必ず助けて見せる!!
戻って来て早々にムゲンは告げられる衝撃事実に驚きを隠せなかった。まさかかつての仲間であるホルンのパーティーに自分の命を狙っていた刺客が今の今まで同じギルド内に潜んでいたなどとは流石に予想不可能だ。だが彼が驚いた理由はそれだけではなかった。目の前の彼女は第5支部所属と言っていた、つまりソウルサックと同じ支部の人間と言う事になる。
「話は分かった。それで確認したいんだがセシル……お前は第5支部の一員って事はその支部のアジトの場所は掴んでいるのか?」
「え、それは勿論なのね。自分の所属している支部のアジトの居場所を知らない方がおかしな話なのね」
セシルの口から出て来たその言葉はムゲンにとって喉から手が出るほどに欲しかったものであった。
「本当に本当に第5支部のアジトがどこにあるか知っているんだな! じゃあソウルサックって言う幹部についても知っているんだな!?」
「そ、それは勿論なのね」
興奮のあまりセシルの肩を掴んで少し体を前後に揺さぶってしまう。
あまりにも取り乱した行動を取るムゲンに対して周囲の者達は戸惑いの表情を浮かべる。
「お、おいどうしたんだムゲン? お前何だか様子が変だぞ?」
背後からソルが困惑気味にムゲンの肩を掴んで落ち着かせようする。
「わ、悪い。あまりにも嬉しい情報を得られたために取り乱してしまった」
「嬉しい情報ってどういう事ですか? その人はムゲンさんを殺害しようとしていた方ですよ?」
事情を一切知らない者から考えればムゲンの発言は矛盾しているだろう。自分の命を狙っていた、そんな告白をされれば身の毛がよだつ方が自然だ。にもかかわらずムゲンは彼女が【ディアブロ】の人間と知って喜び出したのだ。
怒るわけでもなく驚くわけでもない、むしろ喜びを露にする彼の不可解な反応にセシルを含め全員が首を捻ってしまう。
周りの皆が訝しむかのような視線を向けている事に気付いたムゲンは咳ばらいを1つすると口を開き始める。
「悪いみんな、命を狙われていたって言うのにこんな反応すりゃ気味悪いよな。今から訳を話すよ……」
全員の視線を自分の方の一ヶ所に集め終えるとムゲンは今回の里帰りで起きた出来事を大まかながらも全て話した。
自分が実は竜と人とのハーフであったと言う事、トレド都市に向かい霊体の少女に肉体を与えてもらった事、そして幼馴染であるミリアナとの再会を果たした事、そしてその幼馴染が闇ギルドのソウルサックと名乗る意志の持つドラゴンキラーの剣に連れ攫われた事を全て説明した。
話を聞いている最中は衝撃的な事実が多すぎて全員が所々で声を漏らすほどであった。
そしてようやくムゲンの話が終えると皆は静まり返ってしまう。その中で最初に口火を切ったのはマホジョであった。
「以前の共同任務の時から化け物じみた力を持ってはいると思っていたけど、体に半分もドラゴンの血が混じっていると考えると妙に納得できてしまうわね。どうりで人外じみている戦力を持っている訳ね」
「あのマホジョさん、いくらあなたとはいえムゲンさんを化け物の様に言うのはやめてください」
いくら過去にお世話になったマホジョ相手とは言え恋人を怪物のように例えられるのはハルや他の恋人達も良い気分ではないので釘をさしておく。
恋人達からすればムゲンが何者かなどどうでもいい。例え彼が半身が竜であろうとモンスターであろうとも大切な人には変わりない。
それよりもハル達が驚いたのはムゲンの幼馴染であるミリアナについてであった。
「幼い頃にムゲン君を故郷から追い出したとは聞いていたけど……それはムゲン君を守るために仕方のない行動だったなんて……」
温泉旅行の時にウルフ達はムゲンの幼馴染であるミリアナ・フェルンと言う人物が行った所業を耳にして怒りを覚えていた。ずっと一緒に仲良く暮らしていたムゲンを非情に村から追放した血も涙もない女だとばかり思っていた。だが本当の正体は誰よりもムゲンを強く想っていた心優しい少女だった。そして無事にムゲンと和解が出来たと思った矢先に闇ギルドに囚われの身となってしまうだなんて報われないにも程がある。
「まさかムゲンの里帰りの中でそんな事態になっていたなんて…」
「ああ…だが俺はこのままミリアナを放置する事はできない。何としても彼女の肉体を連れ去って行ったソウルサックの元まで辿り着かないといけない。だがいきがっていても手がかりがない状態で途方に暮れていたんだが……」
そこまで言うとムゲンはセシルの方を見た。
「神様に感謝すべきかもな。まさかソウルサックの第5支部の人間が目の前に現れるなんて。頼むセシル、アジトの場所を知っているなら俺をそこまで案内してほしいんだ」
そう言うとムゲンは頭を下げてセシルにアジトまでの道案内を頼み込む。今この瞬間にもミリアナがどんな酷い目に遭っているのか分からない。1秒でも早く彼女を救い出したいのだ。
「私としては案内する事に問題はないのね。それに私としても正直ありがたいのね」
「お前にとってもありがたいってのはどういう事だ?」
カインがそう問いを投げるとセシルが訳を語りだす。
「カイン達だけでなく標的であった彼にまで事情を説明した以上はもう私は完全に裏切り者扱いなのね。それにこれだけ長期の時間を費やしても任務を果たせない私を第5支部の連中が見過ごすはずないのね」
「それはつまりあなたの命も危機に瀕する可能性があると?」
ハルの言葉に対してセシルは無言で頷いた。
その事実を知りカインが少し慌て気味で食って掛かる。
「おまっ、それってかなり不味いんじゃないのか? 下手したら【ディアブロ】本部にまで出張って来る事態になるんじゃ!」
「それは多分ないのね。幹部クラスならまだしも私みたいな一支部の戦闘員程度の人間の為にそこまで労力を割くとは考え難いのね。ただ…第5支部の連中は私を始末する為に行動を起こす可能性はあるのね」
そう言うとセシルは覚悟の据わった目をするとカイン達へと告げる。
「私は元々【ディアブロ】の第5支部に乗り込んでそこの支部長の暗殺、いや本体が剣だから破壊を考えていたのね。第5支部さえ潰してしまえば私に対しての追手がこの町に来る不安もなくなるのね」
全てを告白したセシルはたった独りで第5支部へと乗り込む覚悟を決めていた。その結果失敗して自らが命を落としてたとしても仕方のない事だと言う覚悟もだ。
「どのみちあのアジトに向かうつもりだったのね。だからあなたが同行してくれると言うのはありがたいのね」
「だったら話が早いな。俺をそこまで案内してくれ」
「でも本当に良いの? 私はあなたを殺そうとしていた人間なのね。そんな人間を信用するだなんて……」
「そうですよムゲンさん。仮にもあなたの命を狙っていた相手ですよ?」
いくら何でも簡単に気を許し過ぎだと思いついついハルも口を挟んでしまう。
「そのことについてはもう怒りはないよ。彼女にも色々葛藤はあったんだろうがこうして馬鹿正直に俺の前で素性を話したんだ。それだけでも俺はお前を信用する。それに彼女に頼るほか第5支部へ向かう手立ても無い訳だしな」
まるで気にする様子も無くあっさりとそう言い放つムゲンには流石に全員が少し呆れてしまう。だが同時にどこかお人よしである彼ならばと【不退の歩み】に面々は呆れ笑いを浮かべる。
だがミリアナを助ける事に拘っているムゲンを見て【黒の救世主】の恋人達は複雑そうな顔をしていた。
「(待っていろよミリアナ。今度は俺がお前の為に戦ってやる!)」
ミリアナを助けるために決意を固めるムゲン、だがそんな彼に対して恋人達はどこか難しい顔を浮かべながら顔を見合わせていたのだった。
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