恋人達と進むさらに先の関係
ヘタレな主人公が大人になります。
セシルから第5支部のアジトの場所を掴んだムゲンはすぐにでもその場所へと赴こうとする。だがアジトのある場所は中々の長距離であり何の準備もなく【ディアブロ】支部に向かうのは危険すぎると判断して出発は明日と言う事になった。ムゲンとしては少し不満もあったがセシルの言う事の方がどう考えても正論なので渋々従った。
そして第5支部の突入に関してはムゲンとセシルの二人だけでなく両者のパーティーメンバーも同行すると言って来たのだ。
自分とセシルに付いてくると言って来た仲間達との会話を思い出す。
『本当に良いのか3人とも。これはギルドからの正式な依頼でもない、言ってしまえば俺の我儘なんだぞ』
『一緒に行くに決まっているだろ。相手は大規模闇ギルドの支部だぞ? お前にもしもの事があったら私達だってこの先悲しみのあまり生きていけないじゃないか』
そう言いながらソルはムゲンの背中に抱き着いてきた。
他の二人も同じ思いと言わんばかりに覚悟などもう済ませている瞳を向けて来る。
『ムゲン君の言葉で救われて今の私が居る。そのムゲン君が戦うと言うのであれば私だって隣で戦いたい』
『ウルフさんに同意見です。それに私やソルだって過去にムゲンさんから命を助けられたから今があります。だからムゲンさんの我儘に付き合うなんて当然のことです』
本当ならばこれは自分の故郷の因縁でもある。そう言って大切な3人を依頼でもないこんな戦いに巻き込みたくはなかった。だが自分と一緒に戦ってくれると覚悟を示してくれた恋人達にその対応はむしろ不義理だと思いそれ以上の反論をするのはやめた。
そしてセシルのパーティーメンバーも彼女達と同じ気持であった。大切な仲間を1人ぼっちにはさせないとカイン達もこの支部突撃に参加する事にしたのだ。
それにしてもあのホルンがあそこまで仲間の為に熱くなるなんて……何だか嬉しいな……。
かつては自分と言う仲間を蔑ろにしていた彼女、だがセシルの為に今は共に危険な闇ギルドに乗り込む覚悟を見せていた光景を思い出すと何だか嬉しくなる。それにどうやらソルとも親友、とまではいかないが普通に会話をするほどには良好な関係になっていた。何しろあのソルがホルンに敵意を向けるハルを諫めていたぐらいなのだ。
もしこの中にあの2人も居てくれたらな……。
ホルンの事を考えると必然的にマルクとメグの事を考えてしまう。まあ今更どうしようもないことだが……。
「しかし【ディアブロ】の一員であるセシルですらも『本部』の場所は把握できていないとはな」
今回はあくまで第5支部が目的なので本部の方には用はない。だが聞けば本部の明確な所在地は幹部ですら知らないらしいのだ。本部へと招集される者はその都度に知らされたポイントまで移動して転移魔法で直接本部のアジト内に飛ばされるそうなのだ。
自らの部下、それも幹部達にまでここまでの徹底ぶりを強いているのならば本部の場所が未だに検討すらつかないのは無理もないのかもしれない。
「まあ今大事なのはあくまで第5支部の方だ。とにかく明日に備えて支度を早くしないと……」
一通りの準備を終えるとムゲンはそのまま自室のベッドの上に寝っ転がった。
明日に備えて今日は夜更かしなどせず、すぐに寝てしまおうと考えての行動だったがいつもよりも就寝時間は遥かに早い。当然だがまだ目もさえており中々寝付けないでいると……扉が何者かにノックされる。
「入ってもいいかムゲン?」
扉の向こう側からソルの声が聴こえてきた。だが扉の向こうから感知できる気配は3人分だ。おそらくはハルとウルフも居るのだろう。
「何か用かソル? 明日に備えて今日は早く寝た方が良いんじゃ……」
「頼む、かなり大事な話がある」
1枚の扉を隔てた向こう側から聴こえてくる声は真剣身を帯びており入室を許可すると3人が入って来た。
「一体どうした? こんな時間に大事な話って……」
「なあムゲン、お前はどうしてミリアナを助けるんだ? それは幼馴染だからか? それとも……彼女が『好き』だからか?」
そう言いながらソルはどこか不安そうな瞳を向けてムゲンへと問いかけた。
何故こんな質問を彼へと繰り出したのか、それは恋人達が不安を感じたからだ。
自分達を大好きだと言ってくれた大好きな少年が何だか幼馴染に盗られてしまう。浅ましくみっともない考えと理解しつつも幼馴染の為に敵の支部にまで乗り込もうとする彼の姿を見て不安に駆られてしまったのだ。
そんな3人の想いを読み取ったムゲンは包み隠すことなく真実だけを口にする。
「俺がミリアナを助ける理由は彼女はずっと俺を守り続けていた恩人であり大事な〝幼馴染〟だからだ。正直に白状するなら彼女は俺の初恋の相手だったのかもしれない。でもそれは昔の俺なんだ。今の俺にとって恋を感じている相手はお前達3人だよ。だから変な心配なんてするな」
そう言うと不安そうにしている3人の頭を撫でて上げる。
頭部に乗せられるムゲンの温かな手に心がほぐれて幸せな気持ちになる恋人達だが、この時間に彼女達が訪れた最大の理由は他にあった。
「あのムゲンさん……もしも、もしも今のセリフが真実だと言うのならば証明してほしいです」
「証明ってどういう……?」
ハルの言っている意味が解らずもう少し詳しく話を聞き出そうとするとウルフが頬を赤く染めながらこう言い放った。
「……私達と一緒に大人になってほしいです」
「…………うええええええ!?」
しばし言っている意味が理解できず考え込むがその意味を理解して思わず顔が真っ赤になる。
「そ、それは……」
「それはまだ早い、なんて言い訳はもう聞き飽きたぞ」
そう言いながらソルは少し眉を吊り上げて睨みを利かせる。
「私達を本気で好いてくれているなら……愛しているのなら証拠を見せてくれよ。私達だってムゲンが本気で私達を好きなんだって証拠が欲しい。誤魔化され続けるのは……やっぱり寂しい……」
そう言いながらソルは悲しそうな顔を見せて来た。その表情を見るとムゲンは自身が彼女達に不安を植え付けている事が理解できた。誰よりも大好きな3人に対して他でもない自分がだ。
「……わ、分かったよ」
今まで誤魔化し続けていた少年は恥ずかしそうに俯きながらも了承の言葉と共に確かに頷いた。
こうしてこの夜、4人の心はより一層強く繋がりあったのだった。
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