真実の告白
カイン達へと全てを打ち明けてひとしきり泣きじゃくったその後セシルは仲間達へとこう告げる。
「私はこの事実をムゲン・クロイヤへとありのまま話にいくつもりなのね」
もう自らの正体や心を偽りながら生きていく事は今のセシルには受け入れがたい事であった。このまま仲間内だけに全てを話して終わり、と言う考えはセシルの中には存在しない。自らの犯そうとしていた過ちをムゲン・クロイヤ本人に話して謝罪をする事でようやく前に進める気がした。
「わざわざ話す事もないんじゃないかしら? 別にムゲン君はあなたの事を何も知らないんでしょう?」
確かにマホジョの言う通りムゲンやその仲間は自分の正体に気付いていないだろう。だがそれでもセシルは一度ムゲンと話をすべきだと言う意思を突き通す事にした。それにムゲンに伝えておきたい事もあるのだ。彼は自分達の【ディアブロ】のギルドマスターから目の敵とされている状態だ。自分が彼を狙う事を放棄したとしても新たな刺客がこの町にやって来る可能性もある。だから危機感を彼に知らせるためにも自分の正体を話しておきたかった。
セシルの意見に対してカインは顎に手をやりながら一理あると考えていた。
「なるほどな、確かにムゲンさんにその事は伝えておいた方がいいかもな。実際に今の今までセシルと言う刺客が同じギルドに居た事にあの人は気付いていなかった。もし今度セシルとは違い本気で彼の暗殺を目論む刺客が出た時の為に用心するように促しておいた方が良いと俺も思う」
「そうね…ああ見えてムゲンは腕は立つけど意外と鈍い部分もあるわ。同じ【真紅の剣】時代にリーダーであるマルクが何度か彼の財布からお金を盗んでいた事にも気付かなかったみたいだし」
「……やっぱり伝えておくか」
ホルンからその話を聞かされると益々不安が膨れセシルの言う通り事情を説明しておくべきだと満場一致で決定した。だがセシルだけを向かわせるわけには行かない。
「今日はもう遅い、明日の昼前にムゲンさんの居る宿まで行って皆で説明しに行こう」
「そこまで面倒みなくても大丈夫なのね。私だけで説明に行くからみんなは来なくていいのね……あいてっ」
同行の拒否を示すとホルンが彼女の頭にチョップをしてきた。
「同じパーティーの〝仲間〟なのよ。自分だけで抱え込んで片づけようなんて思わない事ね」
「……ありがとうなのね。でもまさか仲間を一時期蔑ろにしていたホルンに怒られるとは思わなかったのね」
「その事は掘り返さないでくれるかしら!?」
もう決着した事とは言えやはりホルンにとっては大きな古傷なのでバツが悪い顔になる。その様子を見てカインやマホジョが思わず吹き出してしまう。
いつの間にか場の重々しい空気は霧散していつもの楽し気な【不退の歩み】の姿がそこには在った。
◇◇◇
翌日に仲間達と共にセシルはムゲン達の宿へと足を延ばした。
だがタイミングの悪い事に目的のムゲンは里帰り中らしく話し合う場を設ける事は出来なかった。だが彼の恋人達は全員が宿の方に居たので彼女達にも全てを話した。
「そうですか。あなたがソルドさんの一件のあの時に村に現れた黒ローブの正体だったんですね」
かつて闇ギルドの人間の手によって無理やり黄泉から連れ戻されたソルド・カメアと戦闘を行った村で後から現れた黒ローブの正体が彼女だと知りハルもソルも驚いていた。そして同時にソルは怒りを滲ませていた。
あの村での戦いは彼女にとっていい思い出ではないだろう。何しろ自分のかつての師を都合の良い人形として利用されたのだから。だが自分の師を弄んでいたのはアラデッドであり彼女ではない。とは言え自分の恋人の命を狙っていた相手である以上はやはり多少の怒りはある。
だが分からないのは目の前のセシルはここにきて馬鹿正直に正体を明かしてきた。彼女が一体何を考えているのか理解できずソルが質問を投げかける。
「どうして馬鹿正直に名乗り出た? 実際に私達は誰一人としてお前の正体に気付いていなかったんだ。ムゲンを狙う隙はいくらでもあったんじゃないのか?」
「確かにそのチャンスはあったのかもしれないのね。でも…私は【ディアブロ】よりも【不退の歩み】の方が居心地が良かったのね。もう暗殺者として生きていくのは耐えられなかったのね」
「だとしても最初の頃のあなたはムゲンさんを殺そうとしていた事実は事実です」
悲痛な表情を浮かべて訳を話すセシルを見てソルとウルフはどう言葉を掛けるべきなのか悩んだ。実際にムゲンには何一つとして被害が及んでいないから目の前の少女が【ディアブロ】の一員だと言われても実感がわかないのかもしれない。
しかしハルだけは誤魔化されずにセシルに言い放つ。いくら真実を話したからと言っても自分のやろうとしていた事が無かった事にはならないと。
「私は正直に話したからと言ってあなたを許していいとは思いません。たとえ踏み止まったとは言えムゲンさんを殺そうとしていたのでしょう? もっと言うのであればあなたはムゲンさんに話すことで有耶無耶にしようと言う作為すら感じます」
「ちょっと待ってちょうだい。セシルは最初自分1人であなた達の元まで出向こうとしていたわ。腹の中でそんな企てを孕んでいる人間ならそんな事はしないわ」
「随分と仲間想いなんですね。昔はムゲンさんを蔑ろにしたくせに……」
セシルを必死に庇おうとするホルンの姿にハルが刺々しい発言を突き刺す。ソルとは違い未だにハルは彼女に対して怒りを持っているので普段よりもキツイ態度を向けていく。
不穏な空気になりつつある事を察したウルフは少し大きな声で一度この場を解散させるべきと判断した。
「と、とりあえずセシルさんをどうするのかはムゲン君が決める事じゃないかな。肝心の本人が不在である以上は私達だけで言い合っていても仕方がないと思う…かな……」
「そうね、まあムゲン君が居ない以上は結果は出ない事だし……」
「……ウルフさんやマホジョさんがそうおっしゃるのならば矛を収めます」
自分がいささかヒートアップしていた事を自覚したのかハルも少し熱を冷ますべきだと反省する。こうして今日のところは解散と言う形となりカイン達が宿を後にしようとしたその時であった。
「ただいま、今帰って……どうした?」
何ともタイミング良く里帰りを終えたムゲンが帰って来たのだった。
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