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乗っ取られてしまった戦姫


 「ミリアナの肉体を乗っ取っただと……そんな馬鹿な……」


 とてもじゃないがムゲンは目の前の事実を素直に受け入れられなかった。

 確かに相手の体に憑依する類の技などは存在するだろう。だが剣そのものに〝意志〟があり人間の肉体を使役するなど聞いたことがない。武器は人の手で扱われるものと言う大前提を覆す事実に戸惑いを隠せなかった。

 わかりやすく狼狽を見せるムゲンを見てミリアナ、否ソウルサックは剣に頬を当てながら言った。


 「最初の頃は自分には自我と言う概念はありませんでした。しかし竜の血を吸い続けたある日、自分の中に1つの〝欲求〟が芽生えたんですよ」


 ――『もっと竜の血を飲みたい……』


 ドラゴンキラーとして竜の素材から誕生したが故か、それとも竜の血を吸い過ぎた結果起きた現象なのかはソウルサック自身も理解できていない。だがどの剣よりも竜の命を吸い取って来たソウルサックは次第に己の中に自我が芽生えつつあった事を理解していた。最初はただ血を求める程度が次第に知性を身に着け、狂気を宿し、やがては使い手である人間を支配するようになっていった。その結果ソウルサックは武器でありながら人間に使われるのではなく使う側へと立場を逆転させていた。


 「それにしてもこの体は調子がいいですね。前の体は片腕が欠損しても使い続けていた理由は自分によく馴染んでいたからですがこのミリアナと言う少女はそれ以上だ。元は《剣士》であった事も理由の1つでしょうが、乗っ取った直後に調整せずともここまで自分の意志通り動かせるのは彼女の肉体の持つポテンシャルも凡人とは比較にならないからでしょうね」


 そう言いながら腕や脚を自分の意志通りに動かせるかどうか動作確認をする。

 まるで自分の所有物のように幼馴染の体を動かすそのサマを見てムゲンの血液が怒りで沸騰しかける。

 

 「おや何やら気に入らないと言った顔をしていますね。彼女の体を自分に奪われて嫉妬でもしているんですか? あちらで下唇を噛み締めている彼の様に」


 そう言いながらソウルサックは背後で様子を伺っているモブルを指差してケラケラと笑う。その小馬鹿にするような表情を見ていよいよ我慢が出来なくなる。

 

 「もうそれ以上ミリアナの体を弄ぶなよ。今すぐ彼女を解放しろ…」


 「嫌だと言ったらどうしますか?」


 「無理やり引き剥がすまでだ!!」


 これ以上は埒が明かないと判断してムゲンは一気にミリアナを弄んでいる本体である剣を奪い取ろうとする。

 だがソウルサックは不敵な笑みを浮かべたまま剣をゆっくりと自分の首元へと持っていき、そのまま刃で浅く首を斬って見せる。


 「なっ、何をやっているんだ!?」


 完全に予想外の行動を前にムゲンは動揺してその場でたたらを踏んでしまう。

 

 「おや、怒髪天と言った具合で向かって来ておいて何を立ち止まっているんですか?」


 首筋を浅く斬って血を流した状態でミリアナの肉体を操りソウルサックはムゲンへと斬りかかる。

 

 「さあさあさあ、その血を自分に吸わせてくださいよ!!」


 「ぐっ、人の幼馴染の体を使ってふざけんな!?」


 並の冒険者では一瞬で輪切りにされかねないほどの速度で剣を振るい続けるソウルサックの怒涛の剣劇を前にムゲンは回避を選択した。この剣の切れ味は身をもって体験している。受けを選択すれば大量出血は免れないからだ。

 しかし斬撃を躱しながらムゲンは焦りを募らせていた。


 このまるで剣が複数本に分身しているかのような圧倒的剣速、明らかにさっきの隻腕のアイツを操っていた時よりも剣速が上がっている。それにミリアナ自身は操られているにすぎない。下手に彼女の体を傷つけるわけには……!


 「どうやら彼女の肉体を気遣って攻撃に転じれないようですね。ですが自分は遠慮なく攻めさせてもらいますよ」


 そう言うとソウルサックは剣劇の合間を縫って蹴りまで繰り出してくる。

 いつもであればカウンターで反撃を入れるムゲンであるがミリアナを傷つけまいと本体である剣だけに攻撃を当てようと奮闘する。だがソウルサックとミリアナの肉体はかなり適合率が良かったのかムゲンの攻撃を悉くいなしてみせる。


 「またまた隙ありです」


 「あぐっ!?」


 ついにまともに斬撃を腹部に浴びてしまいムゲンが吐血をする。

 斬りつけられる瞬間に斬撃がなぞられる箇所を予測して魔力で強化して致命傷には至らなかったが中々に深いダメージを負ってしまう。

 次第に劣勢に追い込まれていくムゲンは内心である決断をすべきかどうか悩んでいた。


 「(不味すぎる。今のままじゃ俺は間違いなく斬り殺されてしまう)」


 Sランク冒険者の肉体と意志を持つドラゴンキラーの剣、この組み合わせはあまりにも凶悪であった。しかも幼馴染の肉体を傷つけまいとする立ち回りのせいで攻撃も当てる事すら困難な状況だ。離れた場所に居るモブル達もとてもこのレベルの戦いにはついていけないだろう。


 この状況を打破する為の一手――それは自分の中の竜の力を解放し真の全力を出すしか活路が見当たらない状況であった。


 だがこれまで俺は正真正銘の全力を出して見境がなくなった。仮に全力を出して勝負に勝てたとしてもミリアナを取り返しのつかないほどに傷つけてしまったら……。


 自分の力の解放を恐れて思わずムゲンの体が一瞬だけ強張ってしまう。それは目の前の竜を何頭も葬って来たソウルサックの前では致命的過ぎる隙であった。


 「よくこの状況で考え事などできますね? そんな余裕があるんですか?」


 「しまっ……!?」


 自分の過怠に気付いた時にはもう遅かった。既にソウルサックの剣はムゲンの胴を切断しようと滑り込んで来ていた。

 そしてムゲンの肉体に竜殺しの斬撃が食い込んでしまったのだった。



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