はこの第5支部の副支部長であるエルフ族の女性のハレード・パルメスであった。


 「まったく…ギルド加入したての新人が随分と粋がっていますね。あなたもあのような横暴な態度をどうして許しているんですか?」


 「仕方がないじゃないですか。第3支部が壊滅してから今は戦力が低下してしまったんですから。使えそうなものは使うまでの事、下手にへそを曲げられては困りますからね。それに一応は命の恩人ですしね」


 「本気でそう思っていないくせに…はぁ、まあいいです。それよりも例のセシルの件についてのご報告が」


 「ああ彼女の暗殺の件ですか。ついに仕事を完遂してくれましたか?」


 ソウルサックの問いに対してハレードは首を横に振って否定をする。


 「相変わらずですよ。相当な手練れの様で中々暗殺の隙を見つけられず今も様子見の状態です」


 「………もう駄目かもしれませんね彼女は」


 ライト王国内に潜むとある冒険者の暗殺任務が本部の方から下った。その任務を部下のセシルに一任したがこの期に及んでも未だに任務を果たせていない。

 ソウルサックが口にした『駄目かもしれない』と言う発言は闇ギルドとして置いておけないと言う意味だ。言うまでも無く闇ギルドは表の法に背く行為を働いている集団だ。人命を奪う事だって珍しくも何ともない。最初は粋がっていた人間の中には精神が摩耗していき病んでしまう者も居る。

 

 「セシルは実力的には一般兵を遥かに上回ります。それに暗殺は彼女の得意分野、いくら標的が本部に居るマスターがほんのわずかとはいえ警戒している相手と言えども暗殺ならば彼女の腕ならとうの昔に果たせているはず。それをここまで先延ばしにしていると言う事は……はぁ……もう彼女は裏の人間としては使い物にならないかもしれませんね」


 「私も同意見です。彼女は表の煌びやかな世界であるライト王国に潜入し続ける事で足を洗いたいと考えている可能性が極めて高いです。次にこのアジトに帰って来た時には反逆者として始末した方が良いかと」


 仮にも自分達のギルドの人間に対して副支部長は冷酷に斬り捨てる算段を整え始め、それに対してソウルサックも否定せずそのように対応するように命を下す。


 「そう言えばセシルのターゲットにしている相手ってどんなヤツでしたっけ?」


 「あなたと言う人…いえ剣は…はあ……」


 いつも支部長であるソウルサックは血を求めて外に出てばかり、この支部を纏め上げて上手く回しているのは実質このハレードであった。基本的に本部からの命令を聞くのもハレードの役目となっておりソウルサックはターゲットについて詳しい情報を持っていなかったのだ。

 我が支部のリーダーに対して頭痛を感じつつもターゲットとしている相手についてハレードが説明をする。


 「セシルの標的はライト王国のファラストの町にある冒険者ギルド【ファーミリ】の冒険者ムゲン・クロイヤと言う少年です。以前にも説明したじゃないですか」


 「……ムゲン……え、ムゲンって言った?」


 「そうですよ。名前すら憶えていなかったんですね」


 やれやれと呆れつつ纏めておいた書類を投げるように置いていくとそのままハレードはまだ未処理の書類を片付けへと戻る。


 「はは……どんな運命のめぐり合わせですかね」


 ミリアナの肉体を見つめながらソウルサックは怪しく笑う。

 まさか自分が必ずその血を啜ると決めたあの男が自分の部下の抹殺対象に入っていたとは思いもしなかった。日頃から雑務をハレードに任せていた故に起きたこの事態……これはもう運命としか思えなかった。


 「最強のこの女の肉体、そしてあのムゲンの血を吸えば自分は間違いなくさらに上の領域へと至れる。そう……ギルドマスターであるオーガ・ドモスをも超えられる」


 ソウルサックが力を求める理由など1つや2つではない。その大抵の理由が下らぬものだがその中で力を手に入れなければ成し遂げれない事があった。


 「いずれオーガの首を自分は必ず獲って見せる。だが今の自分ではまだ無理だ。しかしムゲン・クロイヤ…あなたの血を啜れば自分はあの男の肉体をも切り裂けるようになるはずだ。この世のどんな武器よりも強大な力を宿した1本の剣になれる」


 そう言いながらソウルサックは本体たる自分自身をミリアナの瞳を通して見つめながら呟いた。


 「ああ…早くあの少年の血が吸いたくて仕方がない……」


 幼馴染の顔に浮かんだソウルサックのその笑みはだらしなく緩んでいた。

 自分の刃にあの純粋な竜を上回るムゲンの濃厚な血が吸い取られていく光景を想像すると恍惚のあまりおぞましい笑顔を隠さずにはいられなかった。


 「ああ…早くあなたにまた逢いたいですよムゲン・クロイヤ。この幼馴染の手で殺されるのならばこんなに嬉しい死に方はありませんよ」



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― 新着の感想 ―
[一言] 流石モブル、名前に恥じない見事なmobっぷり。 まさかの「おあずけ状態」とはwww そりゃあソウルサックの依代だもの、手ぇ出せるワケないですねw やー、それにしても、既に支部の方でもセシル…
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