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嫉妬心を燃やす女好きの冒険者


 無事に解毒薬により体内の毒も解毒されて肉体面では楽になったムゲンだが精神面ではかなり気まずい状況に陥っていた。


 「だ、大丈夫ムゲン? 何だか顔色が悪いような…」


 「……大丈夫だ」


 介抱をされて起き上がってからムゲンはこのダンジョンの調査に派遣されたミリアナ達と共に行動を取っていた。

 モブルはこんな得体の知れない輩と行動を共にするのは危険だと言って反対したがミリアナが殺気の籠った視線で睨みつけると黙り込んでしまった。

 だができる事ならムゲンとしては1人でダンジョンの最下層を目指したかった。だがミリアナが目指す場所が同じ場所だと言うなら一緒に先を目指そうと提案してきたのだ。心境的にはムゲンとしては断りたい思いであったが、仮にも救助してもらった身としては彼女の言う事を無下にもできなかった。それにこのダンジョンを降りていくにつれモンスターのレベルも上がっていく。単独で突き進むよりも協力者がいた方がムゲンにとってもミリアナ達にとっても互いにメリットもある。


 「大丈夫だよムゲン。もうあなたに降りかかる危険は全て私が排除するから」

 

 「ああ…ありがと……」


 複雑そうな表情で礼を述べるムゲン。それに対し礼を言われると嬉しそうな表情を隠さず表に出すミリアナ。そんな二人の様子を背後から見ているモブルはギリギリと歯ぎしりをしながら恨めしそうに睨みつけていた。


 「くそ…あの野郎。調子に乗り過ぎじゃねぇか。幼馴染だなんていっても別ギルドの冒険者のくせにミリアナさんと何を仲睦まじげにしてんだよ。空気読めやボケ」


 憎悪の籠った視線を背後からムゲンへと向け続けるモブルを心配そうに見つめながら取り巻きの女性達が寄り添おうとする。


 「そ、そんなイライラしないでよモブル」


 「ベタベタするなうっとおしい」


 自分に纏わりつこうとする女達に対してモブルはめんどくさそうに突き放す。

 いつもであれば内心でこそ汚い考えを持つ彼でも外面は優しく振る舞う事を忘れない。自分のパーティーメンバーの女性に対してここまで露骨にウザがる事もしないはずだ。だが自分が今もっとも手に入れたい女があからさまに幼馴染である男に見惚れている光景を見れば苛立ちも隠せなかった。


 「(あいつ俺のことをずっと睨みつけているが気付いていないとでも思ってんのか? はあ…居心地最悪だぜ……)」


 未だ関係が修復された訳でもない幼馴染と行動を共にするだけでもかなり精神的には疲労がくると言うのに背後から恨めしそうに睨みつけられると更に憂鬱だ。恐らくだがあのモブルとやら、ミリアナに対して好意を抱いているんだろう。別に自分は幼馴染と言う関係ではあるが彼女に対して好意を寄せている訳ではない。

 ちなみに普段ならばミリアナもモブルの露骨な視線に気付けるが今はムゲンと一緒に居られる事で意識が彼などに向いていないので気付いていない。ようは男として眼中にないと言う事だ。


 居心地最悪なそんな状態でしばし移動を続けていると通路の前方からモンスターの鳴き声が大量に聴こえてきた。

 案の定モンスターの群れが出現してムゲン達へと迷わず襲い掛かり戦闘に発展する。


 先程は毒を体内に注入されると言う失態を犯したムゲンであったが彼の実力はSランクだ。不意打ちでなく真正面から向かってくるモンスター達を危なげもなく撃破していく。その近くではミリアナも華麗な剣捌きで次々とモンスターを細切れにしていっている。


 「(ミリアナ…お前いつの間にそこまでの実力を……)」


 自分も故郷を出てから随分と成長したつもりだがミリアナも相当に場数を踏んで来たようだ。単純に剣の才能があるだけではあそこまで落ち着いてモンスターを処理してはいけないだろう。自分に迫って来るモンスターを相手に一切の怯みを見せず淡々と切り裂いていく。自らの命を相当な数危険に晒した経験がなければあんな風にはなれないだろう。

 そんな考えを持ちながらミリアナを横目で見ていたムゲンであったが、突如として背後から殺気を感じ取る。モンスターは自分の背後に居ないにも関わらず殺気を感じた事に疑問を持ちつつもその場から1歩前へと飛び出す。するとその直後に今まで自分が立っていた場所に剣筋が描かれた。


 「あー危ない危ない。気を付けてくれないと困るよムゲン君とやら。そんな場所でノロノロとしていて危うくモンスターと一緒に君を斬ってしまう所だったよ」


 そう言いながら振り返るとそこに居たのは穏やかな口調とは裏腹に自分を血走った目で見ているモブルであった。

 彼はミリアナがモンスターに集中しているタイミングを見計らってムゲンへと卑劣にも背後から斬りかかったのだ。もちろん彼の傍にはモンスターはおらず、初めからムゲンを事故と見せかけて殺す為に剣を振るったのだ。


 ミリアナに聞かれないようにムゲンの耳元まで寄ると彼はこう忠告を囁いた。


 「あんまり調子に乗るんじゃねぇぞこのクソが。テメェは幼馴染だとしても別ギルドの冒険者なんだよ。これ以上〝俺のミリアナ〟に下心むき出しの眼を向けて見ろ、その薄汚ねぇ目玉を潰してやるからよ」


 言いたい事だけを一方的に言いきると戦闘に戻るモブル。だがよく見てみると彼は自分のパーティーメンバーの方ではなくミリアナの近くまで寄って戦闘を行っている。自分の仲間であるあの3人の女性の方がかなり苦しそうであるにも関わらずだ。


 「たくっ、ミリアナも面倒な男に目を付けられたもんだな」


 そう吐き捨てながらムゲンは劣勢になりつつあるモブルの仲間の女性陣の方へとカバーに回る。

 自分の仲間が危険に晒されているにもかかわらず未だにミリアナにばかり目が向いているモブルを見てムゲンはどこかモヤモヤした。


 別にミリアナに対して自分はもう好意など抱いてはいないはずだ。だが……あんな腐った性格の男と彼女が結ばれる、そんな未来を想像すると何故か言いようのない嫌な感覚が腹の中で渦巻くのだった。



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[良い点] いつものように、素晴らしい章です。良い更新ペースを続けていただき、この素晴らしいストーリーをもっと見ることができることを願っています [気になる点] くそ、本当にゴミ人間がいる、そしてこの…
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