ファラストの街への帰還
今回から新章突入です。
当初の目的を無事に果たしてムゲンは一度母の元へと戻ってアルメダに無事肉体が用意された事を報告に戻った。
予想通りだが元の姿とは相当かけ離れていた彼女を見てスーザンもたいそう驚いていた。まあ無理もないだろう。茶髪のショートヘアーの少女が凄まじいダイナマイトボディの金髪ロングの美少女になって戻って来たのだから。しかも彼女の器は限りなく本物の人間と遜色がない。説明がなければこれが作り物の肉体と気付かないほどだ。
肉体を手にしたアルメダなのだがしばらくはスーザンと共に村で生活を送りながら自分のやりたい事を見つけるつもりらしい。今となっては村で孤独に生活をしていたスーザンも喜んでアルメダを受け入れていた。これによってアルメダの問題は一旦解消された事になる。だがムゲンはまた新たな問題を抱えたままファラストの街へと戻って来ていた。
「くそ…どうしたらいいんだ……?」
ムゲンが頭を抱えて悩んでいる理由は言うまでも無く連れ去られたミリアナについてだ。
結局トレド都市のギルドから協力者は得られなかった。アルメダは恩返しのつもりで自分に力を貸したいと言ってくれたが今の彼女は一般人と変わらない。下手に巻き込むわけにもいかず気持ちだけ受け取っておくことにした。
それに伴いスーザンにもミリアナの件は秘密にしておいた。このことを話せば母も不安になってしまうだろう。まだ死んだと決まった訳ではない、だからアルメダにも口止めをお願いしておいた。だがどれだけ頭を捻って唸り続けてもこの状況の打開策が微塵も見つからなかった。
「あの剣、ソウルサックの潜んでいる支部の場所がわからなきゃどうしようもねぇ」
正規ギルドとは違い闇ギルドとは闇の中に潜み活動を行っている。特に【ディアブロ】に関する有益な情報すらもどこで手にすればいいのか当てがない。この状況…ハッキリ言って詰んでいるとしか思えなかった。
「(何を諦めているようなムード出してんだ俺は? 今こうしている間にもミリアナはソウルサックやモブルのクズ共に何をされているのか分からないんだぞ。弱音を吐いている暇があるならもっと考えろ!!)」
情けない弱音を心の中で漏らしている自分を奮い立たせるつもりで思いっきり自分の頭部を殴りつけてやる。
これまでずっと裏切り者だと思っていたミリアナは本当の気持ちを押し殺して自分を守り続けてくれていた。その事実を知りようやく彼女と和解できたはずだった。それなのに……。
「絶対に助け出して見せるからな。待っていてくれミリアナ……」
たとえ現状では何1つとして情報を持ち合わせていなかったとしてもそれは諦める理由にはならない。
決して諦めない信念を胸に抱いたままムゲンは自分の住み着いている宿へとようやく帰って来た。思い返せば【黒の救世主】のパーティーが結成してから仲間達(恋人達)とここまでの時間互いに離れ離れになっていた事もなかったのでハル達との再会に妙に懐かしみすら感じる。それに精神的に参っている今は早く恋人達の顔を見て一度安心したかった。
「ただいま、今帰って……どうした?」
宿に戻ると丁度ハル達が下の階の一か所に集まっていた。
「おお帰って来たかムゲン。里帰りは満喫できたか?」
ムゲンが戻って来た事に気付いた恋人達も表情がほころんでいた。特にソルは真っ先にムゲンの傍まで寄って来ると肩をグイッと掴んでムゲンを抱きしめて来た。その際に彼女の豊満な胸が顔に押し付けられたせいで恥ずかしさのあまり逆にぐいーっと引き離してしまった。
「何だムゲン。折角の再会なのに抱きしめるぐらい良いじゃないか。本当に照れ屋な彼氏だ」
「す、すまんまだ慣れなくて。それよりも取り込み中だったか? どうしてホルン達がここに居るんだ?」
戻ってきてムゲンの出迎えをしてくれたのはこの宿で同じく生活を共にしている恋人達だけでなくどういう訳か【不退の歩み】の面々も集まっていたのだ。リーダーであるカイン、元【真紅の剣】のホルン、そして新たに加入したセシル・フェロットと元【戦鬼】のマホジョ・フレウラが何やら真面目な顔をしながらこの宿に居る事に疑問を抱いているとハルが事情を説明してくれた。
「その…帰ってきて早々ですがこちらに居る【不退の歩み】の一員であるセシルさんからある告白をされたんです。ムゲンさんにも大きく関係、と言うよりもムゲンさんが一番関係している重大な理由なんですが……」
「どういう事だ? つまりそこのセシルさんが俺に何か用でもあってこの宿に訪れていたって事か?」
ムゲンも眼前に居る【不退の歩み】の面子についての情報は事前に調べて既にいくつか持っていた。その理由としては元仲間であるホルンとも和解をして彼女のパーティーが上手くやれているか心配して内情を把握しておこうと思っての事だった。そしてカインとホルン以外のメンバーであるマホジョとセシルについても調べはついていた。特に一度一緒に仕事をした【戦鬼】のマホジョが加入していた事を知ったときは驚いたものだ。だがもう1人のメンバーであるセシルとはこの4人の中でもっとも接点の無い相手だったはずだ。それなのに彼女は一体自分に何を伝えに来たと言うのだろうか?
まるで接点の見られない彼女が何用なのかと考えているとセシルはゆっくりとムゲンの前まで歩いて来て口を開いた。
「こうして直接話をするのは初めてなのね。私はセシル・フェロット、表向きはこの【不退の歩み】の一員であり――裏の顔は闇ギルド【ディアブロ】の第5支部のメンバーの1人なのね」
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