遂に現れる最強種
ダンジョンの最深部へと遂に到着したムゲン達は最後の扉をゆっくりと開いて中へと突入した。
辿り着いた最終地点である扉の向こう側は殺風景と言う表現が良く似合う内装をしていた空間であった。広々としているが目ぼしいものなど一切存在しない、ただひらけているだけの何もない空間――ただしその部屋の一番奥には台座があり、その上にはシンプルな部屋とは正反対でド派手な装飾が施されている宝箱が置いてあった。
そして部屋の中心地には一頭の竜が眠りについていた。
「(あれがこのダンジョンの宝を守る番人と言う訳か。正真正銘本物のドラゴン…これが……)」
今この場に居る全員が実物の竜を初めて目撃した。眠りについているにも関わらず放たれる圧倒的な覇気を全員が肌で感じ取っていた。
「(本来ならあの竜を目覚めさせず宝だけを上手く頂く事が定石なんだろうけどな……)」
ダンジョンには主に2つの攻略法が存在するのだ。
1つ目はこのダンジョンが生み出した宝を手にする事。そして2つ目はそのダンジョンの主に当たる存在を討伐する事だ。このどちらかの条件を満たせばダンジョン内に次の新たな宝が現れるまでは新しいモンスターが出現する事がなくなるのだ。そうすることで初めて『ダンジョン攻略』と認められる。
ダンジョン攻略で主に利用される手段は今話した前者のやり方だろう。無駄にそのダンジョンのボスにぶつからず宝だけをくすねる、それでも攻略できるからだ。その逆に純粋にダンジョンの主との戦闘を楽しみたいタイプはボスに挑むだろう。それにボスを討伐してその証拠を持ち帰れば自分の実力の証明にもなる。
とは言えムゲンは別に戦闘狂と言う訳ではない。もしも宝目当てで来ていたのならば今ボスである竜が眠りについているのだ。その隙をついて宝だけを持ち去っていただろう。しかし今回は最奥に設置されている宝ではなくあの竜こそがムゲンの目当ての品物なのだ。
眠りについている今なら大きな初撃を叩き込む大チャンスではある。だがミリアナ達の目的はこのダンジョンの調査及び攻略であるなら俺とは違い無理にあの竜と戦闘を繰り広げる必要はない。さて…どうしたもんかな……。
ここに来るまでムゲンはまだミリアナ達にあの竜が自分の目的であると話してはいない。と言うよりも自分の方から積極的にミリアナと会話をしたくなかったと言った方が良いだろう。まだ感情の整理がついていないのだ。それにモブル達のパーティー、特にリーダーであるモブルは自分を目の敵にしていたのでこちらも気安く話し掛けられる雰囲気ではなかった。
だがミリアナ達からすれば無理な戦闘は避けたいと考えているだろう。そう思いムゲンは事情を説明しようとするが……。
「ダンジョンのボスともあろう竜が暢気に眠りこけているとはなぁ! この一刀で沈むがいい!!」
突然この部屋全体に響くほどの大声量に全員が呆気に取られて声のする方向へと顔を向ける。
一体全体何を血迷ったのかモブルがいつの間にか竜の真上まで跳躍しており剣を上段に構えていたのだ。
「何をやっているのあなたは!? 早まるのはやめなさい!!」
予想を遥かに上回る馬鹿な行動を取るモブルへとミリアナが静止の声を投げつけるがもう手遅れであった。空中に居る彼はそのまま重力に従い眠っている竜の頭部に渾身の力を籠めて剣を叩き下ろした。
――ガキィンッ……。
この場に居る皆の耳に響いてきた音は竜の肉を切り裂くような音ではなかった。何かこう…金属がへし折れるような音だった。
「……あれ?」
竜の目の前に着地したモブルは自分の握っている剣を見て呆然とする。
どんな頑強なモンスターに振るい続けても決して折れる事のなかった自分の剣の刀身が見当たらないのだ。すると何やら目の前から大きな鼻息が顔面に当てられた。
ゆっくりと顔を上げると今まで瞼を閉じていた竜が眠そうに半目を開きながら目の前で呆けているモブルを見ていた。
そのまま竜は寝ぼけた表情のままゆっくりと尻尾を持ち上げてモブルの頭上までもっていく。
「何をボケッとしてんだおまえぇぇぇぇ!!」
気が付けばムゲンは全力で駆け出していた。
頭上に持ち上げられるまではスローモーションであった竜の尾だが、モブルの頭上にセットした次の瞬間にはまるで落雷の様な速度で強固な鱗で覆われている尻尾を叩き下ろしてきた。
自分の頭上から迫りくる命を刈り取ろうとする攻撃に未だ呆然としているモブルの襟首をムゲンは掴むと間一髪で振り下ろしの攻撃を躱せてみせる。
振り下ろされた竜の尾は部屋全体に振動を与え地面には大きな亀裂が広がる。
おいおいただ尻尾を振り下ろしただけでさっきのゴーレムのパンチ以上のパワーを感じるぞ。これが…これが最強種である〝竜〟の力か……。
ただの尻尾の一撃だけで桁違いの力を見せつけられるムゲン達だが怖ろしいことに未だこの竜は寝ぼけているのだろうか。暢気に欠伸をしてやがるのだ。
そして2、3回ほど欠伸を繰り返すとゆっくりと体を起こしてムゲン達を見つめる。その瞳はまるで取るに足らない〝餌〟を見ているかのようであった。
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