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ミリアナの後悔物語 5

な…なんとか今日の投稿も間に合った。はあ…疲れた……。


 肉体の内側からヘドロの様な感覚が湧き出てミリアナは己の肉体の自由を徐々に奪われつつある自覚をしていた。混濁していく意識の中でミリアナは自分が握りしめているドラゴンキラーの剣を睨みつけていた。


 い…意識が薄れて……どうしてなの。やっと……やっとムゲンと分かり合えたと言うのに……!!


 自分の所属しているギルドからの調査を任命されて訪れた竜が住み着くダンジョン。そのダンジョン内でミリアナはまさかの人物との再会を果たしていた。その人物とは幼き頃に別れてしまい、その後は数年間と言う長い時間を離れ離れとなっていた幼馴染のムゲン・クロイヤだったのだ。

 最初は早く終わらせようと乗り気でなかったダンジョン攻略であったがムゲンの顔を見てミリアナはこの調査に自分が任命された幸運を祝った。だが当然ながら久方ぶりの再会であるムゲンは自分を拒絶した。


 ――『気安く触るな裏切り者がッ!!』


 差し伸ばした手を叩き落とされてそう言われてしまった。

 誰よりも守りたかった人物からのその言葉はミリアナの心を抉る。だが彼の立場からすれば自分は周りの狂った大人に同調して一方的に故郷を追いやった人間だ。この反応は覚悟をしてはいた。


 「それでもこの結末は…辛いなぁ……」


 やはり自分とムゲンはもう昔のような関係に戻る事は不可能なのかもしれない、そう諦めかけていた彼女であったがまだチャンスは残っていた。


 共にダンジョン調査を任命されたモブル達のパーティーには悟られないように気丈に振る舞いつつ下の階層へと降りていくとミリアナの瞳にポイズンスパイダーに捕食され命の危機に瀕しているムゲンの窮地が飛び込んで来た。

 先程は拒絶をされた彼女であったが今にもモンスターに捕食されそうな彼を見殺しになどできるはずもない。間一髪のところでムゲンの救出に成功し、そのままこの場に彼を放置する訳にもいかず彼の意識が戻るまで膝枕をしてあげた。


 ミリアナの膝に頭を乗せて介抱されているムゲンを見てモブルが気に食わなさそうに彼を睨みつけながら疑問をぶつける。


 「何でそこまでするんですかミリアナさん。そんなヤツなんて置いて行って先に進みましょうよ」


 「……それは絶対にできないわ。彼は……私の幼馴染なのよ……」


 本当ならば同じギルドに人間には隠し通しておきたかったがこの状況ではやむを得ないと判断し彼が何者なのかを全て話しておいた。

 

 この少年、ムゲン・クロイヤは自分と同じ村で育った自分にとって大切な幼馴染である事実を耳にしてモブルの表情は歪んだが今のミリアナには自分の膝の上で意識を失っているムゲンの容態の方が何百倍も重要で気にも留めなかった。

 しばらくして目が覚めた彼は今度は会話程度はしてくれた。だがその表情はとても複雑そうであり自分をちゃんと見てはいなかった。


 やっぱり私は許してもらえないのかな。もしも…もしも私がもっとムゲンを傷つけない選択を見つけられていたらこんな事にはならなかったのかな?


 長年捜し続けていた幼馴染のよそよそしい態度にまたしても涙腺が緩みそうになる。だがそんな自分を叱咤してダンジョンの下層を移動し続けながら懸命に彼へと話しかけ続ける。

 だがとうとうダンジョンの最深部に到達するまでムゲンは自分を見てはくれなかった。そのままこのダンジョンの主である竜との戦闘が始まってしまう。

 

 このダンジョンの最終ボスの力は凄まじく同行していたモブル達のパーティーでは歯が立たなかった。


 「こ、これが竜の力なの。いくら何でも規格外すぎるわ……」


 自ら鍛え続けて来た斬撃も弾き歴戦の猛者であるミリアナの顔にも焦りが浮かぶ。

 するとムゲンが怒涛の攻めで竜の鱗を破壊しようと奮戦する。そんな彼をうっとおしそうに竜は尻尾で弾き飛ばそうとするのが見え止めに入る。


 「させない!!」


 まるでハンマーでも弾いたかのような痺れる感覚が腕に走るが関係なかった。もう自分の目の前でムゲンの傷付く姿を見るのだけは嫌だった。


 「(しまった。尻尾を弾けたのは良かったけど体勢が崩れて……!)」


 自分の体勢が崩れた事は相手の竜にも見抜かれており鋭利な爪を自分目掛けて振り下ろす。

 だが自分の体を引き裂こうとするその竜の一撃を今度はムゲンが横から蹴りを入れて軌道を逸らしたのだ。


 「(え……ムゲン? もしかして私を助けてくれた?)」


 思わず彼の表情を見てしまうが彼は自分を見てはいなかった。ただの自分の勘違いかと思ったがここから自分とムゲンの二人は息の合った連携で竜を追い込んでいった。


 わかる……わかるわムゲン。次のあなたが何をするのかが言葉を交わさずともわかる。


 気が付けば圧倒的な力を持つ竜を自分とムゲンの連携は完全に追い詰め、そしてついに互いの心を通わせた同時攻撃により最強種である竜を撃破してしまった。


 「……やったねムゲン」


 そう言いながら彼を見ると振り返って来た彼は笑ってくれていた。


 「ああ…そうだな。それと…今までごめんなミリアナ。ずっと俺を守ってくれていたのに信じて上げれなくて」


 その言葉を聞きミリアナは涙を流し彼に抱き着いていた。


 ようやく…ようやく長い時を経て自分は大好きな幼馴染とやり直せる。そう信じていたのに………。



 ダンジョンの主も討伐し、そしてムゲンとの和解も無事に果たした。もうこれで一件落着のはずだったのに……。


 ――『だめ…もう意識が保てない。折角ムゲンとやり直せたのに……』


 突如として現れた闇ギルド【ディアブロ】の意志あるドラゴンキラーの剣、ソウルサックによって肉体を乗っ取られて遂に意識まで薄れミリアナは残りの自分の意識を必死に表面に出して最後にひと絞りの言葉を彼に伝えた。


 「お願い…今の内にこのダンジョンから…うぐっ、だ…脱出し…て……」


 その言葉を言い終えるとミリアナはもう意識を保てなくなってしまった。


 これはきっと罰だったのかもしれない。天の神は自分が傷つけた幼馴染とやり直すなど虫のいい話は言語道断だと思い罰を当てたのかもしれない。


 でも……最後にムゲンに許してもらえた。私はそれだけでもう……十分報われたかなぁ……。


 こうしてミリアナの意識は深い闇の底へと沈んでいきもう浮かび上がる事はなかったのだった。



 

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ、これはつらいですねぇ··· 是非とも無事に彼女が助かるよう祈っております!
[一言] ようやくクズ幼馴染の人格が消えたようですな。まあお前の肉体はクソ野郎が存分に使うので心配しないで地獄に行きなさい。
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