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どっちのミリアナが正しいんだ?


 くそ、くそくそくそ!! 何なんだよこの濁った嫌な感覚は!?


 今更のように幼馴染面をして自分に対しミリアナは手を伸ばしてきた。そして自分はその手を当然の如く振り払った。何もおかしな点などないはずだ。矛盾している部分などありはしないはずだ。過去に裏切りを受けた自分がこのような行動を取るのは至って当たり前、至極当然の行動のはずなのに……。


 じゃあどうして俺の心はこんなにも影が射しているんだ?


 怒り任せに彼女を拒絶した事をムゲンは何故だか後悔していた。

 本当にあの選択で正しかったのかと胸の中からもう1人の自分が慟哭して訴え続ける。このままではお前は間違いなく後悔し続けると……。


 わからない……俺は一体どうしたいんだよ!? ミリアナの手を取らず彼女の前から立ち去った行為に何が間違いがある? 何も間違いなんてない。幼き頃に俺が故郷でアイツから何をされたのか全て思い返してみろよ!! そうだ、母以外の唯一の味方だと思っていたのに〝化け物〟呼ばわりされた。自分の生まれ育った故郷から追放しようとし、事実追い出された。石を投げられて頭から血が出た事もある。こんな扱いをされてまたやり直そうなんて不可能に決まっている!!


 だが過去の思い出を掘り返すと裏切られる前のミリアナとの思い出だって鮮明に蘇って来る。


 いつも村の子供達からいじめられると身を挺して庇ってくれた。泣いている自分の涙をいつも拭ってくれた。転んで足をくじいて歩けないと駄々をこねているとおぶって家まで運んでくれた事まである。過去の記憶を掘り返すとやはり共に笑いあっていた記憶までぶり返してきてしまう。


 「……本当に、ミリアナは本心から俺を村から追い出したかったのかな?」


 先ほど激情に駆られて鬱積していたドロドロのどす黒い感情を吐き出し終えた後だからだろうか? 今は怒りも引き始め大分冷静に判断できるようになってきた。そして昔の優しかった頃の彼女と急変した彼女を見比べると違和感を覚えてしまう。


 「(よくよく考えればミリアナはある日を境にいきなり攻撃的な態度を取るようになった。まだ俺が〝怪物〟と呼ばれていた最初の頃は何も変わらず優しく振る舞ってくれた。もし俺を本気で嫌っているなら最初から非情に突き放せばいいはずだ。では何故アイツは『ある日を境』に急に冷たい人間になったんだ?)」


 そこまで思考が進んでいくと彼女のセリフを思い出した。


 ――『私の両親はあなたを殺す計画を企てていたの』


 あの時は怒りで脳内が埋め尽くされ完全に正常な思考を失い激情に支配されていたから彼女のあのセリフをただの嘘だと初めから決めつけていた。だがもしも…もしもだ、あのセリフこそが真実だとしたら説明も付く。ある日を境にいきなり幼馴染が急変したその理由に。


 そこまで考察が進むとムゲンはハッとして首を振って全力で頭の中に根付こうとするこの考えを破棄してやった。


 「何を考えているんだ俺は? どこまでおめでたい脳みそをしてんだか……」


 あの辛い過去が全て自分を守る為だった。確かにそれが真実であるなら自分の心はだいぶ楽になる、いや救われると言った方が良いだろう。だが何をもって真実だと言い切れる? 普通に考えれば自分の過ちに途中から気付いて手遅れになってから反省した者の醜い言い訳と考える方が妥当だろう。

 

 ダンジョンを降りながら頭の中は幼馴染の事で埋め尽くされていた。そのせいで視野が狭くなっていたムゲンは天井から忍び寄り飛び出して来るモンスターに気付かなかった。


 「プギャアァァァァァァッ!!」


 「な、なに!?」

 

 奇妙な鳴き声が天井から聴こえたと同時に上を向くムゲンだがその時には蜘蛛が噴射した糸がすでに彼の腕に巻き付いていた。そのまま更に大量の糸をムゲンの全身へとグルグルに巻きつけようとする。


 「舐めるなよこの蜘蛛野郎が!! こんな糸程度で俺を捕食できるとおもうなよ!!」


 全身が繭の様に巻き付き包むよりも早く肌に付着している糸を力づくでぶっちぎろうとする。だがこの糸は粘着性が強く思うように引き剥がせなかった。

 この段階でムゲンは2つのミスを犯していた。その1つはミリアナの事にとらわれ過ぎていて普段なら気付けていたモンスターの接近に気付けなかった事、そしてもう1つはこの蜘蛛の第一撃を避け切れなかった事だ。

 このモンスターの正式名称はポイズンスパイダーと言う。この蜘蛛の最大の特性は噴出する〝糸〟にあった。


 「か…体が痺れて…きた…ぞ……!?」


 そう、ポイズンスパイダーの最大の武器は糸にあった。この糸には微量の毒の成分が含まれており相手の皮膚に触れればその毒が瞬時に回る。毒の強さ自体は弱く即死レベルではない。だがその即効性は凄まじく一瞬触れればその部分の感覚がマヒする。もし腕だけなら腕が痺れるだけで済んだのだろう。だが糸は彼の全身にほんの一瞬の間とは言え〝触れた〟。それはつまり彼の全身に至る部位に毒を回らせたと言う事なのだ。その結果彼は全身が軽いマヒに襲われて動けなくなる。


 「(し…しまった。体が思うように動いてくれない。げ、解毒薬を……!)」


 ダンジョン潜入前に持ち込んでいた解毒剤を即座に飲もうとするが既にポイズンスパイダーはムゲンの目の前まで飛び込んできていた。

 そのままスパイダーは牙を出すとムゲンの頸動脈へと喰らいつこうとしてくる。普段の彼であればこのレベルのモンスターの牙など突き刺さらないだろう。だが体がマヒしている今は筋肉も緩んでいる。


 「ま…不味い。早く回避を……」


 思考だけは正常に働くが悲しいかな。肉体は意志に反して素早く動作してくれずポイズンスパイダーの牙はもうムゲンの首へと喰らいつく直前であった。



 

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