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アルメダの第二人生 1

悩んだ結果アルメダちゃんもヒロインの1人に決定しました。ムゲンと離れている頃の彼女が何をしていたか番外編で語ろうと思います。


 ムゲンと同じ故郷で育ち、そして村人達によってその命を落としたアルメダ・クーデレ。

 理不尽な言いがかりから殺された彼女は強大な恨みを抱えて命を奪われた。実の両親からすらも見放されて死んでいった結果、彼女は〝怨霊〟となって現世に留まり続けていた。だがこの村で同じく村人達から冷遇されていた少年ムゲン・クロイヤに手を差し伸べられ、紆余曲折を経て今は生身の人間と遜色の無い肉体を手に入れて第2の人生を歩んでいた。


 「畑の水やり終わりましたよスーザンさん」


 「ありがとうねアルメダちゃん」


 商業都市トレドで無事に肉体を手にしたその後、アルメダはまた村に戻っていた。その理由としては自分が本当にやりたい事は何か、それを考える時間が欲しかったからだ。その際にスーザンが自分の家でしばらくは一緒に生活をしようと提案して今に至る。


 これまで恨み辛みと言う負の感情を散々与えられ続けられたこんな村でもやっぱり自分の生まれた地なのだ。だから今の自分とスーザンしか居ないこの村の現状について何度も同じことを考えてしまう。


 それにしてもこんな広い村だと言うのに生活しているのは今やスーザンさんだけだなんて寂しいものね。まあその原因を散布したのはこの私なんだけど……。


 だが元はと言えば理不尽に自分を殺したこの村の大部分の村人が原因なのだが、それでも自分の振りまいた〝呪い〟がこの廃れた光景を作り出してしまったと考えると悲愴感を感じてしまうものだ。

 

 「気に病むことはないのよアルメダちゃん」


 どうやら自分は相当わかりやすく顔に出ていたようで何も言わずともスーザンが優しく声を掛けて来た。


 「あなたは自分のせいで村が廃れたと思っているのかもしれないけどそれは違うわ。あなたが呪いを振りまいたんじゃないわ。この村は初めから呪われていたようなものなのよ」


 この発言は同情ではなくスーザンの偽りのない本心からくる言葉であった。

 自分の息子と言いアルメダと言い同じ心を持つ人間を集団となって追い詰める、その行為に対してこの村のほとんどが罪悪感を抱いてすらいなかった。人としての心を持ち合わせていないこの村は初めから呪われていたようなものだ。この村で生活できなくなり村の外に追い出された事だって自業自得の当然の末路だと言えるだろう。


 「少なくとも私はあんな非道な村の連中よりもアルメダちゃんの方が心の優しい〝人間〟だと思っているわよ」


 そう言いながらスーザンは背後から彼女を優しく抱きしめてあげる。

 

 「ありが…とう…ございます」


 正直言ってスーザンが時々してくるこのハグは慣れなかった。決して抱きしめられる事が嫌と言う訳ではないのだ。ただ――涙が零れそうになる。

 実の両親すらからも命を奪われた彼女は親から渡される愛情に不慣れであった。まだ迫害を受ける前まではアルメダの両親も普通に愛してくれていた。だがその愛は見せかけだった。そうでもなければ村の人間達に同意して自分を殺す事に賛成などするものか。

 だがこの女性はまるで違う。実の息子が自分と同じように理不尽に迫害されても周りのクズに同調せず、最後まで息子を愛し続けていた。もちろん今だってそうだ。これこそが真の愛情を持っている正真正銘の母親と言えるだろう。そんな人物から向けられる愛情は自分のような裏切られ脆くなった心を持つ人間にはあまりにも酷であった。


 「(でも…なんだかんだ言っても抱きしめられるたびに胸がじわーっと温かくなる。だから拒めないんだよね…)」



 ◇◇◇



 一日が終わり日が沈みスーザンの待つ家に戻る前アルメダは必ずあの場所に立ち寄っていた。

 

 そこは自分が殺された忌まわしき場所、そして自分が救われた場所でもある村の外れの池であった。


 もうこの村でスーザンと共に生活を続けて数日経過するがアルメダは未だに自分の本当にやりたい事が見つからなかった。いや、正確に言うのであれば見つけたのだ。今の自分が本当にやりたい事を……。


 「あいつの力になりたいなぁ…」


 怨嗟に縛られていた自分をムゲンが解放してくれた。そして霊体であった自分の為にわざわざ足を運んで体まで用意してくれた。


 いくら同じ村の人間だったとは言え怨霊である私になんて関わらない方が絶対に賢い判断なのに、それでも彼は私を絶望の淵から救い上げてくれた。

 本音を言うのであれば自分も彼と一緒に付いていきたいと言う想いはあった。だが闇ギルド相手にも果敢に戦いを挑める勇ましい彼を見ていると自分の様な何もない女が付いていく事がおこがましく感じた。


 「今の私はただ無駄にスタイル良いだけの村娘と変わらない。はあ…怨霊だった頃の力が今の私にもあればなぁ…」


 そう愚痴を零しながらアルメダは水面に映る自分を見つめる。


 「ねえアルメダ、あんたはどうしたいの? 彼に付いていきたかったなんて思っているくせにどうしてこの村に留まり続けるの? スーザンさんとの生活が心地良いからなの? それとも自分に負い目があるから?」


 水鏡の世界に住んでいるもう1人の自分に問いかけるが返事などあるはずもない。

 意味のない自問自答をしていることを自覚するとますます気が重くなる。


 「帰ろうっと……」


 溜息を吐きながら今日もまた答えを保留して帰路へとつくのだった。



 

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